サイコパス

ハイブリッジ万生

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クラッカー

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刑事は教授の講義を受けながら複雑な心境になっていた。

講義の内容はやはりサイコパスなどの中に潜む反社会性に対する警鐘の様に感じた。

だとすると、そんな人間が犯罪を犯すだろうか?

いや、もしかするとそう思わせる為に態とそんな講義をしているのかもしれない。

そうだ、サイコパスは息を吸って吐く如くに嘘をつけると教授本人が言っていたではないか?

まぁ、それは教授がサイコパスだという前提の話ではあるが……。

刑事がそんな思索を巡らせていると丁度、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教授が教材を纏《まと》めはじめていた。

刑事は慌てて降壇する教授の元に駆け寄った。

「やぁ、刑事さん。最近熱心に私の授業を受けられてますね?そろそろ単位をあげないといけないと思いはじめていましたよ」

「……そ、それはどうも」

はじめて聞く教授の軽口に僅《わず》かに戸惑いながらも刑事は風祭大悟の言葉を思い出していた。

教授にも感情の揺らぎの様なものがある。

確かに、僅かではあるが、今日の教授は機嫌が良い様な気がした。

それもこれも、殆ど毎回、教授の授業を受け続けているからわかる事なのかもかもしれないが……。

ほんと、単位がほしいところだ。






しかしなんにせよ、機嫌が良いなら、好都合だ。

「実は教授に聞きたい事が二、三できまして」

「なんでしょう?」

「大した事ではないんですがね。その……教授の部屋のゴミ箱から使用後のクラッカーが出てきましてね」

「はあ、クラッカーですか」

「心当たりありますか?」

「そりゃ、もちろん。おそらく、僕の誕生パーティーの時に使ったものでしょう」

「誕生……パーティーですか?」

意外だった。いや、もちろん教授にも誕生日はあるだろうけど、パーティーをやるような雰囲気は皆無だった。

いや、決めつけは良くないなと、刑事は心の中で反省した。

そんな刑事の視線の意味を察知してかは定かではないが、教授は弁解する様に言葉を継いだ。

「いえ、ゼミの生徒がね。どうしてもって言うんで仕方なくですよ。もちろん、僕はそんなもの煩わしいだけですけどね」

そう言った。教授の顔からは全く真意が汲み取れなかった。

「そうなんですか、まぁ、だとしても教授思いな生徒さんじゃないですか?」

「いやぁ、僕の誕生日にかこつけて騒ぎたいだけじゃないですかねぇ?ゼミ生以外の生徒も何人か来ていましたし」

「ゼミ生以外というと?」

「……演劇部とか」






演劇部と聞いて直ぐに二人の顔が浮かんだ。

「なるほど、なんて名前の生徒か覚えていらっしゃいますか?」

「すみません、名前までは流石に覚えてないんですが、確か男女ペアで来ていたと思います」

「そうですか、では、ゼミ生は誰が来ていたか覚えてますか?」

「そりゃ、もちろん。と、言いたい所ですが、それも朧げですねぇ」

「うろ覚えでも構いませんよ、そもそも、教授の持論では記憶はあてにならないとの事ですからね。こちらも参考にさせていただくだけですので」

「たしかに」

そう言って教授は少しほくそ笑んだ様に見えた。

「では、あてにはなりませんが……ゼミ生では山岡くん、風祭くん、森井さんが居たと思います。後は演劇部の二人」

「あの、その二人って文学部ではないですか?」

「え?さぁ、そこまでは知りません」

「そうですか…」

刑事はその演劇部の二人が文学部であれば前に会ったことのある二人でほぼ間違いないと思ったが、とりあえず山岡、風祭、森井という知った名前が出て来たのでそちらに聞けばわかると思い直した。

「ありがとうございます……あ、そうだ、そういえばその誕生日パーティーというのはいつの事なんです」

「あぁ、私の誕生日ですね?流石にうろ覚えとは言えませんね、七月六日です」

「七月六日?!」

驚いて声のトーンが上がってしまった。

事件の前日じゃないか。









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