君と二人の自分

ともとも

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幼少期 前編

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五年前、小学生だった私は今とは違ってもっと明るい性格だった。
友達もたくさんいて、楽しい日々を送っていた。

ある時、私は親の都合で今住んでいるこの地域に引っ越してきた。
前の住んでいた場所と環境はあまり変わらなかった。森もあり、近くにはちゃんとスーパーもある。

ただ飛び降りたら死んでしまいそうな高さの大きな橋だけは昔住んでいた所にはなかった。

そして今日は新しい学校へ転校生として入学する。前日までは楽しみでしかたなかったが、当日になって学校へ行くと緊張してきた。

ちゃんと友達ができるか不安になる。

今は父が運転している車の助手席で外の眺めを見ながら気を紛らわしている。

ぶぶぶっと急ブレーキがかけられて学校の中へ入る。

軽く校長先生と父が話をつけている。話し合いが終わると、父と別れる。

「さぁ、雪菜。お前のその明るさで元気に挨拶してこい!」
立て膝をついて私の頭を撫でてくれる。
「うん、行ってきます、お父さん!」
元気よく父に挨拶すると担任の先生が私の後ろに来ていた。
「さぁ、いこうか雪菜ちゃん!」
体育会系のガタイのいいすこし怖そうな先生だった。
「はい」と返事しながら先生の後ろへついていく。

最後に父に向けて大きく手を振りった。
それを見た父は優しい笑顔を見してくれる。

長い趣のある木の廊下を歩いていると先生がある教室で止まった。
中は見えないが、ガヤガヤと大きな声が廊下の外まで聞こえていた。

ガラガラ

大きな音を立てて先生は教室の中へ入っていった。
「おい、お前らうるさいぞ」
その第一声により、騒がしかった教室は静まり返った。
生徒達が椅子に座り、静かになったのを確認すると廊下に立っている私に向かってくいくいっと手招きする。
私はその合図に緊張しながらも一歩一歩、歩き出したくさんの生徒の前に立つ。

「今日からこの子はみんなの新しい仲間だ」

その声に合わせてほとんどの生徒が騒ぎ立つ。
「ええ、転校生!」
「わぁ、女の子だ。しかも可愛い」
新しい仲間に喜んでいる人や、可愛いと褒めてくれる人など様々だった。

「おい、静かにしろ」
騒ぎ立てていたが、先生の怒るような一言で静まり返る。

「じゃあ、自己紹介をしてもらえるかな?」
「はっ、はい!」
緊張のせいですこし声が裏返ってしまった。

「はじめまして、朝空雪菜と言います。たくさん友達を作りたいと思っているので、仲良くしてください」
「はい、とのことだ」
先生が話をまとめる。
そしてまばらに軽い拍手が巻き起こる。

「えっと、席はそうだな・・・・ 」
軽くあたりを見渡して空いているところを探す。
「よし、じゃあ敬助の後ろにしようか」
そう言って間を開けて新しい席ができた。
「じゃあ、堀北! お前が朝空にいろいろ教えてやってくれ」
「えー、私ですか?」
「ああ、頼む」
「はーい、わかりました」
堀北さんは嫌々先生の頼みを受け入れた。

私の紹介が終わると簡単に予定を説明し、先生の話が終わった。

休憩時間になり、私の前にはたくさんの人が集まってきた。
「どこ、どこらへんから来たの?」
「何でここへ来たの?」
たくさんの人から質問責めされる。

あまりの人だかりに、私は困っていまう。

前の学校ではみんなと慣れていたからここまで囲まれなかったけど、新しい仲間ということでここまで集まるとは・・・・・

人気があることは嬉しかったが、この人数はすこししんどい。
そんな時、敬助君が私を助けてくれた。

「みんな、集まりすぎだよ。朝空さんが困っているだろう」
その言葉で一人ずつ順番に質問してくれた。

それに受け答えしていると、いつの間にか休憩時間は過ぎて授業が始まった。

「敬助君、ありがとう。助かった!」
「そっか。よかった。もしまた困ったことがあったらいつでも相談してね」
優しい笑顔を向けてくれる。
緊張していたこともあり、彼の笑顔は私を安心させてくれた。


この学校に入ってから一ヶ月くらい経った。

女子の友達ができた。前ほど友達がたくさんできたわけではないが、それでも楽しく過ごせた。

しばらく生活していて数人はどんな人かわかるようになった。
初めてきた時に優しくいろいろと面倒を見てくれた敬助君はクラスの人気者で明るく優しい。学級委員長で責任感もある。そして誰に対しても分け隔てなく話すムードメーカー。

次にこの学校のことを嫌々だったけど教えてくれた堀北さんは女子全員のリーダー的な存在で怖がってあまり話せない女子もいる。いつもそばに数人の取り巻きもいて私から見てもすこし怖い。学校のことを教えてくれたらほとんど話す機会はなくなった。

「朝空さん、もう学校には慣れた?」
いつものように敬助君が私に話しかけてくれる。
ここへ入ってきてからも私のことをよく気にかけてくれて本当に優しい。

「はい、慣れてきたかな・・・・」
「そっか、それはよかった! ハハハハ」
「そう思えば、何か好きなこととかってあるの?」
「私は、うーん友達と話すことかな・・・・」
「そっか、確かに楽しいよね!」
「はい」
「ねぇねぇ、敬助君。何話しているの?」
話の途中で堀北さんが入ってきた。
「好きなことが何かってね」
「えー、私も聞きたい!」
「ハハハハ」
席が近いこともあり、敬助君とはどんどん仲良くなった。

この時はまだ知らなかった。これから虐めに会うことを・・・・・

そしてある日、学校へ来るとシューズがなくなっていた。

「あれ? おかしいな・・・・」
私は冷静に考えて、職員室からスリッパを借りた。

そして「ガラン」とドアを開けて教室へ入る。

いつも話している友達の元へ行く。
「二人ともおはよう!」

「・・・・・・・」
二人はこちらを振り向いたが、私を無視して話を続ける。

「えっと、二人ともどうしたの?」
誰かを恐れているかのように怯えた顔をしていた。
「いこ・・・・・」
そして足早にすっと私の前を通り過ぎる。

どうしたんだろう?

疑問に思いながら自分の席へと座った。

二人がどこかへ行ったから私は一人になった。

一人寂しく、下を向いて座る。
「あれれ? 今日は一人なんだ。寂しそう、フハハハハ!」
私の後ろの方で堀北さんとその取り巻きが笑い合っている。

小学生だからこそ、この状況はとても悲しいものだった。

一応、授業があるからランドセルを下ろし、教科書を机の中へ入れようとする。

手を机の中へ入れると紙が入っていた。
それを取り出すと。

「死ね」
「消えろ」
など様々な暴言が書いてあった。

これを見てやっと気づいた。私は虐められていると。
心が苦しくなってくる。

理由はわからないけど、誰に虐められているのかはわかった。

堀北さん達だ。

なぜこんなことをするんだろう。そんな風に問い詰めたかったが、一人では怖くて何もできなかった。

始めは平気だった。しかし、虐めはだんだんエスカレートしていき、苦しくなってきた。

足を引っ掛られてこける。
肩を強くぶつけられる。
初めは堀北さんとその取り巻きだけだったけど、少しずつ私を虐める女子が増えてきた。
たぶん、堀北さんに脅されたのだろう。

私もまたストレスが溜まり、視力がだんだん低下し、眼鏡をかけないといけなくなった。

学校へ行く。
シューズはいつも通りなく、教室へ行っても誰にも話せない。一人で自分の机に座る。
その姿を見て堀北さん達が笑う。
これを毎日繰り返し行われた。
周りのクラスメイトは堀北さん達を恐れて何
も言わない。

「フハハ! 朝空さん一人なんだ。恥ずかしい!」
「一人になっちゃったね」
「始めは人気があったのに、かわいそう。プフフ」
「へぇ、眼鏡かけたんだ。地味なあんたにはお似合いだね」
「あ、そうだ。この子のあだ名、地味子にしない!」
「アハハハ、それはいいね」
「本当、お似合い」

軽い悪口を言うと堀北さんは近づいてくる。

「ねぇ、何であんたは生きてるの? 死んだほうがマシじゃない? プッ、フハハハハ!」
笑いながら去って行った。

彼女達が離れて行った後、また誰かが私に近づいてくる。
もういい、やめて。来ないで・・・・・

心の中で叫んでいた。
また誰かに馬鹿にされる、そう絶望していたら、元気な挨拶が耳に響いた。
「おはよう!」
明るい声で私に話しかけてくれる子がいた。

敬助君だ。
「あれ? なんか元気がないけど、どうしたの?」
心配する顔を私に向けている。

一人だけ、私に話しかけてくれる人がいた。

そうだ。敬助君だ。この人なら信じられる。
私は安心すると彼に相談していた。

「敬助君、ちょっと相談したいことがあるんだけど聞いてくれるかな?」
「え、うん、どんなことでも聞くよ」

「実は私、堀北さん達に虐められているの・・・・・・」

素直に話した。

きっと私を信じて、助けてくれる。そう願っていたがそれは届かなかった。

「うーん・・・・  さすがに考えすぎじゃないかな。堀北さんがそんなひどいことするわけないじゃん。ちょっと思い込みすぎとかではないかな・・・・・」
敬助君は私を信じず、堀北さんの味方になった。
思い出すと敬助君の前では堀北さんは虐めをしていなかった。しかも明るく敬助君に彼女は振る舞っている。
信じるわけないか・・・・

さらに私は絶望した。そして感情がだんだん抑えられない。

ど、どうして、どうして誰も私のことを信じてくれないの。

もう嫌、こんなところもう嫌だ。

胸が苦しくなってくる。
私は教室というこの地獄のような場所から逃げるように飛び出した。

思っ切り走って、大きくこけた。
足に強い痛みを感じる。
大きくこけたが滑ったのではない。何かにつまずいた。

足を痛めながら、ゆっくりと座る。
すると横から笑い声が聞こえた。

「アッハハハハハ!」
取り巻きと堀北さんが立っていた。
この誰かに足を引っ掛けられてこけたのだろう。
さらに心が苦しくなる。
「本当にあんたはどんくさいね」
「笑える。一人でトイレでもいくんじゃないですか」
「ありえる。一人でトイレで泣いてんるんでしょ。本当、笑いものだな」

そしてとどめの言葉が堀北さんの口から言われる。

「いなくなっちゃえばいいのに。あんたがいなければみんなが幸せになる!」

「はぁはぁはぁはぁ!」
息ができないような苦しい呼吸になる。

さっきのように、全力で逃げた。

「はぁはぁはぁはぁ」
こんなところ嫌。地獄だ。

そのまま私は学校へを飛び出した。

意識が朦朧としながら、街を歩いていた。

ちゃんと意識があったのは夕方になる頃。
呼吸がやっと整った。
絶望や悲しみはあったが彼女達から逃げたことで少しおさまっていた。

私は橋の上にいた。

「ハハハハ、ここから飛び降りれば死ねるかな・・・・・」

絶望にほとんど感情が支配されていて、「自殺」というのを考えていた。

死ぬってどういうことだろう。
誰か悲しんでくれる人は私にいるのかな・・・・・

そんなことを考えながら橋の手すりの上に座った。

あと一歩、ジャンプするだけで私は死ぬことができる。
死ぬと考えたら、悲しい感情よりも喜びの感情の方が強かった。

ああ、私死ぬのかな・・・・・
夕焼けがまるで血のように見えた。

私は覚悟を決めてお落ちようとした時、ある少年と出会った。
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