安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第十八話 生餌

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 大学の友人に、Yという男がいた。

 ゲームや漫画の趣味がどんぴしゃで気が合う良い奴だったが、唯一、どうしても受け入れられないことがあった。

 一人暮らしをしているYは親元が裕福なようで、俺から見てかなり良いフローリングのマンションに住み、アロワナを飼っていた。
 別にペットを飼うことやその暮らしぶりに思うところがあったわけじゃない。むしろ逆で、そいつの家で飲みとか徹夜で遊ぶのに都合がよかったくらいだ。

 俺がいやだったのは、そのペットのアロワナに与えている餌のだった。

 アロワナは肉食魚で、しかも結構な大型なので大量に餌を食う。そのため、生餌としてYはコオロギやミルワームを自分で養殖しているのだが…餌をやる際に、わざわざいたぶるのだ。
 羽や足をもぐなんてのは可愛いもので、火であぶったり針を突き刺してやったりとどう考えても無意味でしかない嫌がらせもしている。

 アロワナはアロワナで慣れたもので、羽をもがれたコオロギや手に握ったままのミルワームを一口で飲み込むことはせず、必ず食いちぎってはYを喜ばせていたもんだ。
 そうやってるときのYは、そりゃあもう良い笑顔だったよ。まるでいっぺんに来た正月とクリスマスで欲しいもんもらえた小学生みたいな顔してやがった。

 世間だと、こういうう奴はサイコパスって言うらしいね。
 けど俺は慈愛に溢れた聖人でもないからな。虫も自分から触りたいとは思わないし、生きてようが死んでようがどうでもいいからあえて止めることも無かったのがお互い上手くやっていけた秘訣だったんだろう。

 というのもアイツ顔も金払いもそれなりに良いからちょくちょく女の子とよく付き合っていたが、趣味で虫を養殖してること、そしてその虫を弄んで殺すのがわかってから別れるというのが恒例だったのさ。
 おかげで毎回酒奢ってもらえる代わりに愚痴聞かされる羽目になったもんだ。

 まあ、今じゃそんなことも無くなったけどな。

 ああ、許容してくれる心の広い女の子が現れたってことはない。
 嘆く必要が無くなったのさ。

 死人に恋人なんかいらないだろ?

 ああ、もう死んでるよ。

 去年の春ごろだったかな?

 休み明けだったけど学校に来なくて、しばらくしても連絡がないからサークルの奴が見に行ったらしいんだけど。
 大家に頼んで鍵開けて入ったら…死体がすごいことになってたらしい。

 …俺も見たわけじゃない、又聞きでしかないからどこまで本当か判らないんだがな。

 Yとアロワナ、どっちも死んでたんだがその体が虫にびっしりたかられてたんだってさ。コオロギとかミルワームとか。ミルワームってあれ、肉食なんかね?
 しかも死因は窒息だったらしいんだが、どっちも食道から口までびっしり虫の死骸で詰まってたんだとさ。
 このせいで警察は自殺だと判断したらしいんだが…ありえるか? わざわざ魚の食道詰めた後で、自分の息が詰まるまで貪り食うとか?
 いやまあ、薬やってたとかならありうるのか? 俺の知ってる限りじゃ、そんなんやってた様子は無いんだがなぁ。

 そういえばさ、不思議なのはそれだけじゃないんだよな。
 事件発覚後、遺族が気づいたら生餌がきれいさっぱりなくなってたんだってさ。
 しかも結構な期間、巣箱とか使ってた様子が無かったんだと。けど、司法解剖によるとどちらも死後そんなに日にちは経ってないって話だ。
 じゃあアロワナは何を食ってたんだって話だよ。本当に不思議だよなぁ。


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ツギハ3ニチ19ジ
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