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16話
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朝。
校門をくぐった瞬間、藤崎は違和感を覚えた。
人の気配があるのに、誰の声も聞こえない。
休校中の静けさ――それにしても、妙に重かった。
職員室のドアを開けると、
すでに数人の教員が出勤していた。
新聞を広げる者、コーヒーを飲む者。
いつも通りの光景のはずなのに、
会話が途中で止まる。
「……おはようございます」
藤崎の声に、いくつかの「おはようございます」が返ってくる。
どれも薄く間がある。
藤崎は席に着いた。
視線を感じる。
けれど誰もこちらを見てはいない――ように振る舞っている。
机の上の書類を整えながら、
藤崎は胸の奥で嫌な予感を押し殺した。
(誰かが、何かを話した……?)
USBのことは誰にも言っていない。
見たのは自宅。
それでも、空気の中に“知っている”気配がある。
給湯室へ行く途中、
背後で微かな笑い声がした。
聞き慣れた声。
二人の若い教師だ。
「ほんとに、そうなのかな」
「さあ……でも、関わらない方がいいって」
藤崎が立ち止まると、声が途切れた。
振り向いた瞬間、
彼らは気まずそうに視線をそらして、
湯飲みを手に取る。
「……おはようございます」
「お、おはようございます先生!」
不自然な明るさ。
その場を離れながら、
藤崎は背中に突き刺さるような視線を感じた。
(町の中で、何かが“回っている”。
私が何をしたか――誰が伝えた?)
昼。
校庭は閑散としている。
風が冷たく、雲が低く垂れ込めている。
旧校舎の屋根が遠くに見え、
その影が校舎の壁にかかっていた。
ポケットの中で携帯が震えた。
画面には“非通知”の文字。
藤崎はしばらく迷い、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
低い声。
ゆっくりとした口調。
聞き覚えがある。
「先生。話があります。息子のことです」
春斗の父親だった。
「春斗くんの……? 今どちらに?」
「町のはずれの倉庫跡地に来てください。
あの子が何をしようとしていたのか、
話せるのはもう私しかいません」
「わかりました。すぐ行きます」
「先生」
声が少し低くなる。
「誰にも言わないでください。
特に、学校の人間には」
通話が切れた。
画面に残る“通話終了”の文字が、
ゆっくりとフェードアウトしていく。
校舎を出ようとしたとき、
二階の窓に目をやった。
職員室のブラインドの隙間から、
誰かがこちらを見ている気がした。
視線が合った――と思った瞬間、
ブラインドが静かに閉じた。
(……見られている)
藤崎は足を止めず、
玄関を出た。
風が頬を冷たく撫でる。
ポケットの中で携帯が再び震えた。
画面には、件名なしのメール。
本文は、たった一行。
「見ています」
藤崎は携帯を閉じ、
深く息を吐いた。
(町の誰かが――いや、この町そのものが、
目を離さないようにしているのかもしれない)
その考えを振り払うように、
彼は歩き出した。
行く先には、倉庫跡地。
春斗の父親が待つ場所だった。
校門をくぐった瞬間、藤崎は違和感を覚えた。
人の気配があるのに、誰の声も聞こえない。
休校中の静けさ――それにしても、妙に重かった。
職員室のドアを開けると、
すでに数人の教員が出勤していた。
新聞を広げる者、コーヒーを飲む者。
いつも通りの光景のはずなのに、
会話が途中で止まる。
「……おはようございます」
藤崎の声に、いくつかの「おはようございます」が返ってくる。
どれも薄く間がある。
藤崎は席に着いた。
視線を感じる。
けれど誰もこちらを見てはいない――ように振る舞っている。
机の上の書類を整えながら、
藤崎は胸の奥で嫌な予感を押し殺した。
(誰かが、何かを話した……?)
USBのことは誰にも言っていない。
見たのは自宅。
それでも、空気の中に“知っている”気配がある。
給湯室へ行く途中、
背後で微かな笑い声がした。
聞き慣れた声。
二人の若い教師だ。
「ほんとに、そうなのかな」
「さあ……でも、関わらない方がいいって」
藤崎が立ち止まると、声が途切れた。
振り向いた瞬間、
彼らは気まずそうに視線をそらして、
湯飲みを手に取る。
「……おはようございます」
「お、おはようございます先生!」
不自然な明るさ。
その場を離れながら、
藤崎は背中に突き刺さるような視線を感じた。
(町の中で、何かが“回っている”。
私が何をしたか――誰が伝えた?)
昼。
校庭は閑散としている。
風が冷たく、雲が低く垂れ込めている。
旧校舎の屋根が遠くに見え、
その影が校舎の壁にかかっていた。
ポケットの中で携帯が震えた。
画面には“非通知”の文字。
藤崎はしばらく迷い、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
低い声。
ゆっくりとした口調。
聞き覚えがある。
「先生。話があります。息子のことです」
春斗の父親だった。
「春斗くんの……? 今どちらに?」
「町のはずれの倉庫跡地に来てください。
あの子が何をしようとしていたのか、
話せるのはもう私しかいません」
「わかりました。すぐ行きます」
「先生」
声が少し低くなる。
「誰にも言わないでください。
特に、学校の人間には」
通話が切れた。
画面に残る“通話終了”の文字が、
ゆっくりとフェードアウトしていく。
校舎を出ようとしたとき、
二階の窓に目をやった。
職員室のブラインドの隙間から、
誰かがこちらを見ている気がした。
視線が合った――と思った瞬間、
ブラインドが静かに閉じた。
(……見られている)
藤崎は足を止めず、
玄関を出た。
風が頬を冷たく撫でる。
ポケットの中で携帯が再び震えた。
画面には、件名なしのメール。
本文は、たった一行。
「見ています」
藤崎は携帯を閉じ、
深く息を吐いた。
(町の誰かが――いや、この町そのものが、
目を離さないようにしているのかもしれない)
その考えを振り払うように、
彼は歩き出した。
行く先には、倉庫跡地。
春斗の父親が待つ場所だった。
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