25人の子供たち

ひなた

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6話

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月曜日の朝。
藤崎は教室の扉を開けた瞬間、違和感を覚えた。
空気が重い。
子供たちの声が、ひとつも聞こえない。

黒板の前に立ち、出席簿を開く。
名前を呼ぶたびに返ってくる返事は、どれも小さく、
どこか遠くから響くように感じた。

そして、気づいた。
教室の後ろ――四つの机が、きれいに空いていた。
椅子はきちんと揃えられ、
机の上にはそれぞれ、一冊のノートだけが置かれている。

誰も、何も言わない。
机の持ち主の名前を呼んでも、
子供たちは目を伏せたまま、動かなかった。

昼過ぎ、職員室に呼ばれた。
教頭の田所が、会議の中央に立っていた。
周囲の教師たちは沈黙し、
ただその言葉を待っている。

「……今日をもって、星ヶ丘小学校は一時的に休校とします」

その声は、驚くほど落ち着いていた。

「理由は“安全確認のため”。
外部にはそれ以上のことは言わないでください。
子供たちを守るためです」

守る、という言葉に違和感があった。
誰もが頷き、誰も質問をしなかった。

藤崎だけが声を上げた。
「教頭先生、四人も行方不明なんですよ?
 警察も動いていないのに、どうして——」

「先生」
田所の声が、藤崎の言葉を遮った。
「……これ以上は、町が困ります」

その瞬間、室内の空気が変わった。
誰もが同じ方向を向き、
何かを守るように沈黙した。

午後、校庭はからっぽになった。
子供たちは早めに帰され、
教師たちも順番に帰っていく。
夕方になると、校舎の中には藤崎ひとりだけが残っていた。

風が吹き、窓がきしむ音。
廊下の端に並んだ靴箱。
その下に、四つのランドセルが寄り添うように置かれていた。
同じ方向を向き、
まるで“ここで待っている”かのように。

チャイムが鳴った。
帰りを告げる鐘の音が、空っぽの教室に響く。


次の日、臨時休校の張り紙が校門に貼られていた。
白い紙が風に揺れ、テープの端がはがれている。
“安全確認のため、しばらく休校とします。”
その一文が、かえって不安を煽った。

校舎の中は静まり返っていた。
子供たちの声のない学校は、
まるで息を潜めているようだった。

職員室には藤崎ひとりだけが残っていた。
書類の整理をしていると、
ふいにどこかの教室から音がした。

──コトン。

何かが机から落ちたような小さな音。
藤崎は顔を上げ、耳を澄ませた。
しかし、すぐに静寂が戻る。

時計の針が進む音だけが響く。
そのとき、職員室の電話が鳴った。
受話器を取ると、怯えた声が飛び込んできた。

「せ、先生……! うちの子、いないんです!」

2年生の沙耶の母親だった。
泣き声の中で言葉が震えていた。

「朝までは家にいたんです。
 朝ごはんを食べて、テレビを見てたのに。
 気づいたら……靴もそのままで、部屋にもいなくて……!」

藤崎は立ち上がった。
「落ち着いてください。警察には——」

「先生、うちだけじゃないんです!」
母親の声が途切れ、
別の電話のベルが鳴った。

二本目、三本目。
次々に受話器が鳴り響く。

それぞれ違う家庭からだった。
どの親も同じことを言った。

「朝まではいたのに」
「気づいたら、いなくなっていた」
「玄関も閉まったままで、誰も見ていない」

藤崎は背中に冷たい汗を感じた。
この町全体で、何かが起きている。
子供たちが、まとめて“消えている”。

電話が止んだときには、
外はすっかり暗くなっていた。
窓の外の森が闇に沈み、
旧校舎の方向がかすかに見える。

帰り支度をしていた教頭の田所が、
無言で藤崎の机に近づいた。

「先生……今日はもう帰りましょう。」

「僕は残ります。」

田所は藤崎をじっと見つめた。
「……あなたも、呼ばれないといいですね。」

その言葉を残し、田所は職員室を出ていった。

蛍光灯の明かりが落ちる。
藤崎は懐中電灯を手に取り、
真っ暗な廊下を歩き始めた。

遠くの教室から、
チョークが黒板を走る音がした。

──キィ……キィ……

藤崎の足が止まる。
その音は確かに、誰かが字を書いている音だった。

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