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19話
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町全体がざわめいていた。
通勤路のあちこちで、人々が新聞を覗き込み、
小声で言葉を交わしている。
「……あの学校の事故のこと、覚えてる?」
「まさか、隠されてたなんて」
藤崎が校門を通ると、
数人の記者が立ち止まり、レンズを向けた。
その瞬間、胸の奥で冷たいものが動いた。
職員室に入ると、
教員たちが無言で新聞やスマートフォンを見つめていた。
紙面の見出しには、
「星ヶ丘小児童死亡事故、隠蔽の疑い」
という文字。
見出しの下に、こう記されている。
“内部関係者による証言と未公開の記録を確認”
藤崎はその文を目で追い、
次に、机の隅に座っている田所を見た。
田所は、いつも通りの位置にいた。
書類をまとめる手は落ち着いているが、
その横顔には、何かを受け入れたような静けさがあった。
藤崎は一歩近づき、静かに言った。
「……止めなかったんですね」
田所は顔を上げ、
わずかに笑った。
「ええ。
あなたが何をしようとしているか、
話していた時点で分かっていました。
けれど、止める理由がもうなかった。」
「覚悟してたんですね」
「覚悟というより……諦め、ですかね。
黙ることで何かを守れると思っていたけど、
もう誰も救えなかった。
なら、せめて“話すこと”で終わらせようと。」
藤崎はその言葉に、
静かに目を伏せた。
臨時ニュースが流れた。
「星ヶ丘小事故、町と学校の関与を調査へ」
“当時の教員が事実を証言”
職員室では誰も声を出さなかった。
書類の紙音だけが、静かに響いていた。
窓の外では、
記者たちが校門の前に並び、
質問を投げかけている。
「事故の処理に不正はありましたか?」
「亡くなった児童の家族には、どんな説明を?」
田所はその声を聞きながら、
低く息を吐いた。
「……この町も、やっと立ち止まるんでしょうね」
「立ち止まるんじゃなくて、動き出すんです」
藤崎は言った。
「あなたが、そうさせたんですよ。」
田所は微かに笑みを浮かべた。
その笑みには、どこか痛みと救いが同居していた。
夕方の校舎の廊下は薄暗く、
窓から差し込む光が長い影を落としていた。
田所はすでに警察の事情聴取のため、学校を出たと聞いた。
職員室には誰もいない。
藤崎は静かに鞄を手に取り、
ゆっくりと廊下を歩き出した。
外に出ると、空は灰色に沈み、
風に砂ぼこりが混じっていた。
校舎を振り返ると、
窓の一つにまだ灯りが残っている。
昼間の喧騒が嘘のように、静まり返った学校だった。
藤崎はそのまま校門へ向かった。
門の外には記者の姿もなく、
ただ夕暮れの光が沈みかけている。
その時だった。
視界の端で、小さな影が動いた。
反射的に顔を向ける。
校門の外、通学路の角のあたりに、
ひとりの少年が立っていた。
胸が一瞬、締めつけられる。
光の加減で表情は見えない。
しかし、藤崎にはすぐに分かった。
春斗だ。
言葉をかけようと一歩踏み出した瞬間、
彼はほんのわずかに頭を下げた。
それは挨拶というより、
“見届けた”という仕草に見えた。
次の瞬間、
春斗は振り返り、
夕暮れの道を静かに歩き出した。
追いかけることはできなかった。
藤崎はその背中をただ見つめ、
心の奥に何かが灯るのを感じた。
通勤路のあちこちで、人々が新聞を覗き込み、
小声で言葉を交わしている。
「……あの学校の事故のこと、覚えてる?」
「まさか、隠されてたなんて」
藤崎が校門を通ると、
数人の記者が立ち止まり、レンズを向けた。
その瞬間、胸の奥で冷たいものが動いた。
職員室に入ると、
教員たちが無言で新聞やスマートフォンを見つめていた。
紙面の見出しには、
「星ヶ丘小児童死亡事故、隠蔽の疑い」
という文字。
見出しの下に、こう記されている。
“内部関係者による証言と未公開の記録を確認”
藤崎はその文を目で追い、
次に、机の隅に座っている田所を見た。
田所は、いつも通りの位置にいた。
書類をまとめる手は落ち着いているが、
その横顔には、何かを受け入れたような静けさがあった。
藤崎は一歩近づき、静かに言った。
「……止めなかったんですね」
田所は顔を上げ、
わずかに笑った。
「ええ。
あなたが何をしようとしているか、
話していた時点で分かっていました。
けれど、止める理由がもうなかった。」
「覚悟してたんですね」
「覚悟というより……諦め、ですかね。
黙ることで何かを守れると思っていたけど、
もう誰も救えなかった。
なら、せめて“話すこと”で終わらせようと。」
藤崎はその言葉に、
静かに目を伏せた。
臨時ニュースが流れた。
「星ヶ丘小事故、町と学校の関与を調査へ」
“当時の教員が事実を証言”
職員室では誰も声を出さなかった。
書類の紙音だけが、静かに響いていた。
窓の外では、
記者たちが校門の前に並び、
質問を投げかけている。
「事故の処理に不正はありましたか?」
「亡くなった児童の家族には、どんな説明を?」
田所はその声を聞きながら、
低く息を吐いた。
「……この町も、やっと立ち止まるんでしょうね」
「立ち止まるんじゃなくて、動き出すんです」
藤崎は言った。
「あなたが、そうさせたんですよ。」
田所は微かに笑みを浮かべた。
その笑みには、どこか痛みと救いが同居していた。
夕方の校舎の廊下は薄暗く、
窓から差し込む光が長い影を落としていた。
田所はすでに警察の事情聴取のため、学校を出たと聞いた。
職員室には誰もいない。
藤崎は静かに鞄を手に取り、
ゆっくりと廊下を歩き出した。
外に出ると、空は灰色に沈み、
風に砂ぼこりが混じっていた。
校舎を振り返ると、
窓の一つにまだ灯りが残っている。
昼間の喧騒が嘘のように、静まり返った学校だった。
藤崎はそのまま校門へ向かった。
門の外には記者の姿もなく、
ただ夕暮れの光が沈みかけている。
その時だった。
視界の端で、小さな影が動いた。
反射的に顔を向ける。
校門の外、通学路の角のあたりに、
ひとりの少年が立っていた。
胸が一瞬、締めつけられる。
光の加減で表情は見えない。
しかし、藤崎にはすぐに分かった。
春斗だ。
言葉をかけようと一歩踏み出した瞬間、
彼はほんのわずかに頭を下げた。
それは挨拶というより、
“見届けた”という仕草に見えた。
次の瞬間、
春斗は振り返り、
夕暮れの道を静かに歩き出した。
追いかけることはできなかった。
藤崎はその背中をただ見つめ、
心の奥に何かが灯るのを感じた。
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