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友田、苦難の3か月
第11話 氷織との初対面 2
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瀬戸会長に頼まれた通り、俺は翌日の放課後も生徒会室に来ていた。このことは青野には言っていない。青野のためだと言った所で、抜け駆けだーとかうるさそうだからだ。
「友田君。作業をしながらで良いのだけれど、少し聞いてもらえないかしら?」
「え? いいですけど、何か悩み事があるんですか?」
「悩み事、というよりは相談に近いかもしれないわね」
会長は、思っていた以上に心を許してくれているのかもしれない。喜びはあるものの、内心戸惑いもある。どうして、出会って間もない俺にそんな話をしてくれるのだろうか。……まだ、数字も見えていない段階だというのに。
しかし、それよりも今は相談にうまくのることだけを考えなくてはならない。雑念を捨てて先輩の話にしっかりと耳を傾けて――。
「雑談って、どうしたらできるようになるのかしら?」
「え?」
予想外な内容だった。何かの冗談かと思ったが、彼女の眼はいたって真剣だと訴えてくる。ポカンとしていた俺に、会長は言葉を続けた。
「私、雑談とかをほとんどしたことが無かったから。どういう話をすればいいのかがわからないの」
「友達とかは?」
「……皆、何故か私と距離を置いてしまうから。気安く話せる相手がいないのよ」
「あぁ……」
周囲から高嶺の花だと言われているがために、対等に接してくれる相手が現れない。普通では中々起こらない問題だった。
「あなたは友達が多い、と噂で聞いたものだから。相談相手は、あなたが適任だと思ったの」
「な、なるほど」
友達の多い俺なら、雑談の仕方を熟知しているだろうと思ったのか。それなら、俺という人選にも納得がいく。
「とりあえず、思ったことを言ってみるのはどうですか?」
「思ったこと……」
「例えばほら、今は夏じゃないですか」
「夏、そうね……」
雑談なんて、その場で思いついた話をひたすら続けていくだけだ。ウケる話をしないといけないとか、肩ひじを張る必要はない。結局は、慣れの問題だ。練習すれば誰だって――。
「夏といえば……かき氷かしらね」
「いいですね! 好きな味とか――」
「でもかき氷って、水を食べているだけよね……?」
「別の話にしましょうか」
「え、えぇ……」
今の流れだと、あまり楽しい会話にならなそうだ。そう思った俺は少し強引に話題を切り替えた。
「じゃあここはベタに天気の話だとどうですかね」
「そうね……。私、低気圧に弱いのよね。……それで、私が不機嫌そうに見えるから、皆と余計に距離ができてしまって……」
「あー……」
生徒会室に、気まずい沈黙が流れてしまった。正直、俺もどう返したらいいかわからなかった。
「……ごめんなさい。やっぱり私、雑談は向いていないみたいね」
会長の気分がみるみる下がっていってしまった。慣れる日が、果たして来るのだろうか。俺は少々不安になってしまった。
「それなら、話題に出来そうなものを事前にいくつか考えておくといいですよ。メモに箇条書きしておくとか」
「……なるほど、引き出しを作っておくのね」
早速メモを取り出して、話題になりそうな話のタネを検索している。手際の良さは流石会長といったところだ。
「友田君、ありがとう。参考になったわ」
「いえいえ」
少しでも彼女の手助けができたことに、俺は満足した。けれど、瀬戸会長の話はまだ終わっていなかった。次の言葉は、先程とは違った意味で俺を驚かせることになる。
「……メモが完成したら、また見てもらえないかしら?」
「っ!?」
メモで口元を隠しながら、恥じらうように少しだけ頬を染めて俺を見つめてくる。普段のクールな印象からのギャップに、俺の心臓が飛び跳ねた。こんな表情を向けられて、ドキドキしない男子はいないんじゃなかろうか。
ふと、思った。あれ、これって青野の役目だったのではと。
友人キャラとしての考え方が板についてきていることに、少し嫌気が指す。だがそれ以上に、俺は青野よりも彼女と仲良くなってしまったのではないか。そちらの方が気になってしまう。
「あ……」
この時、彼女の頭上にある数字が、はっきりと見えるようになった。彼女の好意的な表情とは対照的に、数字は25。雪女と言われても仕方がないと思えるような、寒々しい青色だった。
一瞬、自分が実は嫌われているのではないかと錯覚して、身震いがした。
「友田君、どうかしたの?」
「い、いえ。何でもないです」
俺の能力の事は、誰にも言えない。だからここは、ごまかすしかなかった。……俺もこういう時のために、あらかじめいくつかごまかし方を考えておいた方がよさそうだ。
「こんなことを誰かに頼むなんて、初めてだわ」
「そうなんですか? 皆、会長が相談したいって言ったら聞いてくれそうですけど」
「最初は周囲に頼ろうと思ったわ。けれど、頼んだ相手が皆、張り切りすぎてしまって……」
「あー……」
何というか、容易に想像がついてしまう。男たちは皆、彼女にいいところを見せて気に入られたいのだろう。かくいう俺も、あまり人の事は言えないのだけれど。
「青野君、だったかしら。彼の勢いは特に凄かったわね。ちょっと、身の危険を感じたもの」
「そ、そんなにですか」
「……私の胸ばかり見ていて、まるで目線が合わなかったから」
「あいつ……」
男の目線は案外気づかれている、という話は聞いたことがある。しかし今の感じだと、青野はもうそれ以前の問題な気がした。た、確かに瀬戸会長の腕組みで強調されたそれは、本当に目を奪われてしまいそうになる。
しかし、ここで俺まで嫌われるわけにはいかないため、慌てて彼女の瞳に目線を戻した。
「それで、なんだか申し訳なくなってしまって……出来る事なら、全て一人でやると決めていたの」
「だから、生徒会の仕事も一人でやってたんですか?」
「ええ……」
瀬戸先輩の事を雪女だなんて、誰が言ったのだろう。少なくとも俺には、今の彼女からは冷たさなんてまるで感じない。寧ろ下手に触れたら、薄い氷のように壊れてしまいそうな少女のようだ。
その後手伝いが完了して、先に帰ろうと席を立つ。生徒会室を出る直前に、会長から思わぬ提案を持ち掛けられた。
「友田君。生徒会に来ない? 庶務の席なら用意できるわ」
「あー、考えておきます」
「そう……、よく考えておいて」
常に無表情と言われていた彼女が、少しだけ微笑んでいるように見えたのは、気のせいだっただろうか。俺はその上にある寒々しい数字の方に気を取られていて、あまり気にしていなかったのだけれど。
「友田君。作業をしながらで良いのだけれど、少し聞いてもらえないかしら?」
「え? いいですけど、何か悩み事があるんですか?」
「悩み事、というよりは相談に近いかもしれないわね」
会長は、思っていた以上に心を許してくれているのかもしれない。喜びはあるものの、内心戸惑いもある。どうして、出会って間もない俺にそんな話をしてくれるのだろうか。……まだ、数字も見えていない段階だというのに。
しかし、それよりも今は相談にうまくのることだけを考えなくてはならない。雑念を捨てて先輩の話にしっかりと耳を傾けて――。
「雑談って、どうしたらできるようになるのかしら?」
「え?」
予想外な内容だった。何かの冗談かと思ったが、彼女の眼はいたって真剣だと訴えてくる。ポカンとしていた俺に、会長は言葉を続けた。
「私、雑談とかをほとんどしたことが無かったから。どういう話をすればいいのかがわからないの」
「友達とかは?」
「……皆、何故か私と距離を置いてしまうから。気安く話せる相手がいないのよ」
「あぁ……」
周囲から高嶺の花だと言われているがために、対等に接してくれる相手が現れない。普通では中々起こらない問題だった。
「あなたは友達が多い、と噂で聞いたものだから。相談相手は、あなたが適任だと思ったの」
「な、なるほど」
友達の多い俺なら、雑談の仕方を熟知しているだろうと思ったのか。それなら、俺という人選にも納得がいく。
「とりあえず、思ったことを言ってみるのはどうですか?」
「思ったこと……」
「例えばほら、今は夏じゃないですか」
「夏、そうね……」
雑談なんて、その場で思いついた話をひたすら続けていくだけだ。ウケる話をしないといけないとか、肩ひじを張る必要はない。結局は、慣れの問題だ。練習すれば誰だって――。
「夏といえば……かき氷かしらね」
「いいですね! 好きな味とか――」
「でもかき氷って、水を食べているだけよね……?」
「別の話にしましょうか」
「え、えぇ……」
今の流れだと、あまり楽しい会話にならなそうだ。そう思った俺は少し強引に話題を切り替えた。
「じゃあここはベタに天気の話だとどうですかね」
「そうね……。私、低気圧に弱いのよね。……それで、私が不機嫌そうに見えるから、皆と余計に距離ができてしまって……」
「あー……」
生徒会室に、気まずい沈黙が流れてしまった。正直、俺もどう返したらいいかわからなかった。
「……ごめんなさい。やっぱり私、雑談は向いていないみたいね」
会長の気分がみるみる下がっていってしまった。慣れる日が、果たして来るのだろうか。俺は少々不安になってしまった。
「それなら、話題に出来そうなものを事前にいくつか考えておくといいですよ。メモに箇条書きしておくとか」
「……なるほど、引き出しを作っておくのね」
早速メモを取り出して、話題になりそうな話のタネを検索している。手際の良さは流石会長といったところだ。
「友田君、ありがとう。参考になったわ」
「いえいえ」
少しでも彼女の手助けができたことに、俺は満足した。けれど、瀬戸会長の話はまだ終わっていなかった。次の言葉は、先程とは違った意味で俺を驚かせることになる。
「……メモが完成したら、また見てもらえないかしら?」
「っ!?」
メモで口元を隠しながら、恥じらうように少しだけ頬を染めて俺を見つめてくる。普段のクールな印象からのギャップに、俺の心臓が飛び跳ねた。こんな表情を向けられて、ドキドキしない男子はいないんじゃなかろうか。
ふと、思った。あれ、これって青野の役目だったのではと。
友人キャラとしての考え方が板についてきていることに、少し嫌気が指す。だがそれ以上に、俺は青野よりも彼女と仲良くなってしまったのではないか。そちらの方が気になってしまう。
「あ……」
この時、彼女の頭上にある数字が、はっきりと見えるようになった。彼女の好意的な表情とは対照的に、数字は25。雪女と言われても仕方がないと思えるような、寒々しい青色だった。
一瞬、自分が実は嫌われているのではないかと錯覚して、身震いがした。
「友田君、どうかしたの?」
「い、いえ。何でもないです」
俺の能力の事は、誰にも言えない。だからここは、ごまかすしかなかった。……俺もこういう時のために、あらかじめいくつかごまかし方を考えておいた方がよさそうだ。
「こんなことを誰かに頼むなんて、初めてだわ」
「そうなんですか? 皆、会長が相談したいって言ったら聞いてくれそうですけど」
「最初は周囲に頼ろうと思ったわ。けれど、頼んだ相手が皆、張り切りすぎてしまって……」
「あー……」
何というか、容易に想像がついてしまう。男たちは皆、彼女にいいところを見せて気に入られたいのだろう。かくいう俺も、あまり人の事は言えないのだけれど。
「青野君、だったかしら。彼の勢いは特に凄かったわね。ちょっと、身の危険を感じたもの」
「そ、そんなにですか」
「……私の胸ばかり見ていて、まるで目線が合わなかったから」
「あいつ……」
男の目線は案外気づかれている、という話は聞いたことがある。しかし今の感じだと、青野はもうそれ以前の問題な気がした。た、確かに瀬戸会長の腕組みで強調されたそれは、本当に目を奪われてしまいそうになる。
しかし、ここで俺まで嫌われるわけにはいかないため、慌てて彼女の瞳に目線を戻した。
「それで、なんだか申し訳なくなってしまって……出来る事なら、全て一人でやると決めていたの」
「だから、生徒会の仕事も一人でやってたんですか?」
「ええ……」
瀬戸先輩の事を雪女だなんて、誰が言ったのだろう。少なくとも俺には、今の彼女からは冷たさなんてまるで感じない。寧ろ下手に触れたら、薄い氷のように壊れてしまいそうな少女のようだ。
その後手伝いが完了して、先に帰ろうと席を立つ。生徒会室を出る直前に、会長から思わぬ提案を持ち掛けられた。
「友田君。生徒会に来ない? 庶務の席なら用意できるわ」
「あー、考えておきます」
「そう……、よく考えておいて」
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