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第23話 クロードとノエル
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僕は、もう三度目になる応接室の上座にいた。横にはシリウス、そして対面にはシリウスが家に招いた客人二人が並んでいた。その客人とは、僕も一度だけ会っている人物だった。僕は冷や汗を一粒頬に垂らしながらシリウスに尋ねる。
「……兄さん、一個聞きたいんだけど」
「なんだ?」
シリウスは至っていつも通りに落ち着いた様子だが、僕はとても気が気じゃない。おまけに招待された二人も少々戸惑っているようだった。
「シリウスの弟に今度話しておきたい事があるとシリウス先輩に話したら、即日家に招待されるとは思いませんでした……」
「右に同じ。どーも、ハルト君。図書室の時以来だねー」
今回の客人であり、プリ庭のヒーローであるクロードとノエル。勿論僕はこの二人が来ることは聞いていなかったし、二人も唐突に呼ばれてしまったせいか乾いた笑みを浮かべている。
「前からそうだけどさ、何で用件がある人をすぐ家に呼んじゃうの?」
「確実に用件を済ませられるからだ」
「もー……こないだエマさんにそういう所を注意されたばかりじゃなかった?」
「あの時は女性を招く際のマナーについてだった。男同士であれば問題無いだろう」
「だめだこりゃ……」
シリウスの完璧人間像が日々崩れ去っていくのを感じる今日この頃である。ノエルは大きくため息をつきながら右手で眉間を摘まみ、クロードは背もたれにだらんと体重を預けている。
「問題大有りですよ、シリウス先輩」
「僕らもちょうど話をするだけの時間はあったから、良かったけどねー」
「お二方、兄が申し訳ありませんでした」
「……い、いえ」
「……気にしなくていいよ。シリウスの不器用さはいつもの事だからね」
僕が兄の代わりに謝ったことで、二人は僕を数奇の目で見つめてくる。クロードは僕をひとしきり見回した後、ふーんと言いながら何処か納得したような表情に変わった。
「うん、ちょっと観察してみてわかったよ。リリアとシリウスの言った通り、随分丸くなったみたいだね。ノエルもそう思わない?」
「……そのようですね。ハルト君、先日は失礼な態度を取ってしまって申し訳ありませんでした」
「そんな! 僕なんかのために頭を下げないでください!」
ヒーロー二人に頭を下げられるなんて全く予想していなかった。真摯な謝罪に僕は恐縮してしまう。
「噂は大体が本当の事ですし、リリアさんに近づけまいとするのは正しい行動だったと思います」
「噂が本当って言うのはつまり……これまで本当に噂通りの事をしてたのかい?」
「は、はい……」
「認めるのですね……それが何故ここまで?」
「まあ、色々ありまして……」
どうしてこうなった、という質問はもう何度もされてきた。ここでもやはり本当の事は言えない。有耶無耶にして流そうとしていたのだが、クロードが何かを思いついてしまう。
「あー! ……もしかして、リリアちゃんに惚れちゃったんじゃないのー?」
「え?」
「クロード先輩が良く言っている恋の力、というものですか? ……私には理解できかねますが」
「そ、そういうわけじゃないですよ!」
恋の力というフレーズはクロードがよく使う言葉なのだが、僕にはそれは該当していないはずだ。そもそもリリアはヒーローである誰かと結ばれるはずで、僕はその対象にはならない。……実はあまりの距離の近さに少しずつ意識し始めてしまっている、なんて言うのはここでする話ではない。
「照れちゃうなんてかわいい弟君じゃないかー」
「ですから違いますってー!」
(嗚呼……ゲームの時から思ってたけど、やっぱり僕このキャラ苦手だぁ)
ちょっと近すぎる距離感で親しく接してくれる男性は、女性にとってはキュンと来るのかもしれない。しかし人付き合いが得意じゃない男にはちょっと相手をするのが難しいと感じた。
「クロード先輩! ハルト君が嫌がっているじゃないですか、離れてあげてください」
「えー? ノエルは相変わらず厳しいなあ……」
「貴方が緩すぎるんですよ! ハルト君、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
「ネクタイが緩んでしまいましたね。結びなおして上げますよ」
(ノエルって気難しいキャラだと思ってたけど、案外優しい人なのかな?)
慣れた手つきでネクタイを素早く直してくれたことに感謝する。しかし、その後眼鏡を直して白い光を反射させると、何かスイッチが入ったようで僕の服装をまじまじと見てくる。何故か少しだけ寒気を感じる。
「……ネクタイだけじゃない。襟が曲がっています。あと立ち姿勢が悪い。最初の礼も角度が曖昧でした」
「え」
「先輩に会うのに最低限のマナーが出来ていないじゃないですか。僭越ながら私が一から鍛えて差し上げましょう」
(あダメだ、こっちも僕には無理だ……)
ノエルは身だしなみや規律に厳しすぎる一面がある。ゲームでは主人公の身だしなみを気にする必要が無いから気にならなかったが、実際に指摘され続けるとキツい。二人のキャラに困惑していた僕の前に、シリウスが立って告げた。
「クロード、ノエル。用件が済んだのなら早々に帰るといい」
「シリウス先輩!?」
「シリウス!? 急にひどくない!?」
「兄さん、言い方キツいし言葉足りてないし」
そしてシリウスは、コミュニケーションにおいての不器用さが目立っている。ゲームではこれで何度もリリアとすれ違いを起こす原因になるのだ。
「む、そうか……二人とも、私が急に呼び出してしまったからな」
「そ、そういうことでしたか……驚かさないでくださいよ」
「まあ、シリウスの言葉足らずは今に始まったことじゃないけどさー……」
「あはは……」
直接会ってみた結果、険悪な雰囲気は無くなったけれど僕にとってはやりづらい相手だということが分かった。あと残念ながらシリウスによる三度の急な呼び出しは、全て良い結果になっていたのであった。
「……兄さん、一個聞きたいんだけど」
「なんだ?」
シリウスは至っていつも通りに落ち着いた様子だが、僕はとても気が気じゃない。おまけに招待された二人も少々戸惑っているようだった。
「シリウスの弟に今度話しておきたい事があるとシリウス先輩に話したら、即日家に招待されるとは思いませんでした……」
「右に同じ。どーも、ハルト君。図書室の時以来だねー」
今回の客人であり、プリ庭のヒーローであるクロードとノエル。勿論僕はこの二人が来ることは聞いていなかったし、二人も唐突に呼ばれてしまったせいか乾いた笑みを浮かべている。
「前からそうだけどさ、何で用件がある人をすぐ家に呼んじゃうの?」
「確実に用件を済ませられるからだ」
「もー……こないだエマさんにそういう所を注意されたばかりじゃなかった?」
「あの時は女性を招く際のマナーについてだった。男同士であれば問題無いだろう」
「だめだこりゃ……」
シリウスの完璧人間像が日々崩れ去っていくのを感じる今日この頃である。ノエルは大きくため息をつきながら右手で眉間を摘まみ、クロードは背もたれにだらんと体重を預けている。
「問題大有りですよ、シリウス先輩」
「僕らもちょうど話をするだけの時間はあったから、良かったけどねー」
「お二方、兄が申し訳ありませんでした」
「……い、いえ」
「……気にしなくていいよ。シリウスの不器用さはいつもの事だからね」
僕が兄の代わりに謝ったことで、二人は僕を数奇の目で見つめてくる。クロードは僕をひとしきり見回した後、ふーんと言いながら何処か納得したような表情に変わった。
「うん、ちょっと観察してみてわかったよ。リリアとシリウスの言った通り、随分丸くなったみたいだね。ノエルもそう思わない?」
「……そのようですね。ハルト君、先日は失礼な態度を取ってしまって申し訳ありませんでした」
「そんな! 僕なんかのために頭を下げないでください!」
ヒーロー二人に頭を下げられるなんて全く予想していなかった。真摯な謝罪に僕は恐縮してしまう。
「噂は大体が本当の事ですし、リリアさんに近づけまいとするのは正しい行動だったと思います」
「噂が本当って言うのはつまり……これまで本当に噂通りの事をしてたのかい?」
「は、はい……」
「認めるのですね……それが何故ここまで?」
「まあ、色々ありまして……」
どうしてこうなった、という質問はもう何度もされてきた。ここでもやはり本当の事は言えない。有耶無耶にして流そうとしていたのだが、クロードが何かを思いついてしまう。
「あー! ……もしかして、リリアちゃんに惚れちゃったんじゃないのー?」
「え?」
「クロード先輩が良く言っている恋の力、というものですか? ……私には理解できかねますが」
「そ、そういうわけじゃないですよ!」
恋の力というフレーズはクロードがよく使う言葉なのだが、僕にはそれは該当していないはずだ。そもそもリリアはヒーローである誰かと結ばれるはずで、僕はその対象にはならない。……実はあまりの距離の近さに少しずつ意識し始めてしまっている、なんて言うのはここでする話ではない。
「照れちゃうなんてかわいい弟君じゃないかー」
「ですから違いますってー!」
(嗚呼……ゲームの時から思ってたけど、やっぱり僕このキャラ苦手だぁ)
ちょっと近すぎる距離感で親しく接してくれる男性は、女性にとってはキュンと来るのかもしれない。しかし人付き合いが得意じゃない男にはちょっと相手をするのが難しいと感じた。
「クロード先輩! ハルト君が嫌がっているじゃないですか、離れてあげてください」
「えー? ノエルは相変わらず厳しいなあ……」
「貴方が緩すぎるんですよ! ハルト君、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
「ネクタイが緩んでしまいましたね。結びなおして上げますよ」
(ノエルって気難しいキャラだと思ってたけど、案外優しい人なのかな?)
慣れた手つきでネクタイを素早く直してくれたことに感謝する。しかし、その後眼鏡を直して白い光を反射させると、何かスイッチが入ったようで僕の服装をまじまじと見てくる。何故か少しだけ寒気を感じる。
「……ネクタイだけじゃない。襟が曲がっています。あと立ち姿勢が悪い。最初の礼も角度が曖昧でした」
「え」
「先輩に会うのに最低限のマナーが出来ていないじゃないですか。僭越ながら私が一から鍛えて差し上げましょう」
(あダメだ、こっちも僕には無理だ……)
ノエルは身だしなみや規律に厳しすぎる一面がある。ゲームでは主人公の身だしなみを気にする必要が無いから気にならなかったが、実際に指摘され続けるとキツい。二人のキャラに困惑していた僕の前に、シリウスが立って告げた。
「クロード、ノエル。用件が済んだのなら早々に帰るといい」
「シリウス先輩!?」
「シリウス!? 急にひどくない!?」
「兄さん、言い方キツいし言葉足りてないし」
そしてシリウスは、コミュニケーションにおいての不器用さが目立っている。ゲームではこれで何度もリリアとすれ違いを起こす原因になるのだ。
「む、そうか……二人とも、私が急に呼び出してしまったからな」
「そ、そういうことでしたか……驚かさないでくださいよ」
「まあ、シリウスの言葉足らずは今に始まったことじゃないけどさー……」
「あはは……」
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