きょうのご飯はなぁ〜に?

赤花雪夜

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大豆の甘辛煮和えと欲張り恵方巻

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二月三日は節分の日。
私達一家の節分はとても平和だった。
昔は母である私が鬼役をやりその時まだ小さい頃の娘達によく豆をぶつけられたとこの日になるとしみじみ思い出す。
だが、娘達もいい年。もう昔みたいにはいかない。だが、この日には豆はしっかりと私達三人は食べる。私もいい年だが、年を取ると共に食べる豆の量も多くなる。だから毎年豆料理を色々と考え自分や娘達が食べやすいようにと考え中にはスイーツ系ですらも出てしまう。
今日はどんな豆料理にしようかと豆料理のレシピ本をペラペラと捲っていくと大豆の甘辛煮和えに目を止めた。
なんだか無性にこれが食べたいと思ってしまいあらかじめ多めに買っておいた大豆と調味料があるか確認する。
家にあるもので簡単にできるというワードにもそうだがなにより、私の口が欲していた。今日の夕飯にこれを出そうと思い私は買い物に出掛ける。
自転車に乗りいつもの商店街で魚屋さんに行く。今日は節分の日。恵方巻も必要である。大体の家庭はどのような恵方巻を食べているのか、またはどんな恵方巻を買っているのかは私は知らない。大体スーパーやコンビニで売られているものは目にするがうちでは恵方巻は買わない。むしろ自分で好きな魚を選びそれを包んで三人一緒に決められた方角に向かって無言で食べる。それが我が家の恵方巻である。魚屋に着くと魚屋さんを営んでいるご夫婦が私に挨拶してくれた。
「あらいらっしゃい。今日は節分だから来ると思っていましたよ」
顔馴染のある奥さんが私に挨拶してくれると隣にいた旦那さんが色々な魚を薦めてくれた。
「おぉ~来てくれたか。待っとったよ! 今日はサーモンに鮪、鯛に鰤なんかもあるぜ。次女ちゃんは生魚好きだから色々取り寄せちまった」
「もぉ~、あんたったら。本当にあの子達には弱いんだから」
「しょうがねぇだろ。あんな可愛い子が美味そうに食ってるのを想像しちまったら食わせたくなるもんよ」
旦那さんが言うように次女は生魚、というより刺し身がとても好きである。前に刺し身を食べさし次の日は焼魚にしようと魚屋に行くと次女は「刺し身が食べたい!」とご夫婦の前で駄々を捏ねた事があった。そしてご夫婦にここの魚を刺し身にして食べさせたらとても気に入っている事をご夫婦に言うと二人はとても喜んでくれた。その日鮪をサービスで貰い結局その日も刺し身になってしまい焼魚はその次の日になってしまった。
それからこのご夫婦はまたにこうして魚をサービスしてくれたり次女だけでなく長女が好きな魚も取り寄せてくれた。時々ご夫婦が孫に甘いおじいちゃんおばあちゃんに見えてしまう。
「ありがとう御座います。ではそれ全部を三人分生で。あと、烏賊や甘エビも下さい」
「あいよ! すぐに捌くから待っててくれ」
「烏賊と甘エビね」
注文をすると旦那さんは魚を持ってカウンターで魚を捌いてくれるそして三人分魚をパックの中に入れてくれる。ここの魚屋さんは他のと違い新鮮な魚を捌いてくれるという。たまに旦那さんが大きな鮪を手に入れてお店で解体ショーが催した事もあった。その時はたまたま家族三人で商店街によって見れたので娘達も大はしゃぎだった。もちろん捌いた鮪はその場で食べて気に入った人は買っていた。中には何人かの子供が鮪の美味しさの虜になり買ってと駄々を捏ね奮発して買ったご家族が何人もいた。勿論、私もその一家の一人。娘達があまりにも気に入ってしまい次女は「買って! 買って!」と駄々を捏ね最悪泣く始末。
長女も普段我儘を言わない子だが、その時は次女の隣で「買って」と大人しめに言った。
私は二人に「駄目」と言ったら二人は「なら自分のお小遣いで買う」と言う始末。二人が私の家事等で手伝ってくれて貯めたお小遣いを使ってまで食べたいのかと二人の執念に負けて私は鮪を買ってしまった。その時の夜ご飯刺し身になり生姜焼きにする予定がその次の日になってしまった。
「はい、烏賊と甘エビよ」
「サーモン、鮪、鯛に鰤の刺身。三人分!」
「ありがとう御座います。娘達も喜びます」
私はお金を払って家に帰る。
新鮮な魚と烏賊と甘エビはすぐに冷蔵庫に入れて夜ご飯に取り掛かる。
先ずはご飯から。
今日は恵方巻を三人で作るため少し多めに今日はご飯を炊く。
いつもは三合のご飯を五合にしお米を研ぐ。
洗い終わったお米を釜の中に入れ水を入れて炊飯器にセットして蓋をしボタンを押す。
あとは炊けるのを待つだけ。ご飯が炊けたら酢飯をすぐに作らねば。
まずは大豆の甘辛煮和えを作る。娘達と私がだいぶ年をとったから多めに作る。
まずは大豆をザルに入れて出し水を切る。そしてキッチンペーパーで水気を取って平たい皿に移していく。大豆全部に水気を取ったら片栗粉を全体にまぶしていく。
フライパンを出して油を入れて火をつける。
大体中火かな。フライパンが熱くなったら片栗粉をまぶした大豆を入れてコロコロと転がしながら焼いていく。表面がカリッとしてきつね色になったら一旦大豆を皿に移し、油、砂糖、醤油、みりん、ほんだしを少し入れて火にかけながら軽く煮詰める。沸々と煮詰まると火を止めて大豆をフライパンにまた入れて絡めていく。
うまく絡まったら深めの皿に入れて完成。
どんな出来かなと一粒摘んで食べてみると、外はカリッっとして甘辛いタレが美味しくて次に次にと欲しくなる。ましてやこれはツマミにも良い。そう思ってしまうとなんだか酒が欲しくなったが今は我慢。お酒は晩御飯の時に出そう。それにこれだったら娘も食べてくれるだろうと私は家にあった大豆全てを甘辛煮和えにした。
そしてお魚屋で買った魚達を冷蔵庫から出して棒状に切っていく。他にもきゅうりや卵、干瓢なども用意する。
皿に移してラップをかけ冷蔵庫に戻しご飯が炊けるまで家の事をしている。
暫くするとご飯が炊けるアラームがなり急いで炊飯器の所に向かった。
すし桶ときれいなふきんを用意して炊飯器を開ける。暖かくほくほくとしたご飯を布手袋で釜ごと持ち上げすし桶の中にドッと入れる。そして、米酢、砂糖、塩を混ぜた酢を炊き立てのごはんにすし酢をしゃもじに伝わせるようにして、全体にまわしかける。しゃもじでごはんとすし酢を混ぜてある程度混ざれば、あとはごはんのダマをなくすようにしゃもじを横に切るように、細かく動かす。
ダマなく、全体がすし酢をまとってつややかに輝くまで混ざりあってつややかに仕上がれば、すし飯を広げてうちわなどでパタパタと扇いで冷ます。表面の熱が取れたらしゃもじで上下を返して、全体が人肌ほどの温度になるまで冷ましたらきれいなふきんを水に濡らして絞り、すし飯を上から被せ乾燥を防ぐ。昔はラップにかけて冷蔵庫に入れたらすし飯が固くなって娘達もその時はいやいやと食べていた。あれから色々と勉強してすし飯は常温。乾燥防止は大事と知った。
次女が帰ってくるまで数分。長女は三時間位で帰ってくる。
家の事をしながら野菜に水やりをしていると次女が帰って来た。
「ただいま!」
「おかえり。早く着替えて手を洗って来なさい」
走りながら「はーい!」と自分の部屋に元気よく行き思わず笑ってしまう。水やりを終えてリビングに上がると次女が紙袋をテーブルの上に置いた。
「これは?」
「学校の先生が生徒皆に甘納豆を配ってた。それで商店街の顔馴染の人とか知ってる人達がお豆のお菓子沢山くれた。和菓子屋さんは豆大福」
そう言って紙袋に入っている物を全部出すと豆系のものばかり。しかも二袋も。甘納豆や豆大福、スーパー等に売られている豆系のお菓子。次女は大喜びだった。次女は豆大福を一粒食べ私は小袋に入れられ分けられている甘納豆を一つ取って袋を開けた。
「お姉ちゃんの分も残しておくんだよ」
「ママもね。食べ過ぎないように」
二人でご飯までにお菓子を食べていた。
暫くすると長女が帰ってきた。「ただいま」と言う声が聞こえ「おかえり」と私と次女で返す。
長女はラフな格好に着替えリビングにくると、酢飯と魚を用意する。そして大豆の甘辛煮和え。大豆の甘辛煮和えをテーブルに置くと私の目を盗んで娘二人が大豆をつまみ食いしようとしていた。そんなおいたな二人の手を叩く。
「いったぁ~!」
「もぉ~。ちょっと位いいでしょ」
「ダメです。恵方巻がまだでしょ。みんなで恵方巻作ってから」
すると次女は口をとんがらかす。
長女もブーイングし私は二人の頬を引っ張った。痛い痛いと喚きそろそろ恵方巻を作らねば酢飯が乾いてしまうと思い二人の頬を離した。二人の片頬は赤くなって次女は涙目に、長女は赤くなった頬に手を添えて恨めしそうに私を見ていた。
「ほら、恵方巻作るから海苔と巻きすを出して」
「はーい」
二人は手際良く手伝ってくれた。
そしていよいよ恵方巻作り。
巻きすの上にラップを引いて海苔その上に置く。海苔の上にご飯を薄く乗せてあとは自分達の好きな具を乗せていく。
長女はサーモンと烏賊と鰤と甘エビときゅうりと卵、次女は全種の魚の贅沢盛り勿論烏賊と甘エビの乗せていた。そして私は鰤と鯛ときゅうりと干瓢の乗せて、皆で巻いていく。昔は少し不器用だった次女が巻くのが上手くできずによく愚図っていた。愚図りながらでも長女に教えてとお願いし長女もまた妹に優しく教えていたな。今ではこんなに巻くのが上手くなっている。
「二人共、巻き終わった?」
二人は出来た恵方巻を私に見せてくれた。
長女のはお店にありそうな感じの大きさだが、次女は欲張ったせいか恵方巻というより太巻きになっていた。
私も長女と口に入る? と思っていたが次女は「入る! 食べれる!」と意気込んで言うものだから私達はそれ以上何も言わなかった。
今年の方角は東北東。と言われてもどの方角かはわからないのでスマホで調べて方角の方に向いた。
三人で東北東に向いて自分達で作った恵方巻に齧り付く。
無言。恵方巻を無言で食べるのも傍から見たらかなりシュールであろう。ちらっと左隣にいる長女を横目で見ると目をつぶりながら恵方巻をもぐもぐとなんか早めに食べていた。そして右隣にいる次女を横目で見ると口に入れるのが精一杯で食べるのは一番遅かったが目を強く瞑り眉間に皺を寄せながら何かを願っていた。
そしてかくいう私は、もうすでに食べ終わっていた。二人には毎年ながら早いって言われるかもしれないがこれが私のペースでもある。
三分位で長女が恵方巻を完食した。
「お願い事はした?」
私は食べ終わった長女にそう聞くと「うん」となんだか嬉しそうな顔をしていた。次女の方を見ればまだ食べている。もう恵方巻ではなく太巻きに齧り付いているように見えてきた。
次女が食べている太巻き(恵方巻)は半分位まで行ったが一向に食べ終わる気配がない。それに真剣に願い事をしているように見え私達はテーブルの椅子に座る。
「先に食べようか」
「そうね。でも、あの子の分も取っておきましょ。でないとあとで拗ねるかも」
私達は大豆をポリポリとつまみながら二本目の恵方巻を作り切ってゆっくりと食べていた。
十分位で次女はようやく太巻きを食べ終わった。
「ぷっはぁ~。食べた~!」
食べ終わると私達が座っている椅子に座り恵方巻にまた参加する。次女も大豆をポリポリと食べながら「美味しい!」と言ってくれて「あぁこれにして良かった」と心から思った。
私は冷蔵庫からビールを二本出して三本目の恵方巻と大豆を食べながら二人を見ていた。
長女と次女で二本目の恵方巻を作り次女はまた色々と具を欲張っているのを見ているとなんだかお腹がいっぱいのような気がした。
今度は鮪とサーモンときゅうりを乗せるだけ乗せて巻いていき本日二本目の太巻きが完成された。
長女もそれを見て笑う。二人が作った恵方巻を並べて比べると長女が作った恵方巻が小さく見えてなんだか可愛く見えてきた。
今年も楽しい節分が出来て良かった。
私はそう思いながらビールを飲んで大豆を食べる。
明日は何を食べようかな。
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