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本編 第二章 【王都編】
王都へ行こう
しおりを挟む「断る」
不機嫌そうに腕を組み、常なら絶やさないよう心がけている笑顔もどこかへ投げ捨て、黒髪に黒い装備を身に纏った男はぴしゃりと言い切った。
恐ろしく冷えた目線が向く先は、当冒険者ギルドの長であるダンカンだ。
本日も額やスキンヘッドの頭皮に血管を浮かせ、肩を震わせ、大変お怒りの様子である。
アラスターを呼んでこい、とだけ告げられた私はその言葉に従ってダンカンの執務室まで連れてきた。
…というのに、入室早々開口一番にアラスターはそう言い放った。
「まだ何も言ってねぇぞ」
「わざわざアビゲイルに私を連れて来させた時点で、分かりきってるよ」
「なら話は早いだろうが」
「『アビゲイルの為』に来てあげたんだよダンカン、勘違いしないでほしいな」
「てめぇ…調子に乗るんじゃねぇぞ」
「こほん……アラスター様」
軽く咳払いをしながら、名を呼んで諌める。
二人の言い合いにはもうずいぶん慣れたし、薄々勘付いてたけど私にアラスターを呼んでこいと言った理由を明確に理解した。
冒険者ギルドの受付嬢である、私…アビゲイル17歳。
本日も『一匹狼』に振り回される日々を送っています。
S級冒険者『一匹狼』のアラスター。
黒い装備に身を包み、この世界の人には珍しい黒髪。金色の瞳。右目に泣きぼくろを携え、常なら紳士然とした振る舞いをする彼。
その圧倒的容姿の良さから、街の女性たちには『宵の明星』などという別称で呼ばれていたのだが…最近はとんと聞かなくなった。
赤毛とそばかす…ビン底メガネをかけた、どこからどう見ても地味な私が彼の恋人だからだ。
仲の良いA級冒険者のユリシーズは「ようやくか~!」なんて言っていたし、冒険者ギルドの先輩で姉のように慕っているリンジーは「何かあったらすぐ相談をすること」と怖い顔をして言っていた。
それ以外の人も今更なにを…みたいな顔をしていたので、なんかちょっと、私が予想していた反応と違くて悔しい。なんで?なんでようやくなの!?
「…はぁ、とりあえず、話を聞くよ」
「王都へ行ってこい」
「アビゲイル、帰ろうか」
「てめぇ」
「……はぁ」
私の言葉に大きなため息をついていたのも束の間に、ギルドマスターの言葉を聞くなり私の手を取って微笑みさっさと帰ろうとする彼。
相変わらず言葉の足りないギルドマスター。
とにもかくにも長期的に不在になるような依頼をことごとく嫌がるアラスター。
この二人の噛み合わなさに大きくため息をつき、取られた手を引いて止まるように促す。
「アラスター様はすぐ帰ろうとしないでください。それにギルドマスターも、それだけではお話の意図が読めませんよ」
「……」
「商人を王都まで護衛しろ。期間は往復込みの移動で約6日、王都の滞在を2週間。お前をご指名だ」
「断る」
不満そうに眉根を顰めて話を聞いていたアラスターは再度、冷ややかな視線をギルドマスターに向けて告げた。
約1ヶ月も要する仕事だ、当然アラスターは断固拒否するだろうなと私は顔をげっそりとさせた。
以前、ギルドに併設された客人用の部屋をめちゃくちゃに壊した時の罰として討伐遠征の仕事を振られた時もものすごく嫌そうだった。
その時は私も一緒に罰を受けるといったから、比較的すんなりと聞いてくれたのだが。
…いやそれでも正直めちゃくちゃ大変だった。
討伐遠征の出発の日に見送りをしたのだが、中々行きたがらない彼を宥めるのは本当に大変だったのだ。
何を言っても行きたがらないので、ちゃんと全部こなして帰ってきた時にはご褒美をあげると迂闊に言ってしまった。
おかげで無事に全ての遠征を終えて帰ってきた彼にご褒美として抱き潰され、体調を崩し、初めて仕事を欠勤したのだ。
私はそういう意味でご褒美って言ったんじゃないし!二人でまた夜の星に行こうとか、デートしたりとか考えていたのに。
まあ確かに。彼が遠征に出ている1週間ほどは私も結構寂しくて、初日とかは実はちょっとだけ泣きそうになっていたけど。
なんかその間は周囲の人もやけに優しくて、変に気を遣わせちゃったから反省しなきゃ。
「まあ待て…数日前に聖女殿から文が届いた」
「ルミア様からですか?」
ギルドマスターの言葉に、少々苦い記憶を遡っていたのをやめる。
この街に視察に来た勇者レオニスと聖女ルミア。実はルミア様とは同じ転生者という共通点があって、視察が終わった後も個人的に文通をする仲なのだ。
しかしギルドに直接手紙を出してきたのは初めてなので、私は純粋にどうしたんだろうと疑問に思って首を傾げる。
「アビゲイル、お前を茶会に誘いたいらしい。王都に来るために長期休暇を取ることは可能かという打診だ」
「つまり…」
「つまり、アラスターの商人の護衛依頼にお前もくっついていけ」
「………」
お茶会…なんてものは全く縁遠い生活だったのが、それに参加できるとなるとデザートと美味しい紅茶に思わず目が眩む。いやいや私貴族の作法なんてほとんどわからないし。
でもせっかくのルミア様からのお誘いだし、とても行きたい。
何よりも私が仕事を長期で休まなくてはならないということに配慮してくれているのが、とても嬉しかった。さすがルミア様だ。
しかしだ。こうして話を聞いている間もアラスターは沈黙を貫いている。
おおよそただの旅行ならいいものを、行き帰りに護衛という仕事がある。それになによりもアラスターはルミア様の名前が出ると少し不機嫌になる。
レオニス様とアラスターは犬猿の仲なので、その近くにいるルミア様もあまり得意じゃないんだろうな。でも私が仲良くしているから、強くは言えないのだろうけど。
しかしどんな内容であれ、依頼は依頼。そんなに私的な用途を併用させてしまってもいいのだろうか。と浮かんだ疑問に再度首を捻る。
「あのでも護衛依頼なんですよね?私、なんのお役にも立たないのに…同行して良いんでしょうか?」
「先方から了承は得ている」
「………」
「どうだアビゲイル。行きたいだろう?聖女殿との茶会」
「い、行きたいです…」
ギルドマスターはこういう時、ものすごく手際が良い。
アラスターがこの依頼を受けないだろうと分かっていたからこそ、私をなんとしてでも同行させて行かせようという魂胆なのかも。
デスクに肘をつき、口元で手を組んでそう問いかけるギルドマスターの視線の先は先ほどから黙り込んでしまったアラスターだ。
黙ってはいるけれど、不服そうな表情だけは崩さない。すでに拒否することなど出来ないように策を打たれているのがよほど不満のようだった。
わざとらしくギルドマスターが肩を竦める。
「だがなあ、この野郎が頑なに拒否しているからなあ。お前には今回は諦めてもらうしかなくなるんだよ」
「……アラスター様」
「受けるよ」
懇願するようにアラスターへ顔を向けると、彼はこちらににっこりと微笑みかけ、少々食い気味に返事をした。
君が行きたいならしょうがないよね。とでも言わんばかりの。
「よし、話は纏まったな…出立は三日後の朝だ。それまでに準備をしておけ。行っていいぞ」
「はい、失礼します」
「ダンカン」
「なんだ」
部屋を出ようとするとアラスターがにっこりと微笑んだままギルドマスターに向き直る。
……笑顔が怖い。
「次にこんなやり方をされたら、私は冒険者業に辟易してしまうかもしれないね…?」
「分かった分かった。報酬を弾ませる」
アラスターの言葉にうんざりした顔をしながら、手で追い払うような仕草をしたギルドマスターに溜め息をこぼす彼。
なんだかんだでこの二人は案外仲が良いよな…とぼんやり考えながら、私たちは執務室を後にした。
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