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第二十二話 ネット娘_5
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洋佑が失踪してから半年が経ち、ようやく人々の記憶から忘れたようだった。
当初、洋佑の失踪はローカルニュースにも取り上げられるほどの話題を呼んだ。
俺と美佐子さん、敏明とが出会っていた間に帰宅していたらしい洋佑は、トゥルーワールド・オンラインの画面を立ち上げたままに行方知れずとなった。その際、画面にはチャット欄に、「今日からずっと、一緒だよ」という一文だけが残されていたため、様々な憶測が飛び交ったのだ。
ゲーム内で知り合った相手と道ならぬ恋に落ち、駆け落ちしたのだ。
いや、ゲームにはまったことに腹を立てた妻が殺したのだ。
どころかその妻と、会社の同僚とが共謀して殺したに違いない。
いずれも俺たちからすれば荒唐無稽というものでしかないが、知らない人たちにとっては与り知らぬことだ。ほとんどの大衆はただ、自分たちの下卑た好奇心を充足させてくれるもっともらしい情報を見つけ、したり顔で道徳的優位を抱えて反撃できない人形を叩けさえできれば真実などどうでもいいのだ。
この、自覚無い世間からの悪意により、俺と、何より美佐子さんたちは心に深い傷を負わされた。
会社をはじめとして各方面で俺たちの噂は広まり、後ろ指を指される羽目になった。同僚にも、上司にも、取引先にも、俺たちの反論の言葉は届かない。無責任な噂に追い立てられ、会社を後にしたのは程なくしてのことだった。
俺は独り身だからまだいい。多少の蓄えは残してあるし、やり直しはできる。
そうはいかなかったのは美佐子さんたちだった。
俺たちは当初は互いに励ましあっていたが、程なくして連絡を取り合う気力も喪われ、結局敏明との約束も守ることなく今日まできてしまった。
先日、たまたま出会った知り合いから美佐子さんは実家に帰ったという話を聞いた。連絡が無かったのは、お互いに古傷に触れ合うことを避けたかったからだ。
どちらが悪いわけでもない。ただ、互いの存在が、互いの傷を刺激してしまうのだ。
だからもう、二度と彼女たちと連絡を取り合うことはないだろう。
そして、洋佑とも。
……こういう書き方をしたのは、厳密に言えば、俺は洋佑の行方を知ることだけはできたからだ。
間違えないで欲しい、再会、ではない。
このことは、美佐子さんには言っていない…到底言えなかった。
少し前、俺は久し振りにトゥルーワールド・オンラインの更新情報を確認した。
それというのも、たまたま別の記事を流し読みしたときに目に入った、ある文言が目を引いたためだ。
『大型アップデート! 可愛い新モンスター、エルマナヤンがテイミング可能になります!』
エルマナヤン。
その文字に誘われ、飛びつくようにして俺は記事に目を通した。
それまで実装されていなかったエルマナヤンの能力などについての説明がずらずら書かれていたが、そこはどうでもいい。
俺の目は画像を見ていた。
件の画像はパーティーを組んでいるGM視点のもので、同パーティーのテイマーが連れているエルマナヤンが中心にフォーカスされている。
しばらくその画像の一点を凝視していたが、ふと声が漏れていた。
「そうか」
ずっと心の奥底で刺さっていた、抜けない小骨のような違和感。
共に狩りをしたときNPCなんじゃないかと尋ねたが、あれは自分でもよく分からないなりに本質を突いた疑問だったのだ。
俺は当初、HPゲージなどはテイマーにしか見えないのかと思っていた。が、記事に掲載されている画像は別職の視点でありながらゲージ表示されているのが写っている。つまり、テイミングモンスターはHP表示がPT組んでいる他者にも見えるはずなのだ。
いや、もしかしたら今回の更新で見えるようになるのかもしれないが、それまで存在していた職の根幹に関わる情報ならそこについても触れてないなんてことはあるまい。その可能性は今は無視していいはずだ。
では、洋佑が連れていたエルマナヤンとは一体なんだったのか。
PTメンバーから、HPMPが見えない存在…
そんな存在、俺にはひとつしか心当たりがない。
「アレは、モンスターだったんだな」
大概のMMORPGにおいて、非アクティブモンスターは戦闘状態に入るまではHPやMPゲージは表示されないことが多い。
つまり…エルマナヤンは、テイミングされていないだけの野良モンスターだったのである。
…だが、それが判ったところでなんだというのだろうか。
現状では、単に俺たちは非アクティブでテイミングされていない、当時未実装だったモンスターと戯れた、という程度の情報でしかない。これ自体は珍しい情報ではあろうが、洋佑の失踪と結びつけるのは流石に無茶だろう。
結局、洋佑とエルマナヤンはただの偶然でしかないはずだ…
そう気持ちに折り合いをつけ、ニュースに視線を戻した俺だったが。
「ああ…」
次の記事で、俺の折り合いは木っ端微塵に砕け散った。
記事は、こうつづいている。
『エルマナヤンのテイミング情報についても開発者から聞き出したぞ! エルマナヤンには父親がいる。彼の依頼を聞くのがテイミングへの第一歩だ!!』
そして、隣には父親の画像…解像度が荒いが間違いない、洋佑の自キャラがそこには写っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ツギハ22ニチ19ジ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なお、後日別キャラを作成して取得してみたところ、大幅に弱体化されていていたそうな。どっとはらい。
当初、洋佑の失踪はローカルニュースにも取り上げられるほどの話題を呼んだ。
俺と美佐子さん、敏明とが出会っていた間に帰宅していたらしい洋佑は、トゥルーワールド・オンラインの画面を立ち上げたままに行方知れずとなった。その際、画面にはチャット欄に、「今日からずっと、一緒だよ」という一文だけが残されていたため、様々な憶測が飛び交ったのだ。
ゲーム内で知り合った相手と道ならぬ恋に落ち、駆け落ちしたのだ。
いや、ゲームにはまったことに腹を立てた妻が殺したのだ。
どころかその妻と、会社の同僚とが共謀して殺したに違いない。
いずれも俺たちからすれば荒唐無稽というものでしかないが、知らない人たちにとっては与り知らぬことだ。ほとんどの大衆はただ、自分たちの下卑た好奇心を充足させてくれるもっともらしい情報を見つけ、したり顔で道徳的優位を抱えて反撃できない人形を叩けさえできれば真実などどうでもいいのだ。
この、自覚無い世間からの悪意により、俺と、何より美佐子さんたちは心に深い傷を負わされた。
会社をはじめとして各方面で俺たちの噂は広まり、後ろ指を指される羽目になった。同僚にも、上司にも、取引先にも、俺たちの反論の言葉は届かない。無責任な噂に追い立てられ、会社を後にしたのは程なくしてのことだった。
俺は独り身だからまだいい。多少の蓄えは残してあるし、やり直しはできる。
そうはいかなかったのは美佐子さんたちだった。
俺たちは当初は互いに励ましあっていたが、程なくして連絡を取り合う気力も喪われ、結局敏明との約束も守ることなく今日まできてしまった。
先日、たまたま出会った知り合いから美佐子さんは実家に帰ったという話を聞いた。連絡が無かったのは、お互いに古傷に触れ合うことを避けたかったからだ。
どちらが悪いわけでもない。ただ、互いの存在が、互いの傷を刺激してしまうのだ。
だからもう、二度と彼女たちと連絡を取り合うことはないだろう。
そして、洋佑とも。
……こういう書き方をしたのは、厳密に言えば、俺は洋佑の行方を知ることだけはできたからだ。
間違えないで欲しい、再会、ではない。
このことは、美佐子さんには言っていない…到底言えなかった。
少し前、俺は久し振りにトゥルーワールド・オンラインの更新情報を確認した。
それというのも、たまたま別の記事を流し読みしたときに目に入った、ある文言が目を引いたためだ。
『大型アップデート! 可愛い新モンスター、エルマナヤンがテイミング可能になります!』
エルマナヤン。
その文字に誘われ、飛びつくようにして俺は記事に目を通した。
それまで実装されていなかったエルマナヤンの能力などについての説明がずらずら書かれていたが、そこはどうでもいい。
俺の目は画像を見ていた。
件の画像はパーティーを組んでいるGM視点のもので、同パーティーのテイマーが連れているエルマナヤンが中心にフォーカスされている。
しばらくその画像の一点を凝視していたが、ふと声が漏れていた。
「そうか」
ずっと心の奥底で刺さっていた、抜けない小骨のような違和感。
共に狩りをしたときNPCなんじゃないかと尋ねたが、あれは自分でもよく分からないなりに本質を突いた疑問だったのだ。
俺は当初、HPゲージなどはテイマーにしか見えないのかと思っていた。が、記事に掲載されている画像は別職の視点でありながらゲージ表示されているのが写っている。つまり、テイミングモンスターはHP表示がPT組んでいる他者にも見えるはずなのだ。
いや、もしかしたら今回の更新で見えるようになるのかもしれないが、それまで存在していた職の根幹に関わる情報ならそこについても触れてないなんてことはあるまい。その可能性は今は無視していいはずだ。
では、洋佑が連れていたエルマナヤンとは一体なんだったのか。
PTメンバーから、HPMPが見えない存在…
そんな存在、俺にはひとつしか心当たりがない。
「アレは、モンスターだったんだな」
大概のMMORPGにおいて、非アクティブモンスターは戦闘状態に入るまではHPやMPゲージは表示されないことが多い。
つまり…エルマナヤンは、テイミングされていないだけの野良モンスターだったのである。
…だが、それが判ったところでなんだというのだろうか。
現状では、単に俺たちは非アクティブでテイミングされていない、当時未実装だったモンスターと戯れた、という程度の情報でしかない。これ自体は珍しい情報ではあろうが、洋佑の失踪と結びつけるのは流石に無茶だろう。
結局、洋佑とエルマナヤンはただの偶然でしかないはずだ…
そう気持ちに折り合いをつけ、ニュースに視線を戻した俺だったが。
「ああ…」
次の記事で、俺の折り合いは木っ端微塵に砕け散った。
記事は、こうつづいている。
『エルマナヤンのテイミング情報についても開発者から聞き出したぞ! エルマナヤンには父親がいる。彼の依頼を聞くのがテイミングへの第一歩だ!!』
そして、隣には父親の画像…解像度が荒いが間違いない、洋佑の自キャラがそこには写っていた。
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ツギハ22ニチ19ジ
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なお、後日別キャラを作成して取得してみたところ、大幅に弱体化されていていたそうな。どっとはらい。
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