56 / 182
九州決戦 前夜
しおりを挟む
「小早川殿が!?」
「は!殿は、三郎様に伝言を残されております。」
三郎は小早川秀秋の家臣、稲葉正成と会っていた。
「秀秋様は大願を成就せよと、申されておりました。」
「大願……。」
三郎は小早川秀秋の死を知った。
そして、考えた。
(……早い。想定よりも早いな。予定が……いや、好都合か。)
小早川秀秋の死は三郎の想定するところであった。
少し予定が早まっただけで、今後の動向に大きく影響は出ない。
そう考えたのである。
「うむ、稲葉殿。伝言、ありがとう御座いまする。」
「そ、それと、如水殿は降伏を拒否されました。」
「……長政殿でも駄目だったか……。」
しかし、細川忠興の行動は良い方向に動くという確信があった三郎は動じなかった。
「戦局は我が方が優位。何も問題はござらん。」
「それが……如水殿は決戦をお望みの用で、臼杵城から兵を引きました。」
「成る程……。」
すると、話を聞いていた信包が口を開く。
「しかし、三郎の策が無ければ危うかったな。我が方は完璧に負けておった。」
「うむ、我が蜂須賀や生駒殿も元は黒田についていた身。もし九州で豊臣方が負けていたら毛利も寝返り、豊臣の天下は終わっていたやもしれませんな。」
蜂須賀の言う通り、黒田に味方したのは元々は徳川方に付いた武将達である。
それらを如水が統合し、九州を統一していたのならば、弱腰の毛利は黒田に寝返り、宇喜多、小西らと大阪へ攻め寄せていただろう。
三郎がその全てを崩したのだ。
「では、我々も臼杵へ参りますか。」
「いや、それでは敵に有利になってしまいまする。稲葉殿。如水は熊本へ退いたのでは?」
「そ、その通りにございます!」
三郎は頷く。
「何故、わかったのですかな?」
安国寺恵瓊の問いに答える。
「熊本は九州でもかなり広い平野部を持っておりまする。その北に行けば更に広い平野がありまするが、熊本には熊本城がありまする。」
「成る程。熊本城は堅城。合戦で負ければそちらへ引くつもりか。」
三郎は頷き、続ける。
「はい。恐らくそうでしょうな。我等は北から周り、熊本へ入りまする。抵抗を続ける勢力を傘下に入れる目的もありまする。それに、時をかけて兵を進めることで南から島津殿も来るでしょう。本軍は東から熊本へ向かいまする。」
「そうなれば、兵の数ではこちらが上。更に包囲も出来ている……。流石ですな。」
しかし、三郎は良い顔をしない。
「……しかし、島津殿も本軍も、かなり疲弊しておりまする。あまり無茶はさせられませぬな。……それに、それは向こうも分かっているはず。あくまで抑えとしておき、敵がそちらに兵を置くことで我々がぶつかる敵の数を一人でも減らしておく。それが最善でしょう。」
「……そういうことであれば兵の数では下手をすれば我らの方が下回る。という事ですか。」
恵慶の言葉に頷く。
「もし可能であれば毛利殿の援軍も期待したいのですが……。」
三郎は惠慶を見る。
「成る程。中国地方が手薄になった今、こちらにも兵を避けるでしょうな。では、私が直接お願い申し上げましょう。……ですが、確実に動いてくださるとは申し上げられませぬ。」
「いえ、少しでも可能性があるのならばありがたい。」
惠慶は軽く頭を下げ陣を後にする。
「三郎。兵の数は然程問題ではない。この戦、必ずや勝つぞ!」
「はい。信包様!必ずや勝ちましょう!」
決戦の時は近い。
三郎も如水もそれを理解していた。
決戦の地は、熊本。
西の関ヶ原が始まろうとしていた。
「は!殿は、三郎様に伝言を残されております。」
三郎は小早川秀秋の家臣、稲葉正成と会っていた。
「秀秋様は大願を成就せよと、申されておりました。」
「大願……。」
三郎は小早川秀秋の死を知った。
そして、考えた。
(……早い。想定よりも早いな。予定が……いや、好都合か。)
小早川秀秋の死は三郎の想定するところであった。
少し予定が早まっただけで、今後の動向に大きく影響は出ない。
そう考えたのである。
「うむ、稲葉殿。伝言、ありがとう御座いまする。」
「そ、それと、如水殿は降伏を拒否されました。」
「……長政殿でも駄目だったか……。」
しかし、細川忠興の行動は良い方向に動くという確信があった三郎は動じなかった。
「戦局は我が方が優位。何も問題はござらん。」
「それが……如水殿は決戦をお望みの用で、臼杵城から兵を引きました。」
「成る程……。」
すると、話を聞いていた信包が口を開く。
「しかし、三郎の策が無ければ危うかったな。我が方は完璧に負けておった。」
「うむ、我が蜂須賀や生駒殿も元は黒田についていた身。もし九州で豊臣方が負けていたら毛利も寝返り、豊臣の天下は終わっていたやもしれませんな。」
蜂須賀の言う通り、黒田に味方したのは元々は徳川方に付いた武将達である。
それらを如水が統合し、九州を統一していたのならば、弱腰の毛利は黒田に寝返り、宇喜多、小西らと大阪へ攻め寄せていただろう。
三郎がその全てを崩したのだ。
「では、我々も臼杵へ参りますか。」
「いや、それでは敵に有利になってしまいまする。稲葉殿。如水は熊本へ退いたのでは?」
「そ、その通りにございます!」
三郎は頷く。
「何故、わかったのですかな?」
安国寺恵瓊の問いに答える。
「熊本は九州でもかなり広い平野部を持っておりまする。その北に行けば更に広い平野がありまするが、熊本には熊本城がありまする。」
「成る程。熊本城は堅城。合戦で負ければそちらへ引くつもりか。」
三郎は頷き、続ける。
「はい。恐らくそうでしょうな。我等は北から周り、熊本へ入りまする。抵抗を続ける勢力を傘下に入れる目的もありまする。それに、時をかけて兵を進めることで南から島津殿も来るでしょう。本軍は東から熊本へ向かいまする。」
「そうなれば、兵の数ではこちらが上。更に包囲も出来ている……。流石ですな。」
しかし、三郎は良い顔をしない。
「……しかし、島津殿も本軍も、かなり疲弊しておりまする。あまり無茶はさせられませぬな。……それに、それは向こうも分かっているはず。あくまで抑えとしておき、敵がそちらに兵を置くことで我々がぶつかる敵の数を一人でも減らしておく。それが最善でしょう。」
「……そういうことであれば兵の数では下手をすれば我らの方が下回る。という事ですか。」
恵慶の言葉に頷く。
「もし可能であれば毛利殿の援軍も期待したいのですが……。」
三郎は惠慶を見る。
「成る程。中国地方が手薄になった今、こちらにも兵を避けるでしょうな。では、私が直接お願い申し上げましょう。……ですが、確実に動いてくださるとは申し上げられませぬ。」
「いえ、少しでも可能性があるのならばありがたい。」
惠慶は軽く頭を下げ陣を後にする。
「三郎。兵の数は然程問題ではない。この戦、必ずや勝つぞ!」
「はい。信包様!必ずや勝ちましょう!」
決戦の時は近い。
三郎も如水もそれを理解していた。
決戦の地は、熊本。
西の関ヶ原が始まろうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる