オカルトタルト

千葉シグ

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第1話 オカルトタルト

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 地球の皆さん、こんにちは。

 我々は宇宙人である。

 我々は現在、ちまたで評判のタルト専門店を視察中である。時刻は地球の日本標準時で午後三時。ちょうど、おやつの時間である。いかにも女の子が好きそうな北欧テイストの可愛らしい店内に、私と博士は完全にまぎれ込んでいる。誰が見ても我々はただのスイーツ好きの二十代女子、むしろ女子力高めの二十代女子にしか見えないであろう。我々の潜伏は常に完璧なのである。

「ご注文はお決まりでしょうか」
 と、イケメンの男性店員がたずねた。

「決まった? 私はもう決まった」
 私は言った。私はいつも決断がはやい。
「うーん、ちょっと待って、えっと、うん、大丈夫」
 博士はうなずきながらも、その目線はまだメニューの上を慌ただしく行ったり来たりしていた。
「私、これ。木苺とベリーのタルト」
「あ、私もそれも悩んだー。でもこっちにしよ。この季節のフルーツタルトで」
「かしこまりました」

 店員はさわやかな微笑を残して去った。

 確実に去った。

 彼が我々の会話が聞こえないところまで遠ざかったことを確認した博士は、

「艦長はいつも決めるのがはやいですなあ」
 と言った。

「博士が遅すぎるのだよ。吾輩わがはいが店員を呼ばない限り、貴殿きでん延々えんえんと悩み続けるだろう」

「いやあ、おっしゃる通りで」
 博士はそう言って前髪をなでた。彼女は困ったときや照れたときなど、いつも前髪を触る。小学生のときから変わらぬ彼女のクセである。

「髪色ちょっと明るくした?」
 私はたずねた。
「よくお気づきで。艦長は少し切りましたか?」
「うん。毛先痛んでたし」
 私は毛先を指ではさんで点検した。私は髪のパサつきを許さない。枝毛はすべて粛清しゅくせい済みだ。

「そんなことより博士」
 私は毛先を解放して言った。
「最近、中国が月の裏側を調べている。このままでは我々の月面基地の存在が露見するもの時間の問題だろう。早急に手を打たねばなるまい」
 私は机の上で指を組んだ。
「それがですね、艦長」
 博士はスマホを手に取って、何やら検索すると私のほうに画面を見せた。私はそのネット記事の見出しを読んだ。

『驚愕! 月の裏側に謎の建造物!』

「すでに盛大にバレています」
 博士は言った。
「ワオ」

 私は彼女のスマホを手に取って、記事に見入った。

「長方形の人口建造物、巨大タワー、ピラミッド……? なんだこれは……我々の基地ではないものが混じってるな。やはり我々以外にも月を拠点として地球を調査しようとする者たちがいたのか」
 私はあごに手をやった。おそらく事態は深刻だった。

 私、ベテルギウス艦長と、リゲル博士は、地球探査のために遥かオリオン大星雲からやってきた宇宙人である。


 ――という設定で話をしているだけの、ただのアラサー女子である。


 リゲル博士は、じつは博士ではない。現在、銀行の窓口係をやっている私の幼馴染おさななじみである。無論、私も艦長ではない。宇宙船に乗ったこともない。現在、証券会社の社畜をやっている二十六歳の独身女性である。博士は私に敬語を使うが、私はべつに年上ではない。我々は同級生だ。ただ、私が設定上「艦長」という最高責任者的な立場であるため、何となくそういう言葉づかいになっているにすぎない。

 博士とは小学校一年生から四年生までずっと同じクラスで、なおかつ家も近所だったことから、自然と親しくなった。私は幼少の頃から宇宙やUFO、UMAなどの超常現象的なもの、いわゆるオカルトに強い感心があり、当然、私と仲の良かった博士もその影響を受けて、どんどんこちら側に染まっていった。というより、積極的に染めたと言ったほうが正しいかもしれない。私は私の原点であり、聖書バイブルでもある『X-ファイル』シリーズを延々と彼女に見せ続けるという、なかば洗脳に近い行為を行ったが、もともと彼女に興味がなければ、そんな洗脳自体成功しなかっただろうし、私とここまで意気投合し、友情が発展することもなかっただろうと思われる。我々はやはり、根本的なところで似ているのだと思う。

 我々はよく宇宙の話をした。遠くの星々に思いをせ、自由に空想を膨らませることは何より楽しかった。我々は、普通の女の子がおままごとをしたり、お姫様ごっこをしたりするような感覚で、壮大なスケールの「宇宙人ごっこ」に熱中した。我々は地球の文明を調査するためにオリオン大星雲からやってきた宇宙人であり、私はその調査団を指揮する宇宙船の艦長で、彼女はその右腕にして天才科学者である。いつしか二人の間でそんな設定が定着していった。

 そして、驚くべきことに、大人になった今でもその設定は生きていた。

 もちろん、それは二人の間だけのことで、他の人には絶対にバレないように、いつも細心の注意を払っている。

「近々、月をめぐる争奪戦が勃発ぼっぱつするかもしれない」
 私は深刻な表情でつぶやいた。
「いずれにせよ、我らの基地の存在を地球に知られるわけにはいかない。何かいい手はないかね、博士」
「ご安心ください、艦長。すでに手は打ってあります。ステルス機能を搭載とうさいした最新のディフレクター・シールドが間もなく完成する予定でして、今月中には稼働かどうできるかと」
 博士はキメ顔で言った。
「さすがは博士。我が右腕」
 私は満足げにうなずいた。
「幸い、NASAはなぜか真実を隠したがっているようで、建造物の存在を全力で否定しております」
「なるほど。理由はだいたい察しがつく。おそらくNASAは――」


「お待たせいたしました。木苺とベリーのタルトでございます」


 私はもちろん口をつぐんだ。
 イケメンの店員が我々の前に、素晴らしくつやつやとしたタルトを運んできた。

「わあッ 美味しそう!」
「ボリュームやばーい」
 我々は即座に一般的な女子の反応に切り替える。
「写真とろー」
「私もー」
「お取りしましょうか?」
「いいんですかー?」
「ありがとうございまーす」
 カメラに向かって、最高の笑顔をお見舞いする。

「さてさて」
 店員も去り、我々はうきうきとフォークをかまえた。

「はああ、至福なり」
 一口食べるなり、博士は顔をほころばせた。
「うむ。いい仕事をしている」
 私はうなずいた。木苺の酸味と甘いタルト生地の絶妙なハーモニーを堪能たんのうする。

 ちなみに、美味しいスイーツを食べているときの我々の心境は、一般的な女子と大差ない。

「ちょっと交換しようではないか、博士」
「望むところです、艦長」

 そして、目の前の美味しいスイーツを食すことは、すべての事項に優先する。

 我々の壮大なる作戦会議は、いつもこうやってスイーツのために棚上げされるのであった。 
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