安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第五十六話 成長動画

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 先日、母の死を知った。

 心臓麻痺だったそうだ。

 喧嘩別れして以来実家に数年来寄らなかったが、私の記憶の中ではそんな持病を抱えていた記憶はない。
 私と別れて以来、心労を掛けてしまったのかもしれない。

 最後の別れをするつもりで遺品を整理しに戻ったが、そこで私は大量のビデオテープを見つけた。
 タイトルには、私の名前、それから日付と思しき数字。

「母さん、そんなに私のことを気にしてたのか」

 記憶の中の母は、そこまで私に愛情を注いでくれたような覚えがない。

 片親で私を成人まで育ててくれたことには感謝しているが、折々早くして亡くなった父のことを思い出してはことあるごとに私に当たっていた。
 成長して図体が大きくなってからは暴力を揮われることはめっきり減ったが、それでも長年の虐待を忘れようと思っても忘れられるものではない。

 そんな母の意外な一面に、私は非常に強い興味を覚えた。

 荷物を整理する手を止め、休憩がてらビデオを観てみることにした。

「まだ動くか…お、動くな」

 埃をかぶったデッキは、ちゃんと動いてくれた。やはり昔の機械は頑丈でいい。
 最も古い日付のテープを再生する。

「へえ…これは、父さんか。若いな」

 モニタの中では、若い男女がおくるみに包まれた赤ん坊が映っている。動画の中の両親は、私が知らない笑顔に溢れていた。

 それから数年、幸せな家族の光景が流れる。あまり私にはそのあたりの記憶は残っていないが…

「こんなときもあったんだなぁ…ん? あれ?」

 違和感に気づいたのは、父が死んだ後からだった。
 ここら辺から私にも母の表情や映されている背景に記憶がある。あるのだが、

「これ…誰が撮影してるんだ?」

 ここまで一度足りとも、両親と私以外の人物は映されていない。
 最初は祖父母や親友辺りかと思っていたが、それなら彼らが一度も画面に映らないなんてことがあるのだろうか。

 違和感は、更に際立っていく。

「なん…だ、これ」

 つづけて日付をまたいだテープを観る私は、驚愕していた。
 こんな、撮影された光景…知らない。

 モニタの私も母も、互いに険悪な光景を映し出している。よく見知った光景。
 そして、一度たりとも私たちは…モニタの方を向いていない。
 ようやく、私は…誰かに家族動画を撮られていたという記憶そのものが無いことに思い当たった。

 隠し撮りされている。

 誰が、何のために隠し撮りを? しかも、こんな長い間。
 疑問に答える者は誰もいない。

 ビデオテープの日付はすでに近年に移っていた。

 動画の中には、私はいなくなって久しい。
 母だけが、延々と隠し撮りされている。彼女は年を経るにつれ、小さな物音に身を震わせたり、何もないところを素早く覗き込むなど不審な挙動が増えてきた。

 そして、最後のテープ…先日の日付。
 私は震える手で動画を再生する。

 モニタの中では、就寝中のやつれた母にゆっくりと撮影者が近づいていくのが映し出されていた。
 そして、顔が大写しにされる。

 目を覚ました母が驚愕、そして…恐怖の顔を浮かべ、掴みかからんと手を差し伸べる。
 それもモニタが引いたことで叶わず、そのまま彼女はぐったり伏して動かなくなったところで動画は終わった。


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ツギハ12ニチ19ジ
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