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内緒の話(高橋優子)
しおりを挟む「ゆ.......高橋さん」
それまで、黙って成り行きを見守っていた鳥居大洋が目を丸くしたかと思うと、そう 呟いて固まった。
その視線の先を追うように刑事達がゆっくりと振り返ると困ったような笑顔を浮かべて高橋優子が佇んでいた。
「あ.......これはまた.......奇遇ですね」
「.......はい、あの.......たまたま通りかかっただけなので.......すみません」
そう言って立ち去ろうとする高橋優子を池照は呼び止めないといけない気がした。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「.......はい?」
呼び止められた高橋は目を白黒させて向き直った。
「ここで、会ったのも何かの縁ですから、少しお話できませんか?.......お時間があればですが」
「え?.......話.......ですか?」
高橋は途端にオドオドとしだした。
これが、元々の性格から来ているのか、それとも何かを隠してるのか池照には判断つきかねた。
──大悟にはどう映ってるんだろう。
ふとそんなことを考えて大悟の様子をチラリと盗み見ると、何やら思案顔で沈黙していた。
「あの.......なにか飲みませんか?」
「え?.......あ、はい」
「なにかそこの売店で買ってこようか?」
「.......ええと、じゃあ.......珈琲で」
「OK.......そういえば、北条さんも珈琲好きだったよね」
「.......」
なぜか高橋優子は目を見開いて自分の肩を抱くと小刻みに震えだした。
「.......あ、あれ?なにか不味いことでも言ったかな....」
池照がそう言って心配そうに顔を覗き込むと優子はフルフルと力なく首を振った。
「刑事さん!彼女は繊細なんですよ!」
鳥居大洋が声を荒らげて抗議の声を上げた。
「い.......いいの、大丈夫。大丈夫だから」
そう言って高橋優子は鳥居を制した。
「.......私が悪いんだから」
「え?」
「ん?」
優子のセリフに反応して刑事達が固まる。
「あの.......今のはどういう?.......」
「あの.......ごめんなさい」
「.......さっきから謝ってばっかりやなぁお嬢ちゃん.......謝る事があるなら、ハッキリ言った方がええで....それが一番スッキリする」
岩井刑事が合ってるのかどうかわからない関西弁で好々爺の様な言い回しをして様子を窺った。
「..............私なんです」
「.......何がでしょう?」
「.....北条みなみさんの」
「....はい」
「日記に書かれてたのは.......わたし」
──えー!!!
池照は心の中で驚きの声をあげた。
「ほんまに?」
岩井刑事が念を押す。
「.......はい」
「せやけど.......高橋のイニシャルはI《アイ》じゃないし、忌々しい高橋じゃ駄洒落にならんけどなぁ」
「?駄洒落.......ですか?よくわかりませんけど」
「岩井さんそっちの方じゃなくおそらく協力者のほうですよ」
「あぁ、さよか。それならそうと言わんと.....」
「...はい.....ごめんなさい.......まさかこんな事になるなんて」
また高橋優子は小刻みに震えだした。
「高橋さんは悪くない!悪いのはあの女!」
鳥居くんが庇うが高橋さんはフルフルと首を振った。
「いえ.......やっぱり.......あんなこと、するんじゃなかったんだわ」
「あの.......具体的になにをしたんです?」
「.......鍵をあけました」
「....どこの?」
「窓です」
「窓?」
「はい」
「.......それだけ?」
「....はい」
「ほんまに?」
「.......はい」
「どんな理由で?」
「.......どんな理由があるかは教えてくれませんでした.......あとの、お楽しみとかなんとか言われて」
「.......お楽しみ?」
「.......はい」
「はは.......とんだお楽しみやなぁ」
「岩井さん、不謹慎ですよ」
「すまんすまん」
岩井が全く反省していない声で謝ると椅子から立ち上がって首をコキコキと鳴らした。
「でも、そないな事くらいなら直ぐに言ってくれても良かったのにと思うてなぁ」
「.......でも、怖くて」
「いや.......わかりますよ」
池照は物わかりの良い刑事の顔をした。
しかし、頭の中では解けない難問が渦巻いていた。
──窓の鍵は空いていた。
だとしたら、犯人は窓から侵入した事になるが、どうやって密室をら作って出ていった?
なぜ服を焼いた?
「わかりました」
そう言ったのは大悟だった。
「.......ほんま?」
岩井が疑念の残る声色で聞いた。
「まぁ、一旦聞いてください」
「ええけど」
「おそらく窓からハシゴか何かで入ったのは被害者の北条さんでしょう」
「合鍵あるのに?」
「ええ、そこは何らかのサプライズの為だと思われます」
「ほいで?」
「ところがそれを偶然見ていた第三者がいた」
「ほう」
「そして、同じようにハシゴを使って中にはいり.......被害者に乱暴しようとした」
「はぁ」
「しかし激しく抵抗されて、持っていた刃物で逃げる後ろからグサリ」
「.......しかし、乱暴された形跡も争った様子もないんだけど」
ここで、池照が現状を説明する。
「更に、服をぬがして焼く理由は?」
「.......そこは、犯人の性癖でしょう」
「ほう.......その犯人とは?」
「.......異常者です」
「.......え?」
「ですから異常者」
「いや、こんな事やるくらいなんだから異常者なんだろうけど.......誰?」
「.......それはこれからの捜査でどうなるかわかりませんが.......通り魔的犯行かもしれません」
「.......通り魔.......あの」
「なんでしょう?」
「じゃあ密室は?」
「.......そこはまだ謎ですね」
「.......」
刑事達はアイコンタクトを取るとゆっくりと首を横に振った。
「あれ.......ダメですか?」
「.......いやぁ、ちょっとね.......参考にする」
そう言って池照は大悟の評価を星2つほど下げた。
「いやぁ、僕が言いたいのはそういう可能性もあるんだから優子さんが気に病む事もないって話です」
──あぁ、なるほど。高橋優子さんを気遣っての発言だったのか。
池照はそう感じ取って大悟の評価を星1つ戻した。
「.......せやな。あながちその線もなくはないかもなぁ」
珍しく岩井刑事が空気を読んで大悟のセリフに合わせた。
「.......ですね」
池照も同調する。
「.......そうでしょうか?」
高橋優子は恐る恐ると言う感じで聞き返した。
「そうそう!本当に刑事さん達の言う通り!ゆ.......高橋さんの気に病む事じゃない」
さっきから、名前を呼ぼうとして躊躇《ためら》っている鳥居を横目に池照はウンウンと頷いた。
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