【本編完結】転生令嬢、目指すはスローライフ〜イベント企画担当者ではないのよ!

ブラウン

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本編

第94話 そろそろ自分の気持ちと向き合う

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 ジェイシス様は夜会前に泊まる部屋を案内してくれた。もう部屋が決まっていたのね。

「私の部屋はこの隣だ。ここは公爵夫人用の部屋となる。お互い行き来ができるよう鍵はないのだが、いいだろうか?それに部屋の雰囲気が自分の好みに合わないようなら言って欲しい。業者を呼んで、好みの部屋にする」
 落ち着きのある木目調の部屋。

「とても落ち着いていいお部屋ですね。で、ですが、あの、お隣はジェイシス様のお部屋ですか?まだ、私には早いと思うのですが。客室で大丈夫なのですが」

「いや、早めに用意した方がいいと思ったのだ。アイリが気にいる部屋にしたかったのだがダメかな」
 前にも見たことのあるジェイシス様がシュンと耳が垂れ下がった犬のように哀愁が漂っている。いつも毅然としたジェイシス様とは違い、頭を撫で撫でしてあげたくなるような雰囲気になってしまった。

「大丈夫です、この部屋は落ち着いていてゆったり出来そうですね。ジェイシス様にも今までのことを色々とお話を聞いて欲しいです。お話聞いていただけますか?」
 甘い雰囲気にさせないわよ。

「ああ、会えなかった時の話を色々聞きたいな」

 それからジェイシス様の部屋に行き、会えなかった時期のことを話をした。レンタルサービスは大盛況だったこと。ジェイシス様の洋服もとても良かった。男性のところにはお兄さまやカイデール殿下が変装までして手伝ってくれたので大助かりしたこと。薬錬コースに1年女性が6人選択したこと。みんなで魔道テントを作ったので、野外活動の練習でうちの庭でキャンプをしたが、フェルナンド殿下までキャンプをしたことを伝えた。
「フェルナンドがキャンプ?あははは、カイデールもルルーシェもフェルナンドに泣かれると弱いからな。連れてきたのか」

「そうですよ、うちの弟たちと楽しく遊んでいたので良かったです。朝早く起きて虫取りにも出掛けてました。カイデール殿下との仲がより近づいたという感じですね」

「子供達3人で何をして遊んでいたのだ?」

「はじめキャンプのためのテント設営を手伝っていただいたのですが、だんだん難しい講義になってしまって、飽きてきたのでプール?水を張った浴槽みたいなものと滑り台を設営し、水遊びをしました。もちろん安全面を考え、下に護衛騎士を配置してましたので溺れることはなかったです。絶対目を離さないようにと決め事をしまいました」

「ごめん、全く想像がつかないよ」

「収納から出してみましょうか?」
 私は収納からプールと滑り台、魔道テント、魔道コンロ、椅子、テーブルなどを出した。出しても余裕のあるジェイシス様のお部屋。広いね。

「これが魔道テント。中を見てもいいかな?」
 ジェイシス様興味津々で中に入っていく。

「これはすごいな。これは快適に野外活動ができるな。これを薬錬コースのメンバーに貸出しているのか?騎士コースにも?」

「そうです、一応不便な点、改良して欲しい点など感想をもらってます。そして、外で使ってもらい宣伝効果を狙ってます。まだ売り出ししてませんが、問い合わせは来ています」
 先輩たちは、魔道テントを持って野外活動をしている。それを見た行商や冒険者などがあれは何だ?と興味を示している。

「本当にアイリはよく考えるよ。そして今回持ってきたコーヒーとチョコか。モンテスキュー侯爵殿とアレクセイ殿は魔道具を作ることが大変なのではないか?」

「忙しいかもしれませんね。お兄さまは商会の方も忙しいと思います。頑張って欲しいですね」

「ふふっ、アイリ、他人事に聞こえるよ。何か私にも手伝えることがあるかな?私が動くと利益などが生まれてしまうから、後ろ盾としてなにか出来ないかな」

「そうですね、このすべり台とプールの材料とチョコが危険かなぁと思っているのです。父に相談してからで良いですか?」

「危ないと思うようなことがあったら後ろ盾になるので相談して欲しい。いつでも盾になるよ。会わない間にアイリの周りは色々なことが行われているのだね。私もアイリと一緒に考え行動して行きたいよ。夜会後は、モンテスキューの領地に叔父、いや国王陛下の来訪で忙しくなるのだろう?」

「そうですね。でも、モンテスキュー領地でジェイシス様も楽しんで欲しいのです。ジェイシス様が領地に来て、一緒に散策したり領地を紹介します。楽しみにしていてください」
 あなたという人は私を喜ばせてくれるのですからと強く抱きしめられた。

 抱きしめられるとドキドキしてしまうが、ほっとする安心感があるなぁとこの頃思う。相談事をしたり話を聞いてもらったり、楽しい。

 抱きしめられたり、口づけしたりと受け入れている自分がいる。番と判明して半年以上になる。そろそろ向き合う時期なのだろうか。自分の心の答えはすでにわかっている。言葉にしていないだけ。

 抱きしめ返して伝えた。

「ジェイシス様、好きですよ」

「えっ⁉︎」
 顔を見合わせて、にこりと微笑んだ。

 ぎゅっと抱きしめられ、ジェイシス様の体が熱く感じる。
「はぁ、アイリ。愛してる。愛してる。うれしい」
 額、耳、頬、唇と降りてきた。

「愛しているよ、アイリ」
 濃厚な口づけが続く。首筋まで降りてきたが、その時ドアをノックする音が聞こえた。

「チッ」
 ジェイシス様、舌打ちしましたよ。舌打ちを。はぁ、顔が熱い。

「ジェイシス様、食事の用意ができましたがいかがいたしますか?こちらにお持ちいたしましょうか?食事室ではイーサン様とマーガレット様がお待ちですが」

「はぁ、食事室に行く。先に食べていてもらっても良い」
 執事のファーガソンは空気を読んだのか、こちらにお持ちいたします、しばらくお待ちを、と言って足早に退室した。

「こちらに食事を運んでもらうことになった。少し整えよう」
 軽く口づけした。

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