歴史オタクの軍略無双〜外れスキルと国を追放された俺はスキルと歴史知識を駆使して復讐する〜

中村幸男

文字の大きさ
77 / 155

犠牲

しおりを挟む
「動くな! 動けば殺す! 民達も、自分たちの軽率な行動がこの男を殺すことになるぞ!」
「く……」
 
 サナンが先程、魔王派のリーダーだと言ったのが悪かったようだ。
 真っ先に狙われてしまった。
 それにしても大樹にしては軽率な行動に出たな。
 そんな事をしても何の意味もないというのに……。
 
「大樹。この状況で人質を取ってどうするつもりだ?」
「即刻兵を引かせろ。そして金輪際この街には手を出すな!」
「……」
 
 俺は頭を抱えた。
 あそこまで優秀で、他の同級生を置いていった奴がここまで愚かな判断を下すとは……。
 洗脳のせいだろうか。
 
「良いか? もはやこの街の人間はお前についていく事は無い。俺達がここを去ったとしても、お前は町の住民に命を狙われ、逃げる選択肢しかなくなるだろう。お前はもう詰んでるんだよ。大人しくここから去れ」
「……いいや」
 
 丁寧に説明してやると、大樹はナイフをサナンに更に近づける。
 
「こいつを本国につれて帰る。拷問……する必要はないな。スキルですべて分かる。こいつには俺達に逆らえばどうなるかを国民に知らしめる道具として活用させてもらう」
「な……」
「じゃあな! お前の負けだよ!」
 
 大樹は先程からロームから目を離していない。
 ロームの先程の動きでスキルの能力を見破り、決して油断していない。
 恐らく、ロームが視界から消えた途端にサナンに突きつけられたナイフが突き刺さる事になるだろう。
 
「……いいや。そうはさせないさ」
「……何?」
 
 サナンはナイフを突きつけられながらも余裕を見せる。
 
「佐切からあんたら勇者の情報は聞いている。もしあんたらと対峙する事になったら、スキルを持ってない俺達はなすすべ無く負けるだろう。佐切の策がどれ程素晴らしい物でも、一人たりとも死なないで勝つことは難しいだろう……だから、この侵攻作戦が決まった時から俺は死を覚悟していた」
「……さっきから何を……」
「だからこうするのさ!」
 
 佐切は大樹が困惑している隙をついて腰の刀を引き抜く。
 
「っ!?」
 
 しかし、大樹も即座に反応する。
 ナイフはサナンの首に突き刺さる。
 
「サナン!」
「ぐ……なんの!」
 
 サナンは思い切り刀を自身の腹に突き刺す。
 
「ぐ……」
「か……かは……」
 
 サナンが自らの腹に突き刺した刀はサナンの背中を貫通し、大樹の体も貫いていた。
 しかもサナンは確実に大樹を仕留めるため、腹部から斜めに刀を刺し、丁度サナンの背から突き出た刀の切っ先は、大樹の心臓へ向けて出ていた。
 
「ぐ……はぁっ!」
 
 サナンは最後の力を振り絞り刀を身体から引き抜く。
 刀の傷のせいで動けない大樹の拘束を振り解く。
 そして振り返り、動きを止めた大樹の首を容赦無く撥ねた。
 大樹の首が胴から離れ、地に落ちた時、大樹によって斬られた首を押さえながら、刀を地面に突き刺し、杖代わりにしてその場に座り込む。
 
「く……」
「サナン!」
「サナン殿!」
 
 俺とジョバンニさんは即座に駆け寄る。
 サナンの出血量は凄まじい。
 何も対処しなければ数分で死に至る。
 幸い、大樹のナイフはサナンの頸動脈を外れており、そこは致命傷ではない。
 
「……これが、俺の覚悟だ!」
 
 サナンはふらふらと立ち上がり、刎ねた大樹の首を掲げて叫ぶ。
 
「如何に力の無い者でもスキル持ちには抗える! 覚悟と、命を賭せばスキル持ち等怖いものではない! 皆! 抗え! スキル持ちの横暴を許すな! 反スキル至上主義、万歳!」
 
 サナンはそばにいた俺の肩を掴み、俺を使って民を扇動する。
 
「俺は命を賭した。しかしこの男は殆ど被害を出すこと無く三人のスキル持ちを倒してみせた! この男となら、勝てる! ザルノール国に……スキル至上主義のこの世界に!」
 
 群衆は各々叫び、盛り上がりは最高潮に達する。
 ここまでが、サナンの密かに描いてきた描いたストーリーか……。
 流石だ。
 しかし、もう無理はさせられない。
 
「サナン。もう無理するな。休め」
「サナン殿……お見事なご覚悟です。後は我々に任せて……」
「い……いや。まだ……もう一押し……」
 
 しかし、ついに力尽きる。
 サナンはその場に倒れてしまう。
 
「サナン!」
「サナン殿!」
「くそ……いくら私の『神速』でもレナを連れて来るには時間がかかる……誰か! 医者は居ないか! 応急処置を!」
 
 仲間達が駆け寄る。
 一先ず、勝利は収めた。
 しかし、勝利の宴を開く事は難しそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...