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蓮の似合わない男
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暫く歩くと、広場の中心に近づいてきた。そこには何やら作業をする男達の姿がある。
「ダリウス、あれは何をしているのだ?」
アンバーが尋ねるが、ダリウスからの返事はない。アンバーは少しムッとしながらも、もう一度ダリウスを呼ぶ。
「ダリウス?」
服の袖をちょいちょいと引っ張ると、ダリウスは漸くハッとしたように振り向いた。
「すみません、少し考え事をしていて。なんですか?」
「あの者達だ、何をしているのだ?」
「ああ、あれは花火師の方達です」
そう言ってダリウスは上を見上げる。日は大分落ちたものの、空はうっすらと最後の青い明るさを残していた。
「もう少しで暗くなりますね。夜になったら花火が打ち上がります」
ダリウスはアンバーに向き直り続ける。
「すぐに戻りますので、一人で買い物をしてきて構いませんか?」
「先程の考え事はそれか?」
「……はい」
アンバーが揶揄う様にそう言うと、ダリウスは少し恥ずかしげに肯定した。それに、アンバーの胸はまたズキリと痛む。
(カイ様への土産だな)
アンバーは心の隅でダリウスを止めたい様な衝動に駆られる。しかし、アンバーは止める理由など持ち合わせはていない。
「構わん、人の少ないところで待っているからゆっくり行ってこい」
結局アンバーはダリウスの肩を叩き、大人らしく余裕ぶるしかなかった。
くるりと背を向けたその大きな身体が遠くなり、人混みに消えていく。
共に居てほしいと腕を掴んでいたら、きっと今は違った。そして、きっとその今は選ばなくて正解だったのだと、アンバーは胸の小さな歪みを納得させる。
アンバーは広場を後ろに、裏路地周りの店が無く人気も無い場所へと歩き始める。なんだか心がすかすかで、何故側を離れたのかとダリウスに対する八つ当たりの気持ちと、今すぐ抱きしめて欲しいという寂しさに支配されそうになるのをなんとか消しながら歩みを進めていた。
人混みを抜け、徐々に大きくなっていたシャリシャリという砂利の音が突然衝撃と共に掻き消される。
「!?」
アンバーがバッと左に身体ごと向くと、腕の中に望んでいたダリウスとは似ても似つかない、小柄な青年が飛び込んできた。オステルメイヤーの人間らしい少し暗い色の肌が、それでも分かるほどに紅く火照っている。
αの身体は、瞬時に腕の中にヒートのΩがいる事を認識する。
「すみませんっ、とつぜんヒートに……、たすけて……」
ぼろぼろと泣きながらその青年は顔を上げるが、相手がαであることを認識した瞬間その顔に絶望の色が差す。
無理もない。場所はすぐ裏路地に連れ込める所、なんとか助けを求めた相手はΩの自分では太刀打ち出来ない様な大柄のα男性、身体は本能のまま相手に縋り付いていた。
アンバーの中のαが、自身を求めるΩに応えようとする。
(いやだ……、あいつ以外となんて駄目だ……なのに、フェロモンが強すぎて……)
必死に身体を抑え本能に抗うが、頭がくらくらして息が荒くなる。
「いや……助け……」
抱き支える手に力が入ると同時に鼓膜に響いたその声にアンバーはハッとし、最後の理性で叫んだ。
「誰か!この中にΩの者はいないか!」
少し離れた場所にいた民衆達の目がサッと集まる。
「誰か……早く!Ωの者を呼んできてくれ!」
困惑する者達にアンバーは叫び続けるが、どんどんと理性が飛んでいき唇の上から液体が伝うのを感じた。
(手を出すなんて言語道断だ……、だがもう……!)
その時だった。
「あの……!私Ωです!」
人混みを掻き分けて一人の女性が近づいてくる。アンバーにはその女性がまさに女神に見えた。
「この者がヒートを起こしている。私は……α故もう側には居られない。頼んだぞ!」
「えっ!?」
グイッと青年を女性に押し付けると、アンバーは立ち上がりその場を離れるべく走り出した。
「ダリウス……、ダリウス……ダリウス……」
アンバーはダリウスの名を呟きながら、彼が向かっていった方向へと走り続ける。広場の多少舗装された地面はそれでも凹凸を残しており、我武者らに走っていたアンバーはとうとうその一つに足を取られた。
地面に叩きつけられる、と目を閉じるもアンバーの身体はがっしりと力強い腕に抱き止められる。
「アンバー!?何故ここに?」
「ダリウス……?」
アンバーは人混みの中に、一瞬二人だけの世界が生まれたように感じた。
「鼻血が出ているじゃないですか!」
「あ……、すまない服が……」
「そんなことはいいんです!一体何が……」
ダリウスの言葉を制止するように、アンバーはダリウスの胸元を縋る様に掴みながらもう片方の手で目一杯自身の服を下に引っ張る。
「だりうす……」
潤んだ瞳で、今にも泣き出しそうな声でアンバーはもう一度、ダリウスの名を呼んだ。
「ダリウス、あれは何をしているのだ?」
アンバーが尋ねるが、ダリウスからの返事はない。アンバーは少しムッとしながらも、もう一度ダリウスを呼ぶ。
「ダリウス?」
服の袖をちょいちょいと引っ張ると、ダリウスは漸くハッとしたように振り向いた。
「すみません、少し考え事をしていて。なんですか?」
「あの者達だ、何をしているのだ?」
「ああ、あれは花火師の方達です」
そう言ってダリウスは上を見上げる。日は大分落ちたものの、空はうっすらと最後の青い明るさを残していた。
「もう少しで暗くなりますね。夜になったら花火が打ち上がります」
ダリウスはアンバーに向き直り続ける。
「すぐに戻りますので、一人で買い物をしてきて構いませんか?」
「先程の考え事はそれか?」
「……はい」
アンバーが揶揄う様にそう言うと、ダリウスは少し恥ずかしげに肯定した。それに、アンバーの胸はまたズキリと痛む。
(カイ様への土産だな)
アンバーは心の隅でダリウスを止めたい様な衝動に駆られる。しかし、アンバーは止める理由など持ち合わせはていない。
「構わん、人の少ないところで待っているからゆっくり行ってこい」
結局アンバーはダリウスの肩を叩き、大人らしく余裕ぶるしかなかった。
くるりと背を向けたその大きな身体が遠くなり、人混みに消えていく。
共に居てほしいと腕を掴んでいたら、きっと今は違った。そして、きっとその今は選ばなくて正解だったのだと、アンバーは胸の小さな歪みを納得させる。
アンバーは広場を後ろに、裏路地周りの店が無く人気も無い場所へと歩き始める。なんだか心がすかすかで、何故側を離れたのかとダリウスに対する八つ当たりの気持ちと、今すぐ抱きしめて欲しいという寂しさに支配されそうになるのをなんとか消しながら歩みを進めていた。
人混みを抜け、徐々に大きくなっていたシャリシャリという砂利の音が突然衝撃と共に掻き消される。
「!?」
アンバーがバッと左に身体ごと向くと、腕の中に望んでいたダリウスとは似ても似つかない、小柄な青年が飛び込んできた。オステルメイヤーの人間らしい少し暗い色の肌が、それでも分かるほどに紅く火照っている。
αの身体は、瞬時に腕の中にヒートのΩがいる事を認識する。
「すみませんっ、とつぜんヒートに……、たすけて……」
ぼろぼろと泣きながらその青年は顔を上げるが、相手がαであることを認識した瞬間その顔に絶望の色が差す。
無理もない。場所はすぐ裏路地に連れ込める所、なんとか助けを求めた相手はΩの自分では太刀打ち出来ない様な大柄のα男性、身体は本能のまま相手に縋り付いていた。
アンバーの中のαが、自身を求めるΩに応えようとする。
(いやだ……、あいつ以外となんて駄目だ……なのに、フェロモンが強すぎて……)
必死に身体を抑え本能に抗うが、頭がくらくらして息が荒くなる。
「いや……助け……」
抱き支える手に力が入ると同時に鼓膜に響いたその声にアンバーはハッとし、最後の理性で叫んだ。
「誰か!この中にΩの者はいないか!」
少し離れた場所にいた民衆達の目がサッと集まる。
「誰か……早く!Ωの者を呼んできてくれ!」
困惑する者達にアンバーは叫び続けるが、どんどんと理性が飛んでいき唇の上から液体が伝うのを感じた。
(手を出すなんて言語道断だ……、だがもう……!)
その時だった。
「あの……!私Ωです!」
人混みを掻き分けて一人の女性が近づいてくる。アンバーにはその女性がまさに女神に見えた。
「この者がヒートを起こしている。私は……α故もう側には居られない。頼んだぞ!」
「えっ!?」
グイッと青年を女性に押し付けると、アンバーは立ち上がりその場を離れるべく走り出した。
「ダリウス……、ダリウス……ダリウス……」
アンバーはダリウスの名を呟きながら、彼が向かっていった方向へと走り続ける。広場の多少舗装された地面はそれでも凹凸を残しており、我武者らに走っていたアンバーはとうとうその一つに足を取られた。
地面に叩きつけられる、と目を閉じるもアンバーの身体はがっしりと力強い腕に抱き止められる。
「アンバー!?何故ここに?」
「ダリウス……?」
アンバーは人混みの中に、一瞬二人だけの世界が生まれたように感じた。
「鼻血が出ているじゃないですか!」
「あ……、すまない服が……」
「そんなことはいいんです!一体何が……」
ダリウスの言葉を制止するように、アンバーはダリウスの胸元を縋る様に掴みながらもう片方の手で目一杯自身の服を下に引っ張る。
「だりうす……」
潤んだ瞳で、今にも泣き出しそうな声でアンバーはもう一度、ダリウスの名を呼んだ。
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