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15話
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夜の静けさが、書斎の時計の音をいっそう際立たせていた。
藤崎は机の上のUSBを見つめていた。
小さな金属片。柏木から渡された“証拠”。
冷たい光を反射して、自分の顔を歪ませている。
(これを開けば、もう戻れない)
ノートPCを起動し、USBを差し込む。
小さな電子音が鳴り、フォルダが自動で開く。
中にあったのは、ひとつのファイルだけ。
「職員会議_録音.mp3」
ファイルの作成日は、四年前――事故が起きた日と同じ。
藤崎はマウスを握りしめ、ためらいながら再生を押した。
スピーカーから、かすかな雑音と紙をめくる音が流れる。
複数の声が、反響する会議室の空気の中で交わっていた。
「……事故として処理する。それでいいな」
「報告書に子供の名前が残ります」
「削除しろ。余計な問題を起こすな」
「担任はどうします?」
「辞めてもらう。波風を立てるな。町を混乱させるな」
声の主たちは、誰も動揺していなかった。
それは決定事項を確認するような、慣れた口ぶり。
子供の死を扱っているはずなのに、
まるで何かを片付けるかのような淡々とした口調だった。
音声は四分ほどで終わった。
その短さが、かえって重く感じられた。
藤崎は背もたれに身を預け、呼吸を整える。
冷静を保とうとしても、胸の奥で怒りがじわじわと滲んでいく。
その時、メールの着信音が響いた。
小さな電子音が、静寂を裂く。
画面の隅に通知。
差出人不明。件名は「確認しました」。
本文は、たった一行。
「見ているぞ」
藤崎の手が止まる。
差出人のアドレスは無意味な英数字の羅列。
心臓がゆっくりと跳ねた。
スパムではない。
狙いすました、警告。
マウスから指を離すと、画面が一瞬ちらついた。
開いていたフォルダのアイコンが白く反転する。
続けて、小さなウィンドウが現れた。
「ファイルを削除しています」
「……何だ……?」
藤崎は慌てて操作を試みたが、
マウスもキーボードも反応しなかった。
進行バーが勝手に動き、
録音データの名前が消えていく。
英数字の警告が次々と流れ、
USBのランプが激しく点滅した。
電源ボタンを長押しする。
モニターが暗転するまでの数秒が、
異様に長く感じられた。
部屋の明かりが揺れる。
沈黙が戻った。
藤崎は椅子に深く腰を下ろし、
USBをゆっくりと引き抜いた。
指先が湿っている。
金属の冷たさと汗のぬめりが混じり、
現実の重みがずっしりと伝わる。
(この町では、記録すら許されない……)
誰かがメールを送り、
ウイルスを仕込み、
証拠を消した。
それが誰なのかは問題ではない。
――この町の“仕組み”そのものがそう動くのだ。
机の上の携帯が震えた。
またメール。
件名なし。本文も空白。
だが、開いた瞬間、ひとつの文字列が浮かび上がった。
「あなたも黙っていてください」
藤崎はゆっくりと画面を閉じ、
部屋の灯りを落とした。
闇の中で、外の街灯が薄く光る。
その下を、黒い車がゆっくりと通り過ぎていった。
エンジン音が遠ざかると、
残ったのは時計の秒針の音だけだった。
藤崎は目を閉じ、
握りしめたUSBを強く押し当てた。
痛みが、確かな“現実”の証だった。
藤崎は机の上のUSBを見つめていた。
小さな金属片。柏木から渡された“証拠”。
冷たい光を反射して、自分の顔を歪ませている。
(これを開けば、もう戻れない)
ノートPCを起動し、USBを差し込む。
小さな電子音が鳴り、フォルダが自動で開く。
中にあったのは、ひとつのファイルだけ。
「職員会議_録音.mp3」
ファイルの作成日は、四年前――事故が起きた日と同じ。
藤崎はマウスを握りしめ、ためらいながら再生を押した。
スピーカーから、かすかな雑音と紙をめくる音が流れる。
複数の声が、反響する会議室の空気の中で交わっていた。
「……事故として処理する。それでいいな」
「報告書に子供の名前が残ります」
「削除しろ。余計な問題を起こすな」
「担任はどうします?」
「辞めてもらう。波風を立てるな。町を混乱させるな」
声の主たちは、誰も動揺していなかった。
それは決定事項を確認するような、慣れた口ぶり。
子供の死を扱っているはずなのに、
まるで何かを片付けるかのような淡々とした口調だった。
音声は四分ほどで終わった。
その短さが、かえって重く感じられた。
藤崎は背もたれに身を預け、呼吸を整える。
冷静を保とうとしても、胸の奥で怒りがじわじわと滲んでいく。
その時、メールの着信音が響いた。
小さな電子音が、静寂を裂く。
画面の隅に通知。
差出人不明。件名は「確認しました」。
本文は、たった一行。
「見ているぞ」
藤崎の手が止まる。
差出人のアドレスは無意味な英数字の羅列。
心臓がゆっくりと跳ねた。
スパムではない。
狙いすました、警告。
マウスから指を離すと、画面が一瞬ちらついた。
開いていたフォルダのアイコンが白く反転する。
続けて、小さなウィンドウが現れた。
「ファイルを削除しています」
「……何だ……?」
藤崎は慌てて操作を試みたが、
マウスもキーボードも反応しなかった。
進行バーが勝手に動き、
録音データの名前が消えていく。
英数字の警告が次々と流れ、
USBのランプが激しく点滅した。
電源ボタンを長押しする。
モニターが暗転するまでの数秒が、
異様に長く感じられた。
部屋の明かりが揺れる。
沈黙が戻った。
藤崎は椅子に深く腰を下ろし、
USBをゆっくりと引き抜いた。
指先が湿っている。
金属の冷たさと汗のぬめりが混じり、
現実の重みがずっしりと伝わる。
(この町では、記録すら許されない……)
誰かがメールを送り、
ウイルスを仕込み、
証拠を消した。
それが誰なのかは問題ではない。
――この町の“仕組み”そのものがそう動くのだ。
机の上の携帯が震えた。
またメール。
件名なし。本文も空白。
だが、開いた瞬間、ひとつの文字列が浮かび上がった。
「あなたも黙っていてください」
藤崎はゆっくりと画面を閉じ、
部屋の灯りを落とした。
闇の中で、外の街灯が薄く光る。
その下を、黒い車がゆっくりと通り過ぎていった。
エンジン音が遠ざかると、
残ったのは時計の秒針の音だけだった。
藤崎は目を閉じ、
握りしめたUSBを強く押し当てた。
痛みが、確かな“現実”の証だった。
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