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2話 二人は兄妹になる
陽太は、ブロックのそばで結衣を待っていた。保育園の遊び場は、昨日と同じように騒がしい。子供たちの笑い声、先生の呼びかける声、砂遊びのざらざらした音。でも、陽太の耳には、結衣の声だけが響いていた。
「陽太! おはよ!」
結衣が走ってくるのが見えた。ボサボサの髪、ヨレヨレの服、膝の擦り傷。でも、彼女の笑顔は、陽太の小さな世界を明るくした。陽太は、思わず立ち上がった。
「おはよ、結衣!」
陽太の声は、いつもより少し大きかった。結衣は、陽太の隣にドスンと座った。
「ねえ、今日、もっと高い城作ろうよ! 昨日、崩れちゃったからさ!」
結衣のキラキラした目に、陽太は頷いた。
「うん! 今度は、絶対崩れないようにする!」
陽太は、赤いブロックを手に取った。結衣が「ここにお姫様の部屋!」と叫びながら、青いブロックを高く積む。陽太は、結衣の笑顔を見ながら、胸が温かくなった。
「陽太、かっこいい! 絶対、すっごい城になるよ!」
結衣の言葉に、陽太の頬が熱くなった。かっこいい。陽太は、そんな言葉を初めて聞いた。家では、いつも「役立たず」「汚い」と言われるだけなのに。陽太は、そっと呟いた。
「結衣が笑っててくれるなら…俺、なんでもできるよ…」
結衣は、陽太の呟きを聞いていなかった。彼女は、ブロックを積みながら、楽しそうに鼻歌を歌っていた。陽太は、その姿を見ながら、思った。結衣がそばにいるなら、怖い家に帰っても、頑張れる。結衣が笑ってくれるなら、どんな痛みも耐えられる。
その日の夕方、陽太は母親に連れられて、家に帰った。古びたアパートのドアを開けると、いつものタバコの匂いが鼻をついた。母親は、陽太を部屋に押し込むと、ソファにドカッと座った。
「陽太、邪魔すんなよ。今日は大事な話があるんだから」
母親の声は、いつもより少し柔らかかった。でも、陽太には、その柔らかさが怖かった。母親が笑うとき、いつも何か悪いことが起きる。陽太は、縮こまって頷いた。
「…はい、ママ」
母親は、タバコを吸いながら、誰かと電話で話始めた。
「そう、今日、会うんだよ。あの男、結構金持ってそうだからさ。陽太? あいつは大人しくしてるよ。問題ない」
陽太は、部屋の隅で膝を抱えた。母親の声が、遠くで響く。陽太の腹が、ぐうっと鳴った。朝から何も食べていない。でも、陽太は、それを口に出さなかった。言えば、怒られるだけだ。
「結衣…今、何してるかな…」
陽太は、ポケットの赤いブロックを握りしめた。結衣と一緒に積んだブロック。陽太は、その感触に安心した。結衣の笑顔を思い出すと、胸が少しだけ軽くなった。
同じ夜、結衣は自分の家で毛布にくるまっていた。彼女の家は、陽太の家より少し広いけど、冷たさは同じだった。母親は、リビングで新しい男と笑い合っている。結衣は、部屋の隅で小さくなっていた。
「結衣、邪魔すんなよ。いいな?」
母親の声が、リビングから聞こえる。結衣は、小さく頷いた。でも、誰も見ていない。新しい男の笑い声が、結衣の耳に刺さる。結衣の父親は、去年、突然いなくなった。それ以来、母親はいつもイライラしている。結衣が何か言うと、すぐに叩かれる。
「ママ…怒らないで…」
結衣は小さな声で呟いた。でも、誰も聞いていない。結衣の目が、うるっとした。母親の笑い声が遠くで響く。新しい男と楽しそうに話す声。結衣には、その笑顔が遠いものだった。
結衣は、ポケットからキラキラ光る石を取り出した。保育園の遊び場で、陽太と一緒に探した石。結衣は、それを握りしめた。
「陽太…明日、また会えるよね…」
結衣の心は、怖さと寂しさでいっぱいだった。母親の怒鳴り声、新しい男の目、冷たい部屋。でも、陽太のことを思うと、胸が少しだけ温かくなった。陽太は、結衣を笑わせてくれる。陽太は、結衣を「仲間」と言ってくれる。
「あたし、陽太のこと…大好きだよ…」
結衣の小さな呟きは、誰もいない部屋に消えた。でも、その言葉は、結衣の心を強くした。陽太がいるなら、怖くても頑張れる。結衣は、そう思った。
数日後の朝、陽太は保育園で結衣に会った。いつもと同じように、ブロックのそばで待っていた。結衣が走ってくるのが見えた瞬間、陽太の顔がパッと明るくなった。
「陽太! ねえ、聞いて!」
結衣が、息を切らしながら陽太の前に立った。彼女の目は、いつもより少し暗かった。
「ママが…新しいパパと結婚するって。家、変わるんだって…」
陽太の胸が、ドキッと跳ねた。結衣がいなくなる? そんなの、嫌だ。陽太は、慌てて聞いた。
「…どこ行くの? 遠く?」
結衣は首を振った。
「わかんない。でも、ママ、なんか嬉しそうだった。陽太は?」
陽太は目を伏せた。結衣の言葉が、陽太の心をざわつかせた。陽太も、母親から同じ話を聞いていた。
「ママも…新しい人と結婚するって。パパ、ずっと帰ってこないから…」
陽太の声は、小さく震えていた。結衣は、陽太の手をぎゅっと握った。
「陽太…なんか、怖いよね。新しい家、どんなかな…」
結衣の声は、いつもより弱々しかった。陽太は、結衣の手を握り返した。
「結衣…怖いことあっても、俺、そばにいるよ。仲間だろ?」
陽太の言葉に、結衣の目がキラッと光った。
「うん! 陽太がいるなら、あたし、どんな家でも平気! だって、陽太はあたしの王子様だもん!」
結衣の笑顔に、陽太の胸がぎゅっと熱くなった。王子様。陽太は、そんな風に思われたことがなかった。でも、結衣がそう言ってくれるなら、陽太は本当に王子様になれる気がした。
「俺、結衣を守るよ。絶対…」
陽太の小さな決意は、結衣に届いた。結衣は、陽太の肩にポンと手を置いた。
「陽太、かっこいい! あたし、陽太の仲間、ずっと続けるから!」
二人は、ブロックを積み始めた。今日は、もっと高い城を作る。結衣が笑いながらブロックを重ね、陽太がそっと支える。二人の笑い声が、保育園の遊び場に響いた。
数週間後、陽太は母親に連れられて、新しい家に引っ越した。古びたアパートの3階、壁にはシミが浮かんだ部屋。陽太の荷物は、小さなリュックひとつだけ。母親は、陽太を部屋に押し込むと、新しい男と一緒にリビングに座った。
「陽太、ここにいろ。邪魔すんなよ」
母親の声は、冷たかった。陽太は、縮こまって頷いた。
「…はい、ママ」
新しい男が、陽太をチラッと見た。陽太は、その目にゾッとした。父親の目と同じ、冷たくて怖い目。陽太は、部屋の隅に座り、膝を抱えた。
「結衣…今、どこにいるんだろう…」
陽太は、ポケットの赤いブロックを握りしめた。結衣の笑顔を思い出すと、胸が少しだけ温かくなった。でも、新しい家は、陽太を締め付けるように冷たかった。
その夜、ドアが開く音がした。陽太が顔を上げると、そこに結衣が立っていた。彼女の後ろには、陽太の新しい父親と同じ男がいた。
「陽太!?」
結衣が目を丸くした。陽太も、言葉を失った。結衣が、ここにいる。同じ家に。
「なんで…結衣が…?」
陽太の声は、震えていた。結衣は、陽太に駆け寄った。
「陽太! あたしも、今日、ここに引っ越してきたの! ママが、この人と結婚したから…」
結衣の言葉に、陽太の頭がぐるぐるした。母親が言っていた「新しい家族」が、結衣の家族と一緒だなんて。
「結衣…お前、陽太の義妹になるんだよ」
新しい父親が、面倒くさそうに言った。陽太と結衣は、顔を見合わせた。驚きと、ほんの少しの喜びが、胸に広がった。
「陽太…あたしたち、兄妹だね!」
結衣が、パッと笑った。その笑顔は、暗い部屋を照らす小さな光のようだった。陽太は、結衣の手をぎゅっと握った。
「うん…結衣、兄妹だ。ずっと、一緒だよ…」
陽太の声は、小さかったけど、強い決意に満ちていた。結衣は、陽太の肩に頭を乗せた。
「陽太があたしのお兄ちゃん…なんか、すっごく嬉しい!」
結衣の言葉に、陽太の目がうるっとした。でも、陽太はそれを隠して、笑顔で頷いた。
「俺、結衣を守るよ。どんなことがあっても…」
陽太の決意は、新しい家の冷たい空気に溶けた。でも、結衣の笑顔は、陽太の心を温かくした。陽太は、結衣の手を握りながら、思った。
「結衣が笑っててくれるなら、俺、どんな家でも耐えられる…」
結衣は、陽太の手を握りながら、心の中で呟いた。
「陽太…あたし、怖かったんだ。新しい家、知らない人、全部…でも、陽太がいるなら、あたし、頑張れるよ…」
結衣の心は、陽太への信頼でいっぱいだった。でも、その奥には、母親への恐怖と、新しい家への不安が渦巻いていた。結衣は、陽太の手を握りしめた。
「陽太…あたし、陽太のこと、ほんとに大好きだよ…」
結衣の小さな声は、陽太には届かなかった。でも、その気持ちは、結衣の心を強くした。陽太がいるなら、どんな怖いことがあっても、結衣は笑っていられる。そう、結衣は信じていた。
新しい家のリビングでは、陽太の母親と結衣の母親が、新しい父親と笑い合っていた。彼らの声は、陽太と結衣の小さな部屋には届かない。陽太と結衣は、部屋の隅で寄り添い、ブロックを手に持った。
「陽太、このブロック、持ってきたの?」
結衣が、陽太の赤いブロックを見て笑った。
「うん…結衣と作った城、覚えてたかったから…」
陽太の声は、恥ずかしそうだった。結衣は、キラキラ光る石を取り出した。
「じゃあ、あたしも! この石、陽太と拾ったやつ!」
結衣の笑顔に、陽太の胸がぎゅっと熱くなった。二人は、ブロックと石を並べて、そっと積み始めた。
「陽太、どんな家でも、こうやって城作れるよね?」
結衣の声に、陽太は頷いた。
「うん…結衣と一緒なら、どんな城でも作れるよ…」
陽太の言葉は、小さな部屋に響いた。新しい家の冷たい空気の中、陽太と結衣の絆は、微かな光を放っていた。陽太は、結衣の笑顔を見ながら、思った。
「結衣が笑っててくれるなら、俺、どんなことでも頑張れる…
「陽太! おはよ!」
結衣が走ってくるのが見えた。ボサボサの髪、ヨレヨレの服、膝の擦り傷。でも、彼女の笑顔は、陽太の小さな世界を明るくした。陽太は、思わず立ち上がった。
「おはよ、結衣!」
陽太の声は、いつもより少し大きかった。結衣は、陽太の隣にドスンと座った。
「ねえ、今日、もっと高い城作ろうよ! 昨日、崩れちゃったからさ!」
結衣のキラキラした目に、陽太は頷いた。
「うん! 今度は、絶対崩れないようにする!」
陽太は、赤いブロックを手に取った。結衣が「ここにお姫様の部屋!」と叫びながら、青いブロックを高く積む。陽太は、結衣の笑顔を見ながら、胸が温かくなった。
「陽太、かっこいい! 絶対、すっごい城になるよ!」
結衣の言葉に、陽太の頬が熱くなった。かっこいい。陽太は、そんな言葉を初めて聞いた。家では、いつも「役立たず」「汚い」と言われるだけなのに。陽太は、そっと呟いた。
「結衣が笑っててくれるなら…俺、なんでもできるよ…」
結衣は、陽太の呟きを聞いていなかった。彼女は、ブロックを積みながら、楽しそうに鼻歌を歌っていた。陽太は、その姿を見ながら、思った。結衣がそばにいるなら、怖い家に帰っても、頑張れる。結衣が笑ってくれるなら、どんな痛みも耐えられる。
その日の夕方、陽太は母親に連れられて、家に帰った。古びたアパートのドアを開けると、いつものタバコの匂いが鼻をついた。母親は、陽太を部屋に押し込むと、ソファにドカッと座った。
「陽太、邪魔すんなよ。今日は大事な話があるんだから」
母親の声は、いつもより少し柔らかかった。でも、陽太には、その柔らかさが怖かった。母親が笑うとき、いつも何か悪いことが起きる。陽太は、縮こまって頷いた。
「…はい、ママ」
母親は、タバコを吸いながら、誰かと電話で話始めた。
「そう、今日、会うんだよ。あの男、結構金持ってそうだからさ。陽太? あいつは大人しくしてるよ。問題ない」
陽太は、部屋の隅で膝を抱えた。母親の声が、遠くで響く。陽太の腹が、ぐうっと鳴った。朝から何も食べていない。でも、陽太は、それを口に出さなかった。言えば、怒られるだけだ。
「結衣…今、何してるかな…」
陽太は、ポケットの赤いブロックを握りしめた。結衣と一緒に積んだブロック。陽太は、その感触に安心した。結衣の笑顔を思い出すと、胸が少しだけ軽くなった。
同じ夜、結衣は自分の家で毛布にくるまっていた。彼女の家は、陽太の家より少し広いけど、冷たさは同じだった。母親は、リビングで新しい男と笑い合っている。結衣は、部屋の隅で小さくなっていた。
「結衣、邪魔すんなよ。いいな?」
母親の声が、リビングから聞こえる。結衣は、小さく頷いた。でも、誰も見ていない。新しい男の笑い声が、結衣の耳に刺さる。結衣の父親は、去年、突然いなくなった。それ以来、母親はいつもイライラしている。結衣が何か言うと、すぐに叩かれる。
「ママ…怒らないで…」
結衣は小さな声で呟いた。でも、誰も聞いていない。結衣の目が、うるっとした。母親の笑い声が遠くで響く。新しい男と楽しそうに話す声。結衣には、その笑顔が遠いものだった。
結衣は、ポケットからキラキラ光る石を取り出した。保育園の遊び場で、陽太と一緒に探した石。結衣は、それを握りしめた。
「陽太…明日、また会えるよね…」
結衣の心は、怖さと寂しさでいっぱいだった。母親の怒鳴り声、新しい男の目、冷たい部屋。でも、陽太のことを思うと、胸が少しだけ温かくなった。陽太は、結衣を笑わせてくれる。陽太は、結衣を「仲間」と言ってくれる。
「あたし、陽太のこと…大好きだよ…」
結衣の小さな呟きは、誰もいない部屋に消えた。でも、その言葉は、結衣の心を強くした。陽太がいるなら、怖くても頑張れる。結衣は、そう思った。
数日後の朝、陽太は保育園で結衣に会った。いつもと同じように、ブロックのそばで待っていた。結衣が走ってくるのが見えた瞬間、陽太の顔がパッと明るくなった。
「陽太! ねえ、聞いて!」
結衣が、息を切らしながら陽太の前に立った。彼女の目は、いつもより少し暗かった。
「ママが…新しいパパと結婚するって。家、変わるんだって…」
陽太の胸が、ドキッと跳ねた。結衣がいなくなる? そんなの、嫌だ。陽太は、慌てて聞いた。
「…どこ行くの? 遠く?」
結衣は首を振った。
「わかんない。でも、ママ、なんか嬉しそうだった。陽太は?」
陽太は目を伏せた。結衣の言葉が、陽太の心をざわつかせた。陽太も、母親から同じ話を聞いていた。
「ママも…新しい人と結婚するって。パパ、ずっと帰ってこないから…」
陽太の声は、小さく震えていた。結衣は、陽太の手をぎゅっと握った。
「陽太…なんか、怖いよね。新しい家、どんなかな…」
結衣の声は、いつもより弱々しかった。陽太は、結衣の手を握り返した。
「結衣…怖いことあっても、俺、そばにいるよ。仲間だろ?」
陽太の言葉に、結衣の目がキラッと光った。
「うん! 陽太がいるなら、あたし、どんな家でも平気! だって、陽太はあたしの王子様だもん!」
結衣の笑顔に、陽太の胸がぎゅっと熱くなった。王子様。陽太は、そんな風に思われたことがなかった。でも、結衣がそう言ってくれるなら、陽太は本当に王子様になれる気がした。
「俺、結衣を守るよ。絶対…」
陽太の小さな決意は、結衣に届いた。結衣は、陽太の肩にポンと手を置いた。
「陽太、かっこいい! あたし、陽太の仲間、ずっと続けるから!」
二人は、ブロックを積み始めた。今日は、もっと高い城を作る。結衣が笑いながらブロックを重ね、陽太がそっと支える。二人の笑い声が、保育園の遊び場に響いた。
数週間後、陽太は母親に連れられて、新しい家に引っ越した。古びたアパートの3階、壁にはシミが浮かんだ部屋。陽太の荷物は、小さなリュックひとつだけ。母親は、陽太を部屋に押し込むと、新しい男と一緒にリビングに座った。
「陽太、ここにいろ。邪魔すんなよ」
母親の声は、冷たかった。陽太は、縮こまって頷いた。
「…はい、ママ」
新しい男が、陽太をチラッと見た。陽太は、その目にゾッとした。父親の目と同じ、冷たくて怖い目。陽太は、部屋の隅に座り、膝を抱えた。
「結衣…今、どこにいるんだろう…」
陽太は、ポケットの赤いブロックを握りしめた。結衣の笑顔を思い出すと、胸が少しだけ温かくなった。でも、新しい家は、陽太を締め付けるように冷たかった。
その夜、ドアが開く音がした。陽太が顔を上げると、そこに結衣が立っていた。彼女の後ろには、陽太の新しい父親と同じ男がいた。
「陽太!?」
結衣が目を丸くした。陽太も、言葉を失った。結衣が、ここにいる。同じ家に。
「なんで…結衣が…?」
陽太の声は、震えていた。結衣は、陽太に駆け寄った。
「陽太! あたしも、今日、ここに引っ越してきたの! ママが、この人と結婚したから…」
結衣の言葉に、陽太の頭がぐるぐるした。母親が言っていた「新しい家族」が、結衣の家族と一緒だなんて。
「結衣…お前、陽太の義妹になるんだよ」
新しい父親が、面倒くさそうに言った。陽太と結衣は、顔を見合わせた。驚きと、ほんの少しの喜びが、胸に広がった。
「陽太…あたしたち、兄妹だね!」
結衣が、パッと笑った。その笑顔は、暗い部屋を照らす小さな光のようだった。陽太は、結衣の手をぎゅっと握った。
「うん…結衣、兄妹だ。ずっと、一緒だよ…」
陽太の声は、小さかったけど、強い決意に満ちていた。結衣は、陽太の肩に頭を乗せた。
「陽太があたしのお兄ちゃん…なんか、すっごく嬉しい!」
結衣の言葉に、陽太の目がうるっとした。でも、陽太はそれを隠して、笑顔で頷いた。
「俺、結衣を守るよ。どんなことがあっても…」
陽太の決意は、新しい家の冷たい空気に溶けた。でも、結衣の笑顔は、陽太の心を温かくした。陽太は、結衣の手を握りながら、思った。
「結衣が笑っててくれるなら、俺、どんな家でも耐えられる…」
結衣は、陽太の手を握りながら、心の中で呟いた。
「陽太…あたし、怖かったんだ。新しい家、知らない人、全部…でも、陽太がいるなら、あたし、頑張れるよ…」
結衣の心は、陽太への信頼でいっぱいだった。でも、その奥には、母親への恐怖と、新しい家への不安が渦巻いていた。結衣は、陽太の手を握りしめた。
「陽太…あたし、陽太のこと、ほんとに大好きだよ…」
結衣の小さな声は、陽太には届かなかった。でも、その気持ちは、結衣の心を強くした。陽太がいるなら、どんな怖いことがあっても、結衣は笑っていられる。そう、結衣は信じていた。
新しい家のリビングでは、陽太の母親と結衣の母親が、新しい父親と笑い合っていた。彼らの声は、陽太と結衣の小さな部屋には届かない。陽太と結衣は、部屋の隅で寄り添い、ブロックを手に持った。
「陽太、このブロック、持ってきたの?」
結衣が、陽太の赤いブロックを見て笑った。
「うん…結衣と作った城、覚えてたかったから…」
陽太の声は、恥ずかしそうだった。結衣は、キラキラ光る石を取り出した。
「じゃあ、あたしも! この石、陽太と拾ったやつ!」
結衣の笑顔に、陽太の胸がぎゅっと熱くなった。二人は、ブロックと石を並べて、そっと積み始めた。
「陽太、どんな家でも、こうやって城作れるよね?」
結衣の声に、陽太は頷いた。
「うん…結衣と一緒なら、どんな城でも作れるよ…」
陽太の言葉は、小さな部屋に響いた。新しい家の冷たい空気の中、陽太と結衣の絆は、微かな光を放っていた。陽太は、結衣の笑顔を見ながら、思った。
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