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シルヴェイン王国
52話 森の心臓
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少女の寝息を確認したあと、
セイヴは静かに立ち上がり、深く息を吸った。
「……行く。」
ノエルとアリア、ガルドも静かにうなずく。
外に出ると、
森はさっきより暗くなっていた。
月が雲に隠れ、里全体が薄い影の中に沈んでいる。
「足音を立てるな。森が……こちらを聴いている。」
セイヴの言葉に、ノエルは足を止める。
耳を澄ませると、風のない夜の中で、
木々が揺れていないはずなのに、
どこかで“こすれる音”がした。
それは風の音ではなく──
眠りの中で誰かが息をするような、重い気配。
ノエルは無意識に胸元の短剣に触れた。
刃が冷たく、指先が少し痺れる。
「森の奥は……地形が変わってるかもしれない。」
セイヴが前を見たまま、低い声で言う。
「眠りが広がるたびに、森そのものが少しずつ形を変えている。
道が“迷わせよう”としてくる。」
アリアが息をのんだ。
「それ……本当に道?」
「分からない。だから……言葉を交わしながら行く。」
その言葉が、逆に心細さを際立たせる。
しばらく進むと、
森の音がひとつ、またひとつと消えていった。
虫の声、葉の擦れる音、遠くの枝の軋み──
どれもぴたりと止まる。
ノエルは息をするのすらためらうほどの静けさに包まれた。
「……ここからだ。」
セイヴが立ち止まる。
目の前には大きく口を開けた獣道がある。
夜の闇が溜まっていて、中が見えない。
ガルドが眉をひそめた。
「なんだよ、ここ……底がねぇ井戸みてぇだな。」
「入ったら、引き返さない。
森も……眠りも、前にしか動かない。」
セイヴがゆっくり人差し指を立て、耳元に当てる。
その指先が、わずかに震えていた。
「聞こえるか?」
ノエルは目を閉じる。
耳の奥で、かすかな“音”がした。
ざ……
ざざ……
細い何かが、地面を這うような音。
でも、動物の気配はない。
「……なに、これ……?」
アリアが不安そうに呟く。
セイヴは短く答えた。
「眠りの“ささやき”だ。
中心部に近づくと、強くなる。」
ガルドが剣に手を置いたが、セイヴが制した。
「武器を抜くな。
森は“音”に敏感だ。
攻撃の気配があれば、道そのものが閉じる。」
「そんな……森が?」
「この眠りは、ただの魔法じゃない。
森そのものが見ている。」
ノエルは息をのみ、暗闇を見つめた。
中から、何かがこっちを見ているような──
そんな錯覚が、背筋をゆっくり冷やしていく。
一歩、足を踏み入れた瞬間、
風がほんの少しだけ揺れた。
止まっていた空気が、微弱な脈のように動く。
「今の、感じたか?」
セイヴが振り返らずに言う。
ノエルは小さくうなずいた。
「……感じた。
たぶん……何かが待ってる。」
「眠りの中心には“気配”がある。
……あれに近づけば、少女の状態が分かるかもしれない。」
セイヴの言葉に、ノエルもアリアも口を閉じた。
森の奥は暗く、深く、
歩いても歩いても、同じ風景が続く。
だがそのたびに、
背後で“何か”の気配が少しずつ近づいていた。
音はしないのに、
距離だけが縮まってくる感じ。
ノエルは振り返りたくなった。
でもセイヴが言った。
「振り返るな。
眠りは、背中から入ってくる。」
喉の奥がひりついた。
その時──
闇の先で、かすかな光が揺れた。
それは生き物の灯りでも、松明でもない。
眠る森の奥で、ただひとつだけ“動くもの”。
セイヴが小さく息をつく。
「……あれだ。
眠りの中心。」
ノエルの胸の奥で、短剣が震えた。
そこには、
深い眠りを抱えた森の“心臓”があった。
セイヴは静かに立ち上がり、深く息を吸った。
「……行く。」
ノエルとアリア、ガルドも静かにうなずく。
外に出ると、
森はさっきより暗くなっていた。
月が雲に隠れ、里全体が薄い影の中に沈んでいる。
「足音を立てるな。森が……こちらを聴いている。」
セイヴの言葉に、ノエルは足を止める。
耳を澄ませると、風のない夜の中で、
木々が揺れていないはずなのに、
どこかで“こすれる音”がした。
それは風の音ではなく──
眠りの中で誰かが息をするような、重い気配。
ノエルは無意識に胸元の短剣に触れた。
刃が冷たく、指先が少し痺れる。
「森の奥は……地形が変わってるかもしれない。」
セイヴが前を見たまま、低い声で言う。
「眠りが広がるたびに、森そのものが少しずつ形を変えている。
道が“迷わせよう”としてくる。」
アリアが息をのんだ。
「それ……本当に道?」
「分からない。だから……言葉を交わしながら行く。」
その言葉が、逆に心細さを際立たせる。
しばらく進むと、
森の音がひとつ、またひとつと消えていった。
虫の声、葉の擦れる音、遠くの枝の軋み──
どれもぴたりと止まる。
ノエルは息をするのすらためらうほどの静けさに包まれた。
「……ここからだ。」
セイヴが立ち止まる。
目の前には大きく口を開けた獣道がある。
夜の闇が溜まっていて、中が見えない。
ガルドが眉をひそめた。
「なんだよ、ここ……底がねぇ井戸みてぇだな。」
「入ったら、引き返さない。
森も……眠りも、前にしか動かない。」
セイヴがゆっくり人差し指を立て、耳元に当てる。
その指先が、わずかに震えていた。
「聞こえるか?」
ノエルは目を閉じる。
耳の奥で、かすかな“音”がした。
ざ……
ざざ……
細い何かが、地面を這うような音。
でも、動物の気配はない。
「……なに、これ……?」
アリアが不安そうに呟く。
セイヴは短く答えた。
「眠りの“ささやき”だ。
中心部に近づくと、強くなる。」
ガルドが剣に手を置いたが、セイヴが制した。
「武器を抜くな。
森は“音”に敏感だ。
攻撃の気配があれば、道そのものが閉じる。」
「そんな……森が?」
「この眠りは、ただの魔法じゃない。
森そのものが見ている。」
ノエルは息をのみ、暗闇を見つめた。
中から、何かがこっちを見ているような──
そんな錯覚が、背筋をゆっくり冷やしていく。
一歩、足を踏み入れた瞬間、
風がほんの少しだけ揺れた。
止まっていた空気が、微弱な脈のように動く。
「今の、感じたか?」
セイヴが振り返らずに言う。
ノエルは小さくうなずいた。
「……感じた。
たぶん……何かが待ってる。」
「眠りの中心には“気配”がある。
……あれに近づけば、少女の状態が分かるかもしれない。」
セイヴの言葉に、ノエルもアリアも口を閉じた。
森の奥は暗く、深く、
歩いても歩いても、同じ風景が続く。
だがそのたびに、
背後で“何か”の気配が少しずつ近づいていた。
音はしないのに、
距離だけが縮まってくる感じ。
ノエルは振り返りたくなった。
でもセイヴが言った。
「振り返るな。
眠りは、背中から入ってくる。」
喉の奥がひりついた。
その時──
闇の先で、かすかな光が揺れた。
それは生き物の灯りでも、松明でもない。
眠る森の奥で、ただひとつだけ“動くもの”。
セイヴが小さく息をつく。
「……あれだ。
眠りの中心。」
ノエルの胸の奥で、短剣が震えた。
そこには、
深い眠りを抱えた森の“心臓”があった。
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