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勝利のため

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「……さて、どうしたものか……。」
 
 現在、各国軍司令が緊急で会議を行っていた。
 だが、集まった所を襲われる可能性を考慮し、ビデオ通話にて会議を行っている。
 俺は民間軍事会社の代表として出席した。
 
「アメリカは核を使い続けるだろうな。奴等は勝つことに執着している。そうなればもはや戦争ではない。アメリカからの撤退も視野に入れるべきではないか?」
「いや、制海権を握れていない以上その選択は無い。海を渡って撤退するのは不可能だ。」
「だが、攻撃を仕掛けるだけの戦力的余裕は殆どない。攻勢を仕掛けられても一度か二度が限界だ。」

 フランス、イギリス、ロシアの司令官が会議を続ける。
 ロシアは基本的に消極的な意見だ。
 イギリスは意見を出すこと無く他の人の意見を指摘し続けている。
 フランスは攻勢に出たい様子だが、やはり消極的だ。
 
「だが、このままここで留まっていても核を撃たれて終わる。やはりどうにかして撤退すべきじゃないのか?」
「だが、どうやって?強行突破アラスカまで行くか?」
「そんな戦力的余裕は無いと言っているだろう!」
 
 話が撤退する方向でまとまって来ている。
 が、撤退するのも厳しい。
 
「皆様方よろしいでしょうか?」
「どうした?傭兵。この作戦はお前の発案だ。責任ある発言を求めるぞ。」
 
 やはり、俺の立場は苦しいか。
 だが、それでも良い。

「一つ、策があります。」
「ほう。言ってみろ。」
 
 皆の視線が集まる。
 
「敵は勝つ為に前線に戦力を集中しています。つまり、後方は手薄。後方にいると思われる、敵陸軍参謀総長がAIを保持してると大統領が吐きました。それさえ破壊すれば勝機はあります。」
「……どうやるんだ?分厚い敵の前線をどう抜ける?」
 
 策はある。
 が、賛同が得られるかは分からない。
 
「空挺降下で西海岸に降ります。そこから陸軍参謀総長を探し出し、AIを破壊します。」
「その後は?離脱は出来ないだろ。それに敵の対空放火はどうする?」
 
 そこが問題だ。
 それをどうにか出来なければ作戦自体が失敗する。
 
「中華人民共和国に西海岸に上陸してもらいます。彼の国はアメリカとまだ敵対しているわけではありません。援軍として西海岸に上陸してもらい、それからアメリカ軍と戦闘を繰り広げてもらいます。出来れば対空システムを破壊してもらいたいのですが、出来なくても敵は多少は混乱してるので対空放火は緩くなるでしょう。それに合わせて空挺降下。中国と連携して作戦を遂行します。」
「……良いんじゃないか?」
 
 黙って聞いていたロシアの司令官が口を開く。
 
「それによって前線の敵が減ることが予測される。我々も行動がしやすくなる。それこそアラスカへ抜けるのも可能かもしれない。それに……いや、何でも無い。」
「……だとすればパナマ運河を抑え、大西洋の制海権獲得を援護するのはどうだ?そうすれば勝利することが出来るぞ。」
 
 各司令はここぞとばかりに話し始める。
 どうやら、この作戦は認めてもらえたようだ。
 そして、ロシアの司令官が何を言おうとしていたかも分かる。
 もしアメリカに勝利した後、もし世界が平和になった時にまた傭兵は職を失う。
 またテロが起こるかもしれない。
 この作戦で傭兵を使い潰したいのだろう。
 
「では、我々の作戦は認めてもらえるということでよろしいですか?」
「うむ。認めよう。」
「では我々は準備がありますので失礼します。」
 
 そう言い、モニターを閉じる。
 
「マイク。」
「はい。」
 
 側に居たマイクに話しかける。
 
「今度の作戦、お前は留守番だ。」
「え?」
 
 俺の言葉に疑問を隠さない。
 
「ま、まって下さい!そんな重要な作戦に何故……。」
「お前には別任務を与える。」
 
 懐から一枚の手紙を出す。
 
「今度の作戦は、正直生きて帰れるかは分からんからな。俺が死んだらこれを開けろ。中に任務が書いてある。」
「……今聞いたら駄目なんですか?」
 
 俺は首を横に振る。
 
「駄目だな。これはこの作戦の後に知ることが大事だ。成功すれば俺が直接伝える。」
「分かりました。」
 
 マイクは手紙を受け取った。
 
「……まぁ、心配するな死にはせんよ。」
 
 マイクの肩に手を置く。
 マイクは敬礼して返した。
 マイクは何も言わずにその場を後にした。
 彼もこの重要な作戦に参加したかったのだろう。
 だが、あいつはまだ若い。
 こんな所で死なせるには惜しい。
 死ぬのは俺達だけで十分だ。
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