安瀬乃片敷六丁目六番地六号より

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第六十一話 くわれた

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 近所に、とても小さい空き地がある。
 大人が大股で数歩も歩けば角に行きつく、そんなサイズ。
 そこに、少し前までは家が建っていた。確かに老夫婦が二人、住んでいた。

 木造の平屋で、風呂どころか台所すら無いという家だった。
 噂好きの母によれば、近所に家族がいて料理を届けてくれていたらしい。
 いずれにせよ、私はその家族とは会ったことが無いのでその程度しか知らない。

 いつからか、その家を蔦が覆うようになった。
 多分数年前からでなかったろうか。
 少なくとも、私が覚えてる限りではそう古くはなかったように思う。

 そこの家人はよほど億劫なのか、或いは植物に絡まれる家がお好みだったのか。とにかく蔦は手入れされることもなく、ただひたすらに傍若無人に伸び続けた。
 間を置かずして壁を満遍なく覆った蔦はやがては屋根、窓、そして玄関すらも瞬く間に蹂躙していく。
 家人はその頃になるともはや外に出ることすらなく、食事を届けにきた嫁女が毎度毎度窓の蔦を押しのけては手渡していたらしい。
 無論そんな不便極まりない生活が長く続くはずもなく、やがて息子の奥さんは離縁したそうだ。

 さて、その後しばらくはゴタゴタが続いていたそうで、元旦那さんがようやく親のことを思い出したのはひと月経ってからのこと。
 慌てて食事を持って行きがてら様子を見に行ったが、当然反応は無い。
 これはまずいことになったやもしれぬ、と業者を呼んで蔦を払いのけさせることにした…のだが。

「なんじゃあ、こりゃあ」
 蔦を払いのけて出てきたのは、空間だった。
 何もない、野ざらしの土間。本来外部とを隔てる壁すら存在しなかった。
 慌てて中に飛び込んでみたが、そこには家人どころか家財なども消え失せ、もはや人が住んでいた形跡すらない。
 そんな馬鹿な話があるか、とやけになってすべての蔦を切り倒させたところ出てきたのは朽ちてボロボロになった柱と欠けた茶碗が幾つか残されていたくらいで、あたかも家を建てる前の地ならしだけしたような光景だけが残されていた。

 通報されて警察が調査するも、家人の存在した証は見つけられず。或いは息子が死体を処分したのでは…と疑われたりもしたがこんな手間暇をかける理由も見当たらず、結局行方は杳として知れない。
 世間の目が厳しくなり、居づらくなった息子はそそくさと引っ越してしまった。

 やがて、人々は口々に噂した。
 あの家は蔦に喰われたのだと。

 以来、土地は買い手がついていない。

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 ツギハ27ニチ19ジ
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