少女探偵

ハイブリッジ万生

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池照

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所変わって、とあるコンビニの前。

何台ものパトカーが前に止まっている。

警官がそそくさとkeepoutと書かれた黄色いテープで結界でも張るかのようにお店の周りに巡らしている。

そこに、1台の黒い乗用車が止まると、中から愛嬌のある中年とモデルみたいな青年が降りてきた。

野次馬をかき分けて中に入っていく様子からして、刑事なのかもしれない。




「おい!刑事どないなってる?」

「どないって言われましても、自殺じゃないですか?岩井さんはどう思います?」

刑事と呼ばれた男はコンビニのトイレを覗きながら言った。

「せやな、密室やしな」

コンビニのトイレの中で30代くらいの男が死んでいた。

一応、一課の暇な2人組が様子を見に行かされていた。岩井と池照である。

その様子を横で見ていたコンビニの店長が言った。

「え?2人とも刑事さんなんじゃないんですか?」

「せやけどもなにか?」

岩井が憮然として答えた。

「今こちらの若い方を刑事さんて呼ばれませんでした?」

「あぁ、そのことかい。」

岩井は少し口の端を上げながらいった。

「こいつの名前が刑事なんや、刑事って名前の刑事、けったいやろ?しかも苗字が...。」

「岩井さん!」

池照は堪らず口を挟んだ。

「業務以外の事を喋らないで下さいよ!しかも個人情報!」

「個人情報っておまえ」

「そんな事より、この遺体、変じゃないですか?」

「ん、どこが?て、おまえ、そないな事ゆうて話題をそらそうと」

「いえ、ちがいますよ、ここ!見てください。」

たしかに、自殺にしてはおかしな部分があった。

「ん?どこが?当たり前やろ?トイレやし…。」

先輩刑事は言った。

「いや、トイレでもおかしくないですか?」

後輩の刑事は食い下がる。

「ズボンを脱いで自殺なんかしますかね?」

たしかに遺体はスボンを履いていない状態で簡易衣紋掛けのような所にベルトを通して首を釣っていた。

足は完全に付いているが全体重を乗せればそれで、首吊りというのはできるのだ。

「失禁してズボンを汚したく無かったんやないか?」

岩井は一応言ってみた。

「なぜです?」

当たり前の反論を池照は述べた。

若干の沈黙の後に岩井は言った。

「知らんよそんなもん。自殺しようなんて人間の思考回路なんてわからん…せやけども密室なんやで?」

たしかに、コンビニのトイレに付いている簡易なものとはいえ密室は密室だ、上から吊るされるタイプの横にスライドするドアなのでドアの下に僅《わず》かな隙間はできるがそこからどうこう出来るとも思えない。

単純に考えれば自殺だが...。

池照はある、少女の顔がチラリと脳裏に浮かんだ。

あの子ならなんていうだろう...。

いやいや、何考えているんだ、相手はタダの子供だぞ。

…いや、タダの子供では...ないか。


池照はもう1度被害者の服装に目を落とした。

「ん?あれなんですかね?」

「ん?なんや?」

池照が指を指した先には不自然に膨らんだ被害者の上着のポケットがあった。

「気になるなら調べて見たらどないや?ただ気いつけてな…先っちょに猛毒のぬってあるイガグリが入ってるかも知れへんからなあ?」

「Xの悲劇ですか?脅かすなら、もっと現実的な事を言って下さいよ。」

「いや、あれも充分現実的な凶器やろ?まあ、やったやつは見たことないんやけど…。」

そう言って岩井はフッと笑った。

池照は何故か岩井と組まされる事が多いのだが、一体どこまで本気でどこから冗談なのか未だに理解できないでいる。

それでも、多少なりとも気味の悪さを感じた若い刑事は、恐る恐るポケットの中身を調べた。

「ん?これって...。」

「くすり...やな。」

「ですね。」

中から出てきたのはビニールの袋に入った錠剤だった。

「ハルシオン...。」

「ほう...。眠剤か。」

「ガイシャは不眠症だったみたいですね。」

即効性の高い睡眠導入剤を見つけて池照はそう言った。

「いやあ、この場合違う使い方をしたって可能性の方が高いやろ。」

そういうと、岩井は首をコキッと鳴らした。

「違う使い方というと?」

「こういう自殺の場合はやる前に眠剤を飲むって奴も多いんよ。」

「え?なぜです?」

「なぜって...そのほうが、確実やし、くるしくなさそうだからやないか?」

「くるしくないんですか?」

「え?...知らんよそんなもん!やった事あらへんのやから!」

「…ですよね。」

若い刑事はそうは言ってみたものの、釈然としない不協和音の様なものを感じていた。




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