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撤退戦

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「撤退だ!一旦態勢を整えるぞ!」
 
 戦車部隊が後退していく。
 各国軍が混同した精鋭中の精鋭。
 今作戦の主力とも言える部隊だ。
 その半数が一瞬のうちに消滅した。
 指揮官である少将も前線の激励に来ていた所、最初の爆破に巻き込まれ生死不明。
 いや、恐らく死んだ。
 今は確認できるだけでも中佐の自分が最高階級だ。
 取り敢えず撤退させなければ。
 
「……あの攻撃はやはり……。」
 
 先程の攻撃について考える。
 かなりの距離があったが、あれは、あの光は使われてはいけない物だ。
 
「大隊長!敵が攻勢を仕掛けてきました!」
「よし!作戦通りやれ!」
 
 敵の戦車が突入してくる。
 が、その多くは建物や物陰に隠れた対戦車兵によって無力化されている。
 更にドローンによる攻撃により、追撃してきた部隊は被害を被っていた。
 因みに米軍は最初の傭兵の蜂起で殆どの無人機を破壊されている。
 この戦場ではドローンを使えるのは我々のみだ。
 
「応戦しつつ後退!対戦車部隊も後退を開始せよ!」
「大隊長!敵の追撃の手が緩みません!ドローンも来てます!」
「ちっ!やはりか!」
 
 やはり南北から来たカナダ軍やメキシコ軍がドローンを提供したか。
 ここでの反転攻勢でこの戦局が大きく変わる。
 戦力を投入してくるのは当然か。
 だが、数は多くない筈だ。
 
『全軍!全速力で後退せよ!』
「っ!全軍後退!全速力だ!」
 
 無線が入り、総員に告げる。
 その数秒後、追撃してきた敵部隊に対し、無数の砲弾が降り注いだ。
 
「……どうやら、戦場の女神が到着したようだな。」
 
 
 
「ドローンによる観測はどうなってる!?」
「奇跡的に効力射です。誤差修正は殆どありません!」
 
 俺達は捕らえられていた事もあり、本来の武器である火砲が用意されていなかった。
 が、各国軍の協力によりなんとか火砲を手にすることが出来た。
 
「よし!撃ち続けろ!この砲弾の雨なら敵もドローンは飛ばせない!周囲の警戒は怠るなよ!」
「了解!」
 
 これで友軍の多くは退却できるだろう。
 だが、戦力の多くを失った。
 大西洋の制海権も握れていない今、援軍も見込めない。
 そして、核を使われた。
 各国首脳部は報復核攻撃を考えたが、自国に被害が出ていない、兵に被害が出ただけなので自国民の支持は得られないだろうと判断し、報復は行われなかった。
 恐らく、アメリカの核攻撃はアイが指示したのだろう。
 そもそもこの戦争は国民が支持した物では無い。
 各国首脳部が自国の危険を感じ、独自に密約を交わした物だ。
 核報復となると、流石に隠密にとは行かない。
 
「友軍の退却完了しました!敵も足を止めたようです!」
「よし!陣地変換!別の友軍を救うぞ!」
 
 こうなったらとにかく一人でも多くの友軍を救うのみ。
 この作戦が失敗することだけは避けなければならないのだ。
 
「急げ!俺達の行動によって、作戦の成否が別れると思え!」
「了解!」
 
 今、友軍を救えるのは俺達だけだ。
 多少無茶してでも助けなければ。
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