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友田、苦難の3か月
第12話 サワチーとの初対面 1
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時は少し遡って入学式の日の夜。部屋でくつろいでいた俺に、青野が突然スマホのチャットを飛ばしてきた。
「『かどつよ』やろうぜ!」
「かどつよ? 一時期流行ってた消しゴムの新しいやつか?」
「ちげーよ。オンラインゲームの略だよ」
『かどつよ』とは、オンラインゲームである。内容は、生活や狩りアクションができるMMORPGだ。出会った初日からオンラインゲームに誘うとは、自称主人公の行動力に素直に感心した。
あまり使っていなかった家のパソコンを借りて、会員登録とログインを済ませた。正直、あまりスペックが高くなくてもプレイできるゲームで安心した。ゲーミングパソコンとか、学生にはかなり厳しい値段だからね。
「よし。アオ、無事にログイン出来たぞー」
『お、来たなトモ!』
オンラインゲームをやる際は、基本的にハンドルネームでプレイするのが通例だ。青野はアオ、俺はトモ。どちらも本名から取っているから、知り合いが見たらすぐにバレそうではある。
俺が青野の誘いに二つ返事で乗ったのは理由がある。それは、アオのパーティーメンバーにいる、彼女との初対面を果たすためだった。
『えー、パーティーメンバー増やすのー? しかも彼、ドがつく素人じゃん、だいじょーぶなん?』
ハンドルネーム、サワチー。青野とは中学からのネトゲ友達だ。そして青野にとってのヒロインの1人。直接会う手段がない彼女と会うためには、『かどつよ』をプレイする以外になかった。
しかし、初対面の人間がいきなりパーティーに入ったからか、サワチーさんにはかなり警戒されている。青野、誘うなら事前に話を通しておいてほしいんだけどな。
『大丈夫だって! 俺がキャリーしてやるから!』
「はは……。サワチーさん、よろしくね」
『ま、よろー。……初心者は丁重に沼に落とせ、って事で覚悟しときなよー?』
「え、沼?」
こうして、アオ率いるパーティーの『かどつよ』が始まった。メンバーの回復や支援が得意なジョブを選んだ俺は、高レベルな2人の足を引っ張らないよう、頑張って動いた。
「えーと、ここで攻撃バフと回復だったかな。えい」
『お、トモないすー。支援職、割と向いてるんじゃね?』
「それは良かっ――」
ズバッ、と俺のアバターが敵に切られた音が部屋に響く。俺のPC画面が真っ赤に染まった。
『あー、うちらの回復優先しすぎて、自分がやられちったかー』
「ご、ごめん」
『支援初心者あるあるー。ま、しゃーないって。自分のHPゲージも時々見ときなよー』
サワチーさんはこうして、俺の行動にアドバイスを挟んでくれる。ゲームがうまいだけでなく、周囲の事も見られる彼女に、俺は素直に尊敬を覚えた。
『おいおい、情けないぞともd――おっと』
ここで青野がうっかり、俺の本名を言いかけた。俺としては別に、本名とそこまで違いもないからいいか、と軽く考えていた。けれど、俺の予想と違いサワチーさんがアオに対して嫌悪感を示した。
『……アオ、リアルネームはNG。うち何度も注意してるっしょー?』
『ははっ、悪い悪い。何せ本名とほとんど同じだからな』
『だーかーらー、そういうヒントもダメだってーの』
サワチーが真面目なトーンで嗜める。しかし当の青野はあまり重く捉えていないようだ。少し険悪な雰囲気が漂う。だから青野、本当に好感度上げる気があるのか。
仕方ない。俺はこういう時の逃げ道を知っている。ちょっと頑張って、演じることにしよう。
「あの、2人とも。ちょっと助けてもらってもいいか……?」
『ん? どうしたトモ……って、うおぉっ!? めっちゃ敵に囲まれてるじゃねえか!?』
2人から少し離れた位置で、俺のアバターが敵スライム達に埋もれていた。アバターの位置を示す三角マークが、スライムの山の中を指している。肝心の俺の姿は全く見えないし、体力がゴリゴリと無慈悲に削られていく。
『……あー、もしかしてトラップ踏んじゃった系ー?』
「そんな感じ。ヘルプミー」
俺はわざと敵をかき集めてきて、囲んでもらったのだ。ゲーム内で目を引くイベントを起こせば、そちらに気が行く。話題を変えるには持ってこいだろう。
サワチーも何かを察して、少しだけ口調が柔らかくなった。険悪な空気が、和らいだのを感じる。どうやら、俺の演技はうまくいったようだ。マイクに拾われないように、こっそり安心の一息をついた。
『おいおい、しょうがねえなぁ! ここはリーダーのレベルの暴力を見せてやるとするか!』
青野はそんな事情など露知らず。俺の見せ場だと言わんばかりに、俺の知らないスキルをばんばん発動していく。
「おお、さすがのパワー」
『大群は火力バカにお任せしまー』
『ははっ、火力バカは誉め言葉だぜ!』
アオはパワータイプのジョブなので、敵の軍勢を一気になぎ倒すのが得意だ。俺がわざと仕組んだとは露知らず、気持ちよさそうに俺の周りを綺麗に片づけていく。そして残った敵をサワチーが丁寧に倒していく。ちなみにサワチーは剣と魔法をバランスよく使うタイプのジョブだ。
あっという間に敵は掃討された。そもそも初心者の俺に合わせたダンジョンだったため、2人にとっては敵にもなっていなかっただろう。
「いやー、さすが経験者2人だと楽勝みたいだな……」
『まあな! お前も早くここまでこいよ!』
「はは、頑張って追いつくとするよ」
青野は先輩面が出来て満足そうだ。
『……ふーん。トモ、いい奴じゃん』
サワチーが何か呟いていたけど、よく聞き取れなかった。
俺の能力は便利なことに、『かどつよ』越しでも好感度がわかるようになっていた。アバターの頭上にある数字が、きっとそれだ。まだ数字はわからないけれど、少なくとも最初の警戒は解けたようだ。この感触を胸に、俺はこのゲームで何度も会って、少しずつ親密になっていこう。
「『かどつよ』やろうぜ!」
「かどつよ? 一時期流行ってた消しゴムの新しいやつか?」
「ちげーよ。オンラインゲームの略だよ」
『かどつよ』とは、オンラインゲームである。内容は、生活や狩りアクションができるMMORPGだ。出会った初日からオンラインゲームに誘うとは、自称主人公の行動力に素直に感心した。
あまり使っていなかった家のパソコンを借りて、会員登録とログインを済ませた。正直、あまりスペックが高くなくてもプレイできるゲームで安心した。ゲーミングパソコンとか、学生にはかなり厳しい値段だからね。
「よし。アオ、無事にログイン出来たぞー」
『お、来たなトモ!』
オンラインゲームをやる際は、基本的にハンドルネームでプレイするのが通例だ。青野はアオ、俺はトモ。どちらも本名から取っているから、知り合いが見たらすぐにバレそうではある。
俺が青野の誘いに二つ返事で乗ったのは理由がある。それは、アオのパーティーメンバーにいる、彼女との初対面を果たすためだった。
『えー、パーティーメンバー増やすのー? しかも彼、ドがつく素人じゃん、だいじょーぶなん?』
ハンドルネーム、サワチー。青野とは中学からのネトゲ友達だ。そして青野にとってのヒロインの1人。直接会う手段がない彼女と会うためには、『かどつよ』をプレイする以外になかった。
しかし、初対面の人間がいきなりパーティーに入ったからか、サワチーさんにはかなり警戒されている。青野、誘うなら事前に話を通しておいてほしいんだけどな。
『大丈夫だって! 俺がキャリーしてやるから!』
「はは……。サワチーさん、よろしくね」
『ま、よろー。……初心者は丁重に沼に落とせ、って事で覚悟しときなよー?』
「え、沼?」
こうして、アオ率いるパーティーの『かどつよ』が始まった。メンバーの回復や支援が得意なジョブを選んだ俺は、高レベルな2人の足を引っ張らないよう、頑張って動いた。
「えーと、ここで攻撃バフと回復だったかな。えい」
『お、トモないすー。支援職、割と向いてるんじゃね?』
「それは良かっ――」
ズバッ、と俺のアバターが敵に切られた音が部屋に響く。俺のPC画面が真っ赤に染まった。
『あー、うちらの回復優先しすぎて、自分がやられちったかー』
「ご、ごめん」
『支援初心者あるあるー。ま、しゃーないって。自分のHPゲージも時々見ときなよー』
サワチーさんはこうして、俺の行動にアドバイスを挟んでくれる。ゲームがうまいだけでなく、周囲の事も見られる彼女に、俺は素直に尊敬を覚えた。
『おいおい、情けないぞともd――おっと』
ここで青野がうっかり、俺の本名を言いかけた。俺としては別に、本名とそこまで違いもないからいいか、と軽く考えていた。けれど、俺の予想と違いサワチーさんがアオに対して嫌悪感を示した。
『……アオ、リアルネームはNG。うち何度も注意してるっしょー?』
『ははっ、悪い悪い。何せ本名とほとんど同じだからな』
『だーかーらー、そういうヒントもダメだってーの』
サワチーが真面目なトーンで嗜める。しかし当の青野はあまり重く捉えていないようだ。少し険悪な雰囲気が漂う。だから青野、本当に好感度上げる気があるのか。
仕方ない。俺はこういう時の逃げ道を知っている。ちょっと頑張って、演じることにしよう。
「あの、2人とも。ちょっと助けてもらってもいいか……?」
『ん? どうしたトモ……って、うおぉっ!? めっちゃ敵に囲まれてるじゃねえか!?』
2人から少し離れた位置で、俺のアバターが敵スライム達に埋もれていた。アバターの位置を示す三角マークが、スライムの山の中を指している。肝心の俺の姿は全く見えないし、体力がゴリゴリと無慈悲に削られていく。
『……あー、もしかしてトラップ踏んじゃった系ー?』
「そんな感じ。ヘルプミー」
俺はわざと敵をかき集めてきて、囲んでもらったのだ。ゲーム内で目を引くイベントを起こせば、そちらに気が行く。話題を変えるには持ってこいだろう。
サワチーも何かを察して、少しだけ口調が柔らかくなった。険悪な空気が、和らいだのを感じる。どうやら、俺の演技はうまくいったようだ。マイクに拾われないように、こっそり安心の一息をついた。
『おいおい、しょうがねえなぁ! ここはリーダーのレベルの暴力を見せてやるとするか!』
青野はそんな事情など露知らず。俺の見せ場だと言わんばかりに、俺の知らないスキルをばんばん発動していく。
「おお、さすがのパワー」
『大群は火力バカにお任せしまー』
『ははっ、火力バカは誉め言葉だぜ!』
アオはパワータイプのジョブなので、敵の軍勢を一気になぎ倒すのが得意だ。俺がわざと仕組んだとは露知らず、気持ちよさそうに俺の周りを綺麗に片づけていく。そして残った敵をサワチーが丁寧に倒していく。ちなみにサワチーは剣と魔法をバランスよく使うタイプのジョブだ。
あっという間に敵は掃討された。そもそも初心者の俺に合わせたダンジョンだったため、2人にとっては敵にもなっていなかっただろう。
「いやー、さすが経験者2人だと楽勝みたいだな……」
『まあな! お前も早くここまでこいよ!』
「はは、頑張って追いつくとするよ」
青野は先輩面が出来て満足そうだ。
『……ふーん。トモ、いい奴じゃん』
サワチーが何か呟いていたけど、よく聞き取れなかった。
俺の能力は便利なことに、『かどつよ』越しでも好感度がわかるようになっていた。アバターの頭上にある数字が、きっとそれだ。まだ数字はわからないけれど、少なくとも最初の警戒は解けたようだ。この感触を胸に、俺はこのゲームで何度も会って、少しずつ親密になっていこう。
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