歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

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サティスの危惧

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「スキル使いに蹂躙される未来……ですか」
「あぁそうだ。私はそんな光景を何度も見てきたからな。そう考えずには居られないのだ」
 
 確かにサティスの立場上、勝てる前提で動くのではなく、常に失敗する事を頭に入れねばならない。
 それに、これまでの敗戦の歴史を全て知っているであろうサティスからすれば、そう考えるのもおかしくはない。
 
「確かにスキル持ちを倒すのは至難の業でしょう。しかし、俺は既に搦手砦で三人のスキル持ちを倒しています」
「そんな事は知っている。スキル持ちを倒した事等、魔王軍全体で数えればいくらでもある」
 
 確かにそうだろう。
 これまでの魔王軍と人類の戦争の歴史の長さを考えれば、スキル持ちの被害がゼロだとは考えにくい。
 しかし、ここで折れる訳には行かない。
 
「ですが、我々は一人は野戦、後の二人は砦で仕留めました。それも、数倍の敵を相手にして、です。それに相手の指揮官はここにいるジョバンニさん。彼は軍略にも通ずるお方で、彼と彼の率いる第六騎士団は長年魔王軍と戦ってきた歴戦の猛者です。そんな状況で、我々はたった五百の兵で勝ったのです」
「……それは、まぐれじゃないのか?」
 
 すると、コボルトのアンドゥルが喋り始めた。
 彼は確か自衛隊の当直のように人員の欠員等を報告していた筈だ。
 
「我々は長年スキル使いと戦って来たが、一対一で勝てるものは四天王の方々しか見たことが無い。その四天王も……結局は負けてしまったが……お前達が倒したという相手がどんなスキルだったかは知らんが、勝てるとは思えん」
 
 お、始めて魔王軍の人間から四天王の言葉が出たな。
 どうやら、思い込みではないらしい。
 と言うことはキサラは四天王が全員居なくなった後、もしくは途中で補充された幹部と言うことか。
 取り敢えず、この世界の常識が引き出せたな。
 本題に戻ろう。
 
「まぁ、そう思うのも無理は無いでしょう。あの時、部隊の中には武力に秀でた者は一握りほどでしたから」
「なら、やはりその武力に秀でた者が倒したのであろう? 先程、貴様は自分の手柄のように語ったが、結局はその者のおかげではないか」
 
 今度はリザードマンのカーダが高圧的に話しかけてくる。
 どうやら魔族の方々に俺は嫌われているらしい。
 事あるごとに突っかかってこられる。
 
「あぁ、その事ですが、恐らく佐切殿の言っている武力に秀でた者とは魔王派の方々の事でしょう。彼らなら、第六騎士団を僅か二十名程で抑えてましたよ。いやはや、いきなり人間相手の戦闘に変わって浮足立ちましたが……それが無くても、かなりの手練でした」
「それも、交戦した第六騎士団に死者は出ていませんからね。意図的に致命傷を避けさせていた佐切殿の指示もすごいですけど、それを実行出来るほどの手練をスキル持ちに当てないと言うのは、驚きでした。……というか、佐切殿自身の手で勇者を一人仕留めていますからね? 憶測だけで物を言うのは控えた方が良いですよ」
 
 ジョバンニとキサラのフォローで、俺の当時の指揮を事細かに説明してくれる。
 それを聞いた者達は、皆驚いていた。
 
「何だと……スキル持ちに武力を秀でた者を当てなかった……そんな戦い方、聞いたことが無いぞ!」
「そんな……ならば我々魔族の雑兵でスキル持ちを倒したというのか……というか、勇者を一人倒していたのか……その貧相な体で!?」
 
 カーダとアンドゥルも、当時の戦い方に驚きを隠せていなかった。
 というか貧相な体か……。
 確かに筋肉はついていないが、そう見えるのは仕方が無いか。
 まぁ無理もないだろう。
 
「この世界では強い者には強い者を、が常識かもしれませんが、あの時とった戦略は違う。俺は、数と知恵、そして情報を駆使してスキル持ちを封じた。条件さえ揃えば、スキル持ちは怖くないんですよ。俺が仕留めた勇者も、情報あればこそ。まともに正面から一対一でやってれば確実に負けていたでしょう。要は戦い方です」
 
 そう言うと、魔王軍の諸将は黙ってしまう。
 勝ったことは事実。
 そして、その理由もはっきりした事で、何も言い返せなくなったのだろう。
 すると、魔王が手を叩く。
 
「よし! これで皆も納得してくれたな!」
「……と言うことは……」
 
 サティスは頷く。
 
「うむ。端からお前の意見には賛成であった。私は報告書で詳しく知っているからな。諸将を理解させるには、こうでもせねばなるまい。それに、お前の弁舌も見てみたかったからな」
「……こちらも試されていたようで……」
 
 サティスはフフ、と笑う。
 そして、思い切った決断を下す。
 
「さぁ佐切。お前の戦略を申せ。可能な限り叶えてやろう。お前が侵攻軍総大将だ!」
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