サイコパス

ハイブリッジ万生

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内緒の話(鈴原園子)

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「あ.......鈴原です。刑事さんですか?」

「はい、そうです。どうしました?」

電話の相手は鈴原園子であった。

「少しお話したいことが.......」

「何か思い出しましたか?事件の事で」

「いえ、思い出したと言うより......犯人がわかりました」

ええっ!本当ですか?」

「はい、今から犯人と会います」

「ちょ、ちょっと待って下さい!危険です!」

「え?.......でも、もう近くの公園に呼び出してるので」

「えっ!ちょっと待って!今どこですか?今から向かいます」

「え?本当に?」

心做しか声のトーンが上がった気がした。

「ちょ、ちょっと待ってください!」


「え?でももうよびだしちゃったし、、そ、、
の、、、、で、、、、プツッ」

ええええ!嘘だろ!鈴原の電話は予告なく途切れた。

まさか犯人に?


いや、なんとなく電波が悪い様な切れ方だったような?

「と、とりあえず先輩!鈴原園子さんの自宅の近くの公園に急行しましょう!」

「え?それどこ?」

「行けばわかる!」

そう叫びながら池照は走り出していた。





公園に着くと鈴原園子が普段着というにはやや露出の多い服で手を振っていた。

白いノースリーブに短めのスカートも白で、白いハイヒールを履いてると少し大人びて見えた。

「刑事さーん。あれ?そちらのおじさんは?」

「お待たせしました。こちらのおじさんは先輩の刑事で岩井と言います.......話しづらい様なら帰らせましょうか?」

「なんでやねん!こんなフレンドリーな刑事もおらんよ?」

「え?あ.......刑事さんなんですね。全然大丈夫ですよ」

「本当に?」

「しつこいよ君」

2人の刑事のやりとりに鈴原園子はクスクスと笑った。

「本当にフレンドリーなんですね」

「せやろ?」

「.......と、それより犯人と1人で接触するなんて危険な事をしないでください」

「ご、ごめんなさい...そんなに危険な事だとは.......」

「.......まぁ、無事でなによりですが。というか犯人を呼び出したというのは本当ですか?」

「はい.......そろそろ来ると思うんですが。歩いて来ると言ってたので」

「歩いて?」

「ええ、徒歩で」

そこに、おずおずと現れたのは──


中岡良二だった。



中岡はこちらを確認するとにこやかに手を上げた。

──とても、呼び出された犯人とは思えない。


「彼、実は幼なじみなんで」

そう言うと鈴原園子は手を振り返した。

「ちょっと!走りなさいよ!刑事さんたちを待たせてるんだから!」

「ごめん.......でも、いきなり呼び出された身にもなってよ」

そう言って中岡は小走りになった。


「.......あの」

そのやり取りを見て刑事は声を出さずにはいられない。

「はい?」

「本当に.......彼が真犯人なんですか?」

「.......はい。本人に聞きましたので」

「本人に?」

「ストップ!」

それは、近ずきすぎた中岡に鈴原が言った台詞だった。

ハイヒールを履くとやや、中岡より身長160の鈴原の方が背が高くなるので中岡が少し見上げる形になる。

──そう言えば、北条みなみさんも身長160くらいだった気がする。

「なに?」

「貴方汗っかきでしょ?それ以上近ずかないように」

「.......ひどい」

「.......あの」

またもや刑事が割ってはいる。

「「はい?」」

今度は中岡と鈴原が同時に応えた。

「中岡くん.......本当に犯人なんですか?」

「え?僕が犯人?.......なんの?」

「何言ってるの?私に白状したでしょ?」

「え?なにを?」

「しらばっくれる気?あなたが、教授の女癖が悪いって評判流したんでしょ?」

「.......あー。確かに.......ごめんなさい」


「.......ちょ、ちょっと待って.......犯人て.......その事?」


「はは.......こりゃとんだ真犯人やなぁ」

横で岩井が含み笑いをしている。


「え、ええ.......あ、ごめんなさい!なんか勘違いさせてました?」

「.......はい。思いっきり」

「ご、ごめんなさい!」

鈴原は手を合わせて刑事を拝むように謝った。

「いえ、勘違いで良かったですよ。で.......中岡くん。なんでそんなデマを流したんだい?」

「いやぁ、大学教授に頼まれたんです」


「教授に?.......なぜ?」


「なんか、研究に集中したいので、あまりモテるのも困るって零してたので。わたくしめが妙案がありますよと助言をしたまでで.......」


「その妙案ってのが、スケコマシだって噂やの?」

「ええと、こちらのおじさんは?」

「やだ、刑事さんよ。見ればわかるでしょ?いかにもって感じの」

「....あぁ」

「いかにもって....褒められるの?」

「...もちろんですよ岩井さん.......ゲフン」

そういうと、池照刑事は何かを誤魔化す様に咳払いをした。




「いやでも.......まぁまぁの効き目はあったと思いますよ」

中岡は変な自信を持ってるらしかった。


「まぁ、確かに.......その噂が流れてから、あんまり教授に言いよる女子学生居なくなったかも」


「ほらね」

「.......そうですか」


正直、犯人だと思ってたのでとんだ肩透かしを食らった形の池照の声色には風祭大悟でなくても読み取れそうな残念のニュアンスを含んでいた。

「.......そういえば。中岡くん、教授がネットフォーラムに参加しているのを知ってましたよね?なぜその事を最初に言わなかったんです?」

刑事は折角なので、中岡に聞きたかった質問をぶつけた。

「え?いえ、何かしらパソコンを弄られてるとは思ったんですけど、まさかネットフォーラムに参加してるとは思わなかったので」

「でも、君は論文を見てもらってたと言ったけど?.......そんな状態で論文を見れるの?」

「いえいえ、もちろん。教授の作業が終わるのを待ってから見てもらいましたよ。あの時はアリバイを証言すれば良いだけだと思ってたんで9時から10時まではと言いましたけど、実際にはもっと遅くまで居ました」

「君、門限があるのでは?」

「いやぁ、ゼミの補習と言えばさすがの家の親も少し多めに見てくれますし。電車が無くなっても車で家まで教授が送ってくれますから.......というかよく門限の事まで知ってますね」

「.......まぁね」

──なるほどね。確かに9時から10時までならわざわざ電車来る手間を考えると短すぎるとは思ってたので腑に落ちた。


「.......あの」


そこで鈴原園子がおずおずと話に入ってきた。



「犯人.......じゃないかもしれないけど、変な事をしてる人なら知ってます」

「.......はい?」

岩井はあからさまに「またか」という顔をしたが、池照は真摯に応えた。

「というのは.......誰ですか?」



「大悟です」

その台詞には何かしらの負の感情が入ってる様だった。

「ほう.......彼がなにか?」


「あいつ.......祭りの日に蘭とデートの約束してるってのに、他の女と会ってたんです!」

「それは、北条みなみさんですね?」


「そう!あろうことか...て、え?.......なんで知ってるんですか?」

「まぁ、色々とね...それよりその話、もっと詳しくお願いしますよ」

「.......はい。私あの日に蘭と別れてからウィンドショッピングでもしようかとブラブラしてたら、ばったり大悟が女とデートしてるところを見ちゃって!思わず声を掛けたんです」

「え?声を?」

「ええ、そしたらあいつ、慌てて違うんだとかなんとか言って逃げようとするから、追いかけて問い詰めたんですよ!そしたらそのうちに女の方はいなくなってたんですけど、後でよく思い出したら.......」

「亡くなった北条さんだったと」

「はい」

「その後、大悟さんは?」

「最後まで勘違いだから蘭には言わないでくれって頼まれたんで言わなかったんだけど.......よく考えたらめちゃくちゃ怪しいですよね?」

「ん?まぁ普通に考えるとね...事件の直前まで被害者と居た.......さらにその事を隠してたとなると、そうとう心象が悪くはなるね」

「ですよね!」

なぜか、鈴原園子は嬉しそうだ。


大悟が犯人と思われるのが嬉しいのか、事件について役に立っているのが嬉しいのか池照には判断つきかねた。

「いづれにしても、大悟くんだけアリバイがない状態なので心象は良くないんだけどね」

「.......まさか。本当に?」

園子の声が幾分トーンダウンしたように感じた。

「大悟くんが犯人だとは思いたくない?」

思わず池照はそう聞いた。

「いえ...あいつの事はどうでもいいんですが.......蘭が悲しむなって」

「.......確かにね」


池照はそれだけ言うと、腰に手を当ててなんとも言えない顔をした。


ぷるるるるるる


また池照の携帯が鳴った。

着信の名前を見て刑事は少し体を仰《の》け反《ぞ》らせた。


──大悟だ。


「.......どうしたんです?」

「.......いや...なんでもない。ちょっと、野暮用ができたのでこれで失礼するよ。態々ありがとう、とても参考になった」

池照刑事の慌てぶりを不審に思って携帯を覗こうとする園子を躱《かわ》して、そそくさと礼を述べると刑事達は平和公園を後にした。



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