愛を抱えて溺れ死にたい。

日向明

文字の大きさ
19 / 29
蓮の似合わない男

19

しおりを挟む
 暫く歩くと、広場の中心に近づいてきた。そこには何やら作業をする男達の姿がある。
「ダリウス、あれは何をしているのだ?」
 アンバーが尋ねるが、ダリウスからの返事はない。アンバーは少しムッとしながらも、もう一度ダリウスを呼ぶ。
「ダリウス?」
 服の袖をちょいちょいと引っ張ると、ダリウスはようやくハッとしたように振り向いた。
「すみません、少し考え事をしていて。なんですか?」
「あの者達だ、何をしているのだ?」
「ああ、あれは花火師の方達です」
 そう言ってダリウスは上を見上げる。日は大分落ちたものの、空はうっすらと最後の青い明るさを残していた。
「もう少しで暗くなりますね。夜になったら花火が打ち上がります」
 ダリウスはアンバーに向き直り続ける。
「すぐに戻りますので、一人で買い物をしてきて構いませんか?」
「先程の考え事はそれか?」
「……はい」
 アンバーが揶揄う様にそう言うと、ダリウスは少し恥ずかしげに肯定した。それに、アンバーの胸はまたズキリと痛む。
 (カイ様への土産だな)
 アンバーは心の隅でダリウスを止めたい様な衝動に駆られる。しかし、アンバーは止める理由など持ち合わせはていない。
「構わん、人の少ないところで待っているからゆっくり行ってこい」
 結局アンバーはダリウスの肩を叩き、大人らしく余裕ぶるしかなかった。
 くるりと背を向けたその大きな身体が遠くなり、人混みに消えていく。
 共に居てほしいと腕を掴んでいたら、きっと今は違った。そして、きっとそのは選ばなくて正解だったのだと、アンバーは胸の小さな歪みを納得させる。
 アンバーは広場を後ろに、裏路地周りの店が無く人気ひとけも無い場所へと歩き始める。なんだか心がすかすかで、何故側を離れたのかとダリウスに対する八つ当たりの気持ちと、今すぐ抱きしめて欲しいという寂しさに支配されそうになるのをなんとか消しながら歩みを進めていた。
 人混みを抜け、徐々に大きくなっていたシャリシャリという砂利の音が突然衝撃と共に掻き消される。
「!?」
 アンバーがバッと左に身体ごと向くと、腕の中に望んでいたダリウスとは似ても似つかない、小柄な青年が飛び込んできた。オステルメイヤーの人間らしい少し暗い色の肌が、それでも分かるほどに紅く火照っている。
 αの身体は、瞬時に腕の中にヒートのΩがいる事を認識する。
「すみませんっ、とつぜんヒートに……、たすけて……」
 ぼろぼろと泣きながらその青年は顔を上げるが、相手がαであることを認識した瞬間その顔に絶望の色が差す。
 無理もない。場所はすぐ裏路地に連れ込める所、なんとか助けを求めた相手はΩの自分では太刀打ち出来ない様な大柄のα男性、身体は本能のまま相手に縋り付いていた。
 アンバーの中のαが、自身を求めるΩに応えようとする。
 (いやだ……、あいつ以外となんて駄目だ……なのに、フェロモンが強すぎて……)
 必死に身体を抑え本能に抗うが、頭がくらくらして息が荒くなる。
「いや……助け……」
 抱き支える手に力が入ると同時に鼓膜に響いたその声にアンバーはハッとし、最後の理性で叫んだ。
「誰か!この中にΩの者はいないか!」
 少し離れた場所にいた民衆達の目がサッと集まる。
「誰か……早く!Ωの者を呼んできてくれ!」
 困惑する者達にアンバーは叫び続けるが、どんどんと理性が飛んでいき唇の上から液体が伝うのを感じた。
 (手を出すなんて言語道断だ……、だがもう……!)
 その時だった。
「あの……!私Ωです!」
 人混みを掻き分けて一人の女性が近づいてくる。アンバーにはその女性がまさに女神に見えた。
「この者がヒートを起こしている。私は……α故もう側には居られない。頼んだぞ!」
「えっ!?」
 グイッと青年を女性に押し付けると、アンバーは立ち上がりその場を離れるべく走り出した。
「ダリウス……、ダリウス……ダリウス……」
 アンバーはダリウスの名を呟きながら、彼が向かっていった方向へと走り続ける。広場の多少舗装された地面はそれでも凹凸を残しており、我武者がむしゃらに走っていたアンバーはとうとうその一つに足を取られた。
 地面に叩きつけられる、と目を閉じるもアンバーの身体はがっしりと力強い腕に抱き止められる。
「アンバー!?何故ここに?」
「ダリウス……?」
 アンバーは人混みの中に、一瞬二人だけの世界が生まれたように感じた。
「鼻血が出ているじゃないですか!」
「あ……、すまない服が……」
「そんなことはいいんです!一体何が……」
 ダリウスの言葉を制止するように、アンバーはダリウスの胸元を縋る様に掴みながらもう片方の手で目一杯自身の服を下に引っ張る。
「だりうす……」
 潤んだ瞳で、今にも泣き出しそうな声でアンバーはもう一度、ダリウスの名を呼んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

愛憎の檻・義父の受難

でみず
BL
深夜1時過ぎ、静寂を破るように玄関の扉が開き、濡れそぼった姿の少年・瀬那が帰宅する。彼は義父である理仁に冷たく敵意を向け、反発を露わにする。新たな家族に馴染めない孤独や母の再婚への複雑な思いをぶつける瀬那に、理仁は静かに接しながらも強い意志で彼を抱きしめ、冷え切った心と体を温めようとする。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...