少女探偵

ハイブリッジ万生

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小学生の証言

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山野美羽は事件の時の様子をたどたどしく話だした。


「あの.......今なんて?」

池照は山野宅で被害者である山野文紀の娘、山野美羽の言った言葉に耳を疑った。

「ちょっと!美羽!違うでしょ!」

母親の吉美が遮る様に言った。

「あの!違うんです!この子ちょっと混乱して!」

「え?まぁ、そうでしょうけど。少しお母さんも興奮なさらずに」

「お嬢ちゃん、それほんま?」

池照が母親をなだめている間に岩井がいつの間にか美羽の眼の前に居て両膝に両手を置いて少し中腰のスタイルで聞いた。

「美羽!」

吉美がまた叫ぶ。

「お母さん、少しその.......お静かに」

池照は被害者家族と言うことも考慮しながらギリギリ失礼にならないように言葉を選んで母親を制御することの難しさを感じていた。

美羽はゆっくりと頷いた。

「もう一度ゆうて貰える?」

「あの.......お父さん殺したの私です」

「美羽!」

「お母さん!」

「ちょっと!美羽!いい加減にしなさい!刑事さんにそんなウソついて!」

「あの、失礼ですが.......美羽さんに任意同行願えませんか?」

「え?何言ってるんです?この子の冗談ですよ!ほら美羽!冗談だっていいなさい!」

「お母さんがちょっと興奮しすぎてるみたいに見えるので。少しだけほかの場所聞きたいんですけど」

「興奮してるからなんなの?!それで子供を連れていかれる理由にならないわよ!」

「いや、なるんやそれが」

「は?」

「一時保護って知っとる?子供が客観的に見て保護が必要だと認められる場合に強制的に保護できるねん」

「そ、それは児童相談所とかの話でしょ?」

「その児童相談所に掛け合ってネグレクトなどの疑いがあるって所長に言ったらどうなるやろ?」

「なにそれ?ネグレクト?ちょっとふざけないで!放棄なんかしてないでしょ!」

「そういえば、美羽ちゃんアザっぽいのできとるなぁ」

「そ、それは」

「ええか?事情聴取なら今日中に返してあげれるけども、一時保護となったらそうはいかんよ?どうする?」

「どうするって.......どういう意味ですか?」

「ほんまに白やったら取り調べしても白やろ?ちゃいまんの?」

「当たり前でしょ!」

「じゃあええやん?不安ならあんたも来たらええがな」

「もちろん行きます!」

上手く任意同行に応じさせる事ができた様だ…。

こういう所は岩井は抜け目ないな.......と、池照は感心した。


取り調べ室の椅子の上にちょこんと座った山野美羽に池照は質問した。

母親の希望で聴取するのは池照の役になった。

岩井と母親は部屋の外で見守っている。

「ごめんね、待たせちゃって、色々準備があったんで遅れちゃって.......どう?部屋寒くない?」

台詞だけ聞くとまるで恋人の待ち合わせみたいだな、と岩井は思った。

「.......いえ」

美羽は短く応えた。

「そう.......それじゃ早速だけど、事件のあった時の事を話してもらえる?」

「えと、それが.......良く覚えてなくて」

「え?」

「その、殺したのは覚えてるんですけど」

「どうやって殺したのか覚えてないの?」

「あの.......睡眠薬をたくさん呑ませてしまいました」

「ああ.......お父さんが飲んでたやつ?」

「いえ、それ以外にも沢山カレーに混ぜて」

「カレーに混ぜて殺そうとした?」

「.......はい。沢山のんだら死ぬとか…どっかで書いてあったので」

「それで?」

「でも、死ななくて.......ふらっと出て行ったんです」

「ふむ、コンビニに向かったんだね?」

「そうです.......それで後をつけてたんですけど出てこないんで」

「様子を見に行ったら.......怖くなって」

「怖くなったってなにが?」

「突然トイレに引っぱられて怖くなって.......」

「それで?」

「気が付いたら.......殺してました」

「あの.......気が付いたらってどのへんで?」

「.......よくわかりません」

「え?なんで?」

「.......なんでかわかりません」

「.......そう」

池照は一時的ショックによる記憶喪失かもしれないと思った。

いづれにしても、加害者の自供がある以上、この線で行くしかないのか.......。

「あの.......そういえば、手足にあるアザってどこでついたの?誰かにやられたとか?」

「あ、あの.......父さんに」

「なるほど、それで?」

「.......はい?」

「それで殺そうと思った?」

「あ.......はい、そうです」

動機がある、証言は曖昧だが実行可能だろうか?

寝ている大人を首吊りに見せる。

池照は何かに引っ掛かりを覚えた。


その後進展する事はなく、そのまま山野美羽は母親の吉美と一緒に自宅まで送る事になった。

とりあえず重要参考人という事にはなったのだが証言が曖昧な部分があるという事と、逃亡の恐れが低い事、年齢的に犯罪が立件出来ても保護観察が妥当な事などを考慮して帰宅させる事になったのだ。

帰宅する際は母親はかなり項垂《うなだ》れていたが、もう興奮してなにかする様な事はないと思われた。

「それじゃあ、またなにか思い出したら、話してね?」

別れ際に池照は美羽にそう告げた。

美羽は黙って頷いた。

吉美はそれを黙って見守っている。

部屋に入る親子を見て池照は一抹の不安を感じた。

「まさか.......無理心中とかしないですよね?」

「わからん」

岩井は素っ気なく言った。

「わからんて、じゃあ一時保護しましょうよ!」

「それは無理」

「なぜ?強制的にできるんでしょ?」

「まぁ、できるっちゃあできるんやけど、結構手続きとかあるんよ。さっきは勢いですぐできるみたいな雰囲気だしただけや」

「そんな.......」

「警察の限界、行政の限界なんてほんと、手の届く範囲やで?」

「今、届くじゃないですか?」

「.......いうねぇ。ワイが女やったら抱かれてる所やわ」

「冗談言ってないで真面目に考えてください」

「いや、冗談抜きでここまでや。あの子が犯人だった場合はだけどな」

「違うと思ってるんですか?」

「俺のは勘だからアテにならんよ」

「勘でもいいですよ.......勘では違うんですね?」

「まぁな」

「その勘、信じますよ」

「へぇ、そりゃ嬉しいね。飴ちゃんあげよか?」

「いりません」

「さよか」

二人の刑事は無言で帰路についた。






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