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17話
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町の中心から離れた工業地区。
人の気配のない錆びた倉庫群が、
風に軋んでいる。
午後の光は弱く、空全体が灰色に沈んでいた。
藤崎は、指定された倉庫の前で足を止めた。
扉の隙間から差し込む光が細く伸びている。
その中に、ひとりの男が立っていた。
春斗の父親――
その顔には疲労と警戒が混じっていた。
「先生、来てくれたんですね」
「ええ。春斗くんのことを……教えてください」
父親は短くうなずき、
錆びついた扉を押し開けた。
内部は暗く、空気はひんやりしていた。
壁に取り付けられた小さなランプがひとつ、
薄く光を放っている。
「まず、息子さんは……生きているんですね」
藤崎の言葉に、父親は静かにうなずいた。
「春斗も、他の子たちも無事です。
今は町の外で匿っています。
私が、手を貸しました」
「……町の外に?」
「ええ。
子供たちは町の“罪”を暴こうとしていました。
でも、やることなすこと全部、
誰かの手で消されていく。
だから、一度“消えた”ことにしたんです。
行方不明は偽装です」
父親の声には安堵と焦りが同居していた。
「春斗くんたちはなぜそんなことを」
父親は答えた
「ええ。最近のことです。
旧校舎の裏で田所さんとある男と話していた。
春斗は偶然そこを通りかかったんです。
その男は、『れんを殺してしまったことにもう耐えられない』『自首したい』と。田所は、それを止め、“今さら何を言っても無駄だ”“すべては終わった”と」
藤崎の拳が膝の上で強く握られた。
「春斗は、その話を聞いて確信したんです。
町が、事故を“殺人”として認めないようにしていると。
それで、れんのことを暴こうとした。
けれど、どの手段を使っても情報が消える。
まるで、町そのものが“記録を殺している”みたいでした」
藤崎は小さく息を吐いた。
静まり返る倉庫の中で、
風が錆びたトタンをかすかに鳴らしている。
「あなたたちは、今……どうしたいんですか」
父親はしばらく考え、
ゆっくりと藤崎を見た。
「春斗たちは、子供のやり方で町と戦っています。
でも、あの子らだけでは越えられない壁がある。
証拠がないからです。
証拠を出せるのは、あの町で唯一“知っている側”――
田所だけです」
「田所に、話をさせる……?」
「ええ。
あの人間に、“自分の口で語らせる”しかない。
録音でも、書類でもない。
この町の外に、言葉として発信させる。
あなたが、それをやるしかないんです」
藤崎は視線を落とした。
USBの中の録音データも、
外に出す前に消された。
この町では、記録を残すことが罪になる。
けれど、言葉は――奪えない。
「……私に、田所から供述を取らせる、と?」
父親は静かにうなずいた。
「先生だからこそ、あの男は話すはずです。
柏木先生のことを、れんのことを。
あの事故をどうやって“なかったこと”にしたのかを。でも、時間がありません。あの男が自分から話す前に、“町が口を塞ぐ”でしょう」
倉庫の外で風が強くなり、
ガラスの破片が転がる音がした。
父親は椅子から立ち上がり、
ポケットに手を突っ込んだまま言った。
「先生、あの子たちは今も待っています。
あなたが“聞く”と信じて。
れんのことを、忘れないでくれる人だと」
藤崎はゆっくりと立ち上がり、
父親の目を見た。
父親は小さく頷き、
それ以上は何も言わなかった。
倉庫の扉を押し開けると、
風が一気に流れ込んできた。
灰色の雲の切れ間から、
一筋の光が地面を照らす。
藤崎はその光を見つめながら、
胸の奥で静かに決意を固めた。
人の気配のない錆びた倉庫群が、
風に軋んでいる。
午後の光は弱く、空全体が灰色に沈んでいた。
藤崎は、指定された倉庫の前で足を止めた。
扉の隙間から差し込む光が細く伸びている。
その中に、ひとりの男が立っていた。
春斗の父親――
その顔には疲労と警戒が混じっていた。
「先生、来てくれたんですね」
「ええ。春斗くんのことを……教えてください」
父親は短くうなずき、
錆びついた扉を押し開けた。
内部は暗く、空気はひんやりしていた。
壁に取り付けられた小さなランプがひとつ、
薄く光を放っている。
「まず、息子さんは……生きているんですね」
藤崎の言葉に、父親は静かにうなずいた。
「春斗も、他の子たちも無事です。
今は町の外で匿っています。
私が、手を貸しました」
「……町の外に?」
「ええ。
子供たちは町の“罪”を暴こうとしていました。
でも、やることなすこと全部、
誰かの手で消されていく。
だから、一度“消えた”ことにしたんです。
行方不明は偽装です」
父親の声には安堵と焦りが同居していた。
「春斗くんたちはなぜそんなことを」
父親は答えた
「ええ。最近のことです。
旧校舎の裏で田所さんとある男と話していた。
春斗は偶然そこを通りかかったんです。
その男は、『れんを殺してしまったことにもう耐えられない』『自首したい』と。田所は、それを止め、“今さら何を言っても無駄だ”“すべては終わった”と」
藤崎の拳が膝の上で強く握られた。
「春斗は、その話を聞いて確信したんです。
町が、事故を“殺人”として認めないようにしていると。
それで、れんのことを暴こうとした。
けれど、どの手段を使っても情報が消える。
まるで、町そのものが“記録を殺している”みたいでした」
藤崎は小さく息を吐いた。
静まり返る倉庫の中で、
風が錆びたトタンをかすかに鳴らしている。
「あなたたちは、今……どうしたいんですか」
父親はしばらく考え、
ゆっくりと藤崎を見た。
「春斗たちは、子供のやり方で町と戦っています。
でも、あの子らだけでは越えられない壁がある。
証拠がないからです。
証拠を出せるのは、あの町で唯一“知っている側”――
田所だけです」
「田所に、話をさせる……?」
「ええ。
あの人間に、“自分の口で語らせる”しかない。
録音でも、書類でもない。
この町の外に、言葉として発信させる。
あなたが、それをやるしかないんです」
藤崎は視線を落とした。
USBの中の録音データも、
外に出す前に消された。
この町では、記録を残すことが罪になる。
けれど、言葉は――奪えない。
「……私に、田所から供述を取らせる、と?」
父親は静かにうなずいた。
「先生だからこそ、あの男は話すはずです。
柏木先生のことを、れんのことを。
あの事故をどうやって“なかったこと”にしたのかを。でも、時間がありません。あの男が自分から話す前に、“町が口を塞ぐ”でしょう」
倉庫の外で風が強くなり、
ガラスの破片が転がる音がした。
父親は椅子から立ち上がり、
ポケットに手を突っ込んだまま言った。
「先生、あの子たちは今も待っています。
あなたが“聞く”と信じて。
れんのことを、忘れないでくれる人だと」
藤崎はゆっくりと立ち上がり、
父親の目を見た。
父親は小さく頷き、
それ以上は何も言わなかった。
倉庫の扉を押し開けると、
風が一気に流れ込んできた。
灰色の雲の切れ間から、
一筋の光が地面を照らす。
藤崎はその光を見つめながら、
胸の奥で静かに決意を固めた。
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