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依頼者 6

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「さて、話してもらおうか?」
「ちっ!やっぱりあんたには通じないか……。」
 やはりこの男達はクレアさんと面識があるようだ。
 なんとなくそうではないかとは思っていたがやはりその通りだった。
「お前に話すことなんか何もねぇよ!」
「そうだ!とっとと失せろ!このくそアマが!」
「そんなでかい態度とる前に自分の胸を大きくしやがれ!この貧乳!」
 手足を縛られ何もできないからと言って言いたい放題のようだ。
 だからといって幼稚すぎな気がするが。
 こんなことで彼女が怒るとは思えないが……。
「……あ?」
 訂正。
 一瞬で空気が変わる。
 彼女から怒りのオーラが見える気がする。
 どうやら彼女は胸については禁句のようだ。
 これからは気を付けよう。
 ……街で初めてあった時にはそんなに小さい気はしなかった。
 まあ大きいというわけでも無かった気はしたが。
「ご、ごめんなさい!」
「う、嘘です!何でも話しますから!」
「ゆ、許してくれぇ!」
 先程までの威勢はどこに行ったのかへっぴり腰である。
「じゃあ、彼の両親は何処に?」
「し、知らん!それは俺達の管轄じゃないんだ!でも、人身売買の部隊に引き渡した!そいつらが今どこにいるかも何にも分からねぇんだ!」
「人身売買!?」
 にわかには信じがたい。
 この国は人身売買を禁じているからだ。
「……やはりか。」
「どういうことですか!?クレアさん!」
 クレアさんは納得しているようだった。
「そうだね、そろそろちゃんと説明しとこうか。」
 こちらを向き、真面目な顔で話してくる。
「最近、異世界犯罪が横行しているのは知っているね?」
「はい。異世界の知識を悪用した犯罪のことですね。」
 クレアさんはとらわれている男達の方を向く。
「そうだ。彼らはその界隈では有名な組織で私も何度も相手にしている。だから何となく君から手口を聞いて、こいつらじゃないかと推測していたんだ。まぁ、同じような手口を使う奴等も沢山いるが、大元は同じだからね。殆どの敵は私を知っている。」
「では、こいつらは異世界人と言うことですか?」
 クレアさんが男達を睨み付ける。
 男達は全力で首を降っている。
 どうやら違うようだ。
「まあ、彼らは末端のようだ。異世界人は基本的に幹部クラスとして、実行部隊の非異世界人に全てを任せている。異世界人は知識をもたらすだけで多額の金が入るという仕組みさ。あ、勿論全ての異世界人が悪人というわけでは無いよ?彼らも元々この世界の住人だしね。」
「なるほど、彼らは手口を聞いて実行するだけで分け前が貰える。この世界には異世界犯罪の耐性が無いからやりたい放題出来る。もし、対策が施されても首都圏や都市部のみ。このような田舎ではやりたい放題出来ると。」
 腕を組み、うなずいて見せる。
「そう、人身売買も地方では密かに行われている物だ。……それにしてもやけに落ち着いてるね、君。両親が心配じゃないのかい?」
「ああ、心配は心配ですけど両親なら大丈夫だと思います。2人とも化け物みたいに強いんで。」
 両親はどちらも武術の心得がある。
 自分は2人に鍛えられたのだがどうやっても勝てなかった。
 この辺りでも勝負事で負けたことが無いらしい。
「そうか、でも早いとこ、見つけてあげないとね。」
「そうですね。あ、そういえばあの爆弾みたいなのは何なんですか?」
 あの時投げ込まれた物には助けられたが説明は欲しかった。
 そういえば、と懐から手のひらに収まる程度の丸い物を取り出した。
「私が作った閃光玉だ。」
「閃光玉?」
 すると、クレアさんは笑う。
「ふふ、私が異世界人と交流したときに聞いた『ゲーム』のモン○ンってやつで使うやつだよ。この国の軍で使われている手榴弾から殺傷力をとことんまで無くして代わりに辺りを光が覆うように改造したものさ。」
「……ゲーム?」
 ゲームとかモン○ンとかよくわからない言葉が出てくるが、どれも異世界の物なのだろう。
 どうやら彼女は異世界人とも一定の交流を持っているようだ。
 異世界人も犯罪者ばかりではなく国に協力的な者も多数いる。
 ここまで技術が発達したのも異世界人の活躍があったからだ。
 それも初代国王が異世界人だったらしく、それを公表することで、協力を募ったのが始まりらしい。
 まぁ、今現在となっては協力している異世界人はいないらしいが。
「あ、そうだ。」
「はい?」
 クレアさんが男達を纏めて立たせて洞窟の外へと連れていこうとしていた時にふと何か思い出したようだ。
「あ、そういえばロイ君、村の問題を解決するというのはボランティアでやっていたから料金は取らないつもりだったけど君の両親の救助まで含めると流石に料金が発生するけど、どうする?」
「え?」
 そもそも金がかかること自体聞いていない。
 というか確かここは全て無料で引き受けてくれるときいていたのだが。
「すいません、お金は……。」
「そうか、そうか。払えないか。ならばとれる方法は1つだね。」
 何となく予想がついてしまう。
研究所うちで働いて貰うしか無いね!」
「えぇ……。」
 いきなりそんなことを言われても困る。
 というかそもそも無料なのだからそれもおかしいだろう。
「で、本音は?」
「うん、君には才能がある。」
 突然変な事を言い出した。
 とちうかさっきのが建前だとあっさり認めた。
「君は観察力が優れている。それに、体もある程度鍛えているようだし、何事にも動じない心の強さまで持ち合わせている。そして、その観察力に洞察力が加われば怖いものなしだ。」
 確かに昔から細かい事に気が付く。
 つまりはそれがどういう意図を持っているのか等の予測まで行ければ良いというわけだろう。
「どうかな?」
「……考えておきます。取り敢えずは両親を助けてこの村を元通りに出来るまではあなたの元でやらせてもらいます。そもそも依頼したのは自分ですし、最後まで付き合うのが筋って物でしょう?」
 すると、自分の返答に満足したのか笑っている。
「よし!ならば決まりだ!今日からよろしく頼むよ!助手君!」
「あくまで解決するまでです。その後の事はその後考えます。」
 どうやらこれからは面倒くさくなりそうだ。
「そうと決まれば取り敢えずこいつらを警察に突きだそう!上の奴等も何らかの行動を起こすだろうからそこから対策を考えていこうか!」
 かなりの上機嫌である。
 まあ、彼女の言う通りにしていけば無事解決出来るだろうから信じてついていってみるとしよう。
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