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第三話 餌_1
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その日は、残暑と呼ぶにはおこがましい暑さを残していた。
「はぁ~、あっちぃーな…」
俺の口から何度目とも知れない嘆息とともに悪態がこぼれ出る。それを言ったところで涼しくも、また肩を苦しめるチラシの重さも軽減されない…どころか再認識して気持ちが沈むと判っちゃいるのだが、それでも吐いてしまうのだ。
普段ならいつもの”処理”をしてさっさと家に戻り、コンビニで買うビールを堪能しているところなのだが…今日はさすがにそうもいかない理由があった。
ろくすっぽ勉強などせず、パチンコにうつつを抜かしては親に愛想を尽かされ大学中退という屑一直線の人生を現在進行形で歩んでいる俺は、現在食いつなぐためチラシ配りのバイトをやっている。
チラシ配りは未知の品へのご案内をマンションなどお住いの方々へお届けする、大変大切有意義なお仕事だ。だもんでそのチラシを重いし面倒だからとチラシ配りが勝手に処分したりするのは大変よろしくないことなのである。
念入りに細かく裁断したり燃やしたりして足がつかないようにしていたのだが…なぜかばれたらしい。
おそらく投函した地域のポストをランダムに見て回られたんだろうか。幸い物証まであげられたわけではないので厳重注意で済んでいるが、改めないなら裁判に訴えるとかまで言われてはさすがに仕方ない。
今後はもう少し処分量を調節する必要があるだろうが、その前に一か月くらいはまじめに働けばどうせ監視が緩くなるだろう、それまでの辛抱だ。
「えーと、湊地区はこんなとこか…」
時折偶発的に同じお宅に数枚同じチラシを突っ込んだりしながら俺にしてはまじめに仕事をしてますアピールをしつづけたが、それでも夕方になったところでバッグにひしめく紙の束がようやく半分を切ったところだ。
健全なチラシ配りとは本来ならもっと早い時間に荷物を受け取り配達するもんなのだが、俺は先日の深酒が祟って開始が昼過ぎになってしまった。…こんなことを繰り返したから目をつけられたのかもしれないが、後の祭りって奴だな。
ともあれこれからだと、今後帰宅してきた人とかちあう可能性がある。
俺たちはわらどころか紙切れにでもすがらないとだめな奴らにとって新規のお客様を呼び込む救いの御手なのだが、チラシをぶち込まれる側にとってはたいていポストを無駄に圧迫しゴミ出しの手間を増やす厄介者でしかない。ごみをお届けに現れる俺たちを胡乱げに見つめるのはまだましで、ひどいときは鬼のような形相で文句を言ってくる。ただの下働きでしかない俺たちに言われても困るんだがな。
ともあれ、お互いに不愉快な気持ちを味わうのはまっぴらごめんだ…特にこんな、うだるような蒸し暑さが残る夜には。
しばらく考えた俺は、駅前のパチンコ屋に足を向けることにした。
数時間後。
数千円もする貴重なたばこの慣れ親しんだ味わいを噛みしめながら俺は、駅前の繁華街から少し足を延ばし喧騒から縁遠い明かりの乏しくなった住宅街を進んでいく。
駅前に林立する大型マンションのような住人の多いところでチラシをさばければ時間は大きく短縮できるが、そういうところは管理人がいたり玄関に鍵がかかっていたりするのであまりこだわると逆に時間効率が悪くなる。それならいっそ、小口のアパートや一軒家などを中心に突っ込んでいくのが結果的にはやくなったりするもんだ。ましてや夜中ともなれば、人通りも少ないので見とがめられる危険性は格段に減る。
警官に見つかって職質とかされることもあるが、持ってる荷物は基本チラシだけだから文句を言われる筋合いはない。ただ、公僕に目を付けられるのは面白いものじゃないのは確かなのでできる限り人目につかないように動いていく。
夜になったことで少しばかり涼しくなったこともあり、俺は投函のピッチを上げた。
そんな折、妙なものを見つけることとなる。
「おっ、こりゃあ…アタリかな?」
すでに寝静まり、あたりには静寂が立ち込めている。
一時間くらい過ぎたころか、入り組んだ路地に迷い込んだときだ。
この地区はマンションどころか住宅すら少ない。
あらかた一軒家には投函し終えた俺は裏路地をしらみつぶしにしながらまだ放り込んでない未踏破の建物を探していたのだが…小さな神社の裏手にある、路地の隙間。
壁の一面に申し訳程度の木戸が設けられているのを見つけた。
早速木戸を横にひくと多少ガタピシ言いながらも開かれる。鍵がない、つまりはビンゴってことだ。
この近辺に限らず、繁華街からは離れ散立する雑木林や垣根に囲まれた古い二階建てが多く並んでいる土地がある。いわば童謡の「たきび」に登場しそうな景観が続いているのだが、それらは個人所有の住まいであることが多い。
だが、中には昭和の日常物に描かれるような複数人が生活する風呂なしトイレ共同のなんとか荘、みたいな骨董品のようなシロモノもまぎれていることがあり、これが実にありがたいボーナスステージなのだ。
なんせマンションなんかにいる常駐の管理人なんかいやしない。しかも複数人が通り抜ける前提なのでおおっぴらにチラシを放り込める。おまけに戸数が多いこともあり、こういうところを覚えておけば処分にこまったチラシをまとめて投函できる…まさに穴場って奴だ。
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ツギハ12ニチ19ジ
「はぁ~、あっちぃーな…」
俺の口から何度目とも知れない嘆息とともに悪態がこぼれ出る。それを言ったところで涼しくも、また肩を苦しめるチラシの重さも軽減されない…どころか再認識して気持ちが沈むと判っちゃいるのだが、それでも吐いてしまうのだ。
普段ならいつもの”処理”をしてさっさと家に戻り、コンビニで買うビールを堪能しているところなのだが…今日はさすがにそうもいかない理由があった。
ろくすっぽ勉強などせず、パチンコにうつつを抜かしては親に愛想を尽かされ大学中退という屑一直線の人生を現在進行形で歩んでいる俺は、現在食いつなぐためチラシ配りのバイトをやっている。
チラシ配りは未知の品へのご案内をマンションなどお住いの方々へお届けする、大変大切有意義なお仕事だ。だもんでそのチラシを重いし面倒だからとチラシ配りが勝手に処分したりするのは大変よろしくないことなのである。
念入りに細かく裁断したり燃やしたりして足がつかないようにしていたのだが…なぜかばれたらしい。
おそらく投函した地域のポストをランダムに見て回られたんだろうか。幸い物証まであげられたわけではないので厳重注意で済んでいるが、改めないなら裁判に訴えるとかまで言われてはさすがに仕方ない。
今後はもう少し処分量を調節する必要があるだろうが、その前に一か月くらいはまじめに働けばどうせ監視が緩くなるだろう、それまでの辛抱だ。
「えーと、湊地区はこんなとこか…」
時折偶発的に同じお宅に数枚同じチラシを突っ込んだりしながら俺にしてはまじめに仕事をしてますアピールをしつづけたが、それでも夕方になったところでバッグにひしめく紙の束がようやく半分を切ったところだ。
健全なチラシ配りとは本来ならもっと早い時間に荷物を受け取り配達するもんなのだが、俺は先日の深酒が祟って開始が昼過ぎになってしまった。…こんなことを繰り返したから目をつけられたのかもしれないが、後の祭りって奴だな。
ともあれこれからだと、今後帰宅してきた人とかちあう可能性がある。
俺たちはわらどころか紙切れにでもすがらないとだめな奴らにとって新規のお客様を呼び込む救いの御手なのだが、チラシをぶち込まれる側にとってはたいていポストを無駄に圧迫しゴミ出しの手間を増やす厄介者でしかない。ごみをお届けに現れる俺たちを胡乱げに見つめるのはまだましで、ひどいときは鬼のような形相で文句を言ってくる。ただの下働きでしかない俺たちに言われても困るんだがな。
ともあれ、お互いに不愉快な気持ちを味わうのはまっぴらごめんだ…特にこんな、うだるような蒸し暑さが残る夜には。
しばらく考えた俺は、駅前のパチンコ屋に足を向けることにした。
数時間後。
数千円もする貴重なたばこの慣れ親しんだ味わいを噛みしめながら俺は、駅前の繁華街から少し足を延ばし喧騒から縁遠い明かりの乏しくなった住宅街を進んでいく。
駅前に林立する大型マンションのような住人の多いところでチラシをさばければ時間は大きく短縮できるが、そういうところは管理人がいたり玄関に鍵がかかっていたりするのであまりこだわると逆に時間効率が悪くなる。それならいっそ、小口のアパートや一軒家などを中心に突っ込んでいくのが結果的にはやくなったりするもんだ。ましてや夜中ともなれば、人通りも少ないので見とがめられる危険性は格段に減る。
警官に見つかって職質とかされることもあるが、持ってる荷物は基本チラシだけだから文句を言われる筋合いはない。ただ、公僕に目を付けられるのは面白いものじゃないのは確かなのでできる限り人目につかないように動いていく。
夜になったことで少しばかり涼しくなったこともあり、俺は投函のピッチを上げた。
そんな折、妙なものを見つけることとなる。
「おっ、こりゃあ…アタリかな?」
すでに寝静まり、あたりには静寂が立ち込めている。
一時間くらい過ぎたころか、入り組んだ路地に迷い込んだときだ。
この地区はマンションどころか住宅すら少ない。
あらかた一軒家には投函し終えた俺は裏路地をしらみつぶしにしながらまだ放り込んでない未踏破の建物を探していたのだが…小さな神社の裏手にある、路地の隙間。
壁の一面に申し訳程度の木戸が設けられているのを見つけた。
早速木戸を横にひくと多少ガタピシ言いながらも開かれる。鍵がない、つまりはビンゴってことだ。
この近辺に限らず、繁華街からは離れ散立する雑木林や垣根に囲まれた古い二階建てが多く並んでいる土地がある。いわば童謡の「たきび」に登場しそうな景観が続いているのだが、それらは個人所有の住まいであることが多い。
だが、中には昭和の日常物に描かれるような複数人が生活する風呂なしトイレ共同のなんとか荘、みたいな骨董品のようなシロモノもまぎれていることがあり、これが実にありがたいボーナスステージなのだ。
なんせマンションなんかにいる常駐の管理人なんかいやしない。しかも複数人が通り抜ける前提なのでおおっぴらにチラシを放り込める。おまけに戸数が多いこともあり、こういうところを覚えておけば処分にこまったチラシをまとめて投函できる…まさに穴場って奴だ。
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ツギハ12ニチ19ジ
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