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異世界編ー瘴気落
読書会(2)
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学校の休日。
約束通りにスノー邸へと向かう。
2度目の訪問、場所もそれほど離れた場所というほどでも無く難しい道でも無いため一人で訪れることも出来たが、アクア邸に負けずの豪邸の門を潜り、クリアを一人で尋ねる勇気は無く、街の本屋で一度落ち合う事にした。
そして恐れ多くも、再びスコールから服を一着借り(本人にはくれてやると言われた)、アクア邸を出ると、一度街を経由し本屋へと向かう。
本を眺めている先客が一人、本を眺め特に買う訳でも無く、巻数が雑に並んだ本棚の本を巻数順に並び変えている。
そんな店主に頼まれた訳でも無く奉仕している少女の頭にポンと手にしていた物を置く。
「はっ……レスさん、お、おはようございます……」
いつも普通に会話しているのにこうして改めて休みの日とかに二人で会うと緊張するのってなんなんだろうな……
「頭の上に何かが居ます……」
自分の頭の上に乗っかっている、俺の元居た世界で、俺の住んでいた地域に生息していた雪の妖精ことシマエナガのぬいぐるみ、っても実際に生活していて実物を自然で見たことはほとんど無いんだけどな。
「……お駄賃」
そう無料奉仕中の少女に報酬を渡す。
「わっ」
頭の上に置いたコロンと調度、クリアの手のひらに落っこちる。
「わっ……すごく可愛いです」
「雪の妖精……クリアのイメージにピッタリだなって、リプリスから色々と取り寄せて貰った際に……なんとなくついでに……な」
そう、理由になっていない理由を言いながらプレゼントする。
「レスさん……、わたし大切にします」
俺に対する言葉を、目の前のシマエナガのぬいぐるみと真剣に向き合いながらクリアが答える。
「……あぁ、そうしてもらえると、きっとあいつも納得してくれるよ」
そう少し遠くを見ながら……
「……何かあったのですか?」
そう俺の様子を見てクリアが首を傾げるようにこちらを見る。
あっ……シマエナガっぽいと心の中で呟きながら……
「……まぁ、少し前から一人の隠れぬいぐるみ愛好家に護衛役を引き受けてもらっているんだけどな……昨日、リプリスからそのぬいぐるみを引き取って、昨日は1日、俺に与えられてる部屋の机の上に置いといた訳だが……」
昨日の風景を思い返しながら……
「……?」
きょとんとした瞳が俺を覗いている。
「興味なさそうなふりしながら、気がつくと……じっと見詰め合ってるんだよ……」
そんなものに興味は無いと、そんな振る舞いをしておきながら……会話が途切れたときとか、彼女《ツキヨ》の興味はずっとそっちにいっていた。
むしろ、最初から最後まで彼女《ツキヨ》の興味は彼《シマエナガ》だけだった。
お見合い相手などに興味がないと言っておきながら、裏で相手を意識するように……
『な……なまえはなんていうんだ?』とか
『ふだんは、どんなものを食べるんだ?』とか色々聞かれた。
寝言でも『シ……シマエナガ……さん、いかないで……』って言っていた。
多分……誰かの手元に行ってしまうのを予感していたのだろう。
……ものすごく忍びなかったが……これはクリアにと取り寄せたものだ。
「……私がもらってしまって大丈夫なのでしょうか?」
少し申し訳なさそうに……それでもシマエナガを大事そうに胸元にかかえる。
大きな丘の谷間に沈んでいくシマエナガさんが素直に羨ましい。
「……それはクリアのだ、ツキヨにはまた別なものを渡すよ」
そう言って、書店を出る。
「……こうやって、クリアと二人だけってのもすごく久々のような気がするな」
そう胸元でぬいぐるみを大事そうに抱えているクリアに言う。
「そうですね、私と違ってレスさんは人気者ですし」
そうどことなく寂しそうな表情で言う。
「そうか……?」
俺なんかよりも絶対、美人、秀才の才色兼備を備えたお嬢様の方が、絶対に周りからもてるだろう。
断言してもいい……彼女に密かに惹かれている野郎共は沢山いる。
それを彼女が受け入れようとしていないだけだ。
そして、スノー邸に向かう道中、あえて景色を楽しもうと土手のあたりを二人で歩く。
途端強い風が吹いて、クリアが手元から滑り落ちたぬいぐるみを慌ててキャッチするが……
「きゃっ」
そのまま、土手から転げ落ちそうにバランスを崩した身体の左手を俺が慌ててキャッチする。
結果手を繋いでいる絵ずらになっている。
「っと大丈夫か……」
そう咄嗟に取った手を放そうとする。
「あっはい……ありがとうございます……」
その結果《てつなぎ》に二人でしどろもどろしながら……
「あっ!!レスさん」
急にクリアが少しだけ大きな声を上げ、思わず離そうとした手を止める。
「あ、あのこの辺は、少しだけ危険ですので、もう少しだけ……(このままで)」
そう、目は合わさずに逆に俺の手を握る力が少しだけ強くなる。
「そ……そうだな」
わざわざこんな危険《どて》を歩きながら二人で若干支離滅裂な会話を続け、
手を繋いだままスノー邸を目指すが、スノー邸に着くや即座にその手を離す。
少しだけ、俺が手を離したことに不服そうな目をクリアがするが……
この前はアストリアと3人でスノー邸の門をくぐったから気が付かなかったが、
スノー邸に仕えている者たちの目が痛いほど俺に突き刺さっている。
そりゃ、俺みたいな場違いが、友人という肩書だけで門をくぐろうとするものなら、そんな目もされるだろうな……
そんな目線を搔い潜りながらクリアの部屋に辿り着く。
下手な本屋よりも書物が並んでいる。
小さな図書館が開けそうな広い部屋にひろがっている本。
「……落ち着くな」
こう本に囲まれていると落ち着く感覚。
現世《むかし》では、嫌なことがあったときなど、意味もなく図書館などに言って静かな空間で本に囲まれた空間に身を置くこともあった。
まぁ、単なる現実逃避の一環だったが……
「本当ですか……?」
俺が気を利かせて言った台詞だと思っているのか、
クリアは俺が渡したシマエナガのぬいぐるみを飾る場所を模索しながら、
顔をこちらに向ける。
おしゃれなテーブルに置かれている、お気に入りだろう本が並んでいる本の隣にシマエナガを配置すると俺の方へと戻ってくる。
お互いに、新たに仕入れたお勧めの本を交換して読書会となる。
はずだったが……
「お嬢……帰ってたのですか?」
アストリアが部屋のドアを開ける。
「ん……なんだ小僧、お前も居たのか?」
そう俺を見つけアストリア言うと、再びクリアを見る。
「二人そろって何を不健康《どくしょ》なことなさっているのです……小僧と一緒に外で元気に稽古とでもいきましょう」
そう、アストリアが言う。
動物に例えると、クリアがシマエナガなら、アストリアはヒョウあたりか……
とどうでもいいことを考えながら二人を眺める。
「出てって……部屋から」
まゆを吊り上げて、凄むクリアの姿がある。
「いや、せっかくこうして3人揃ってる訳ですから、お嬢も最近はだいぶ魔力も能力も強力に……」
そんなアストリアの言葉もクリアには届かないように……
「出てって……家からっ」
台詞を言い終える前にクリアの言葉に遮られる。
「……部屋だけではなく家から……わ、わかりましたよお嬢、こんな事でクビにしないでくださいよ」
まゆをつりあげたシマエナガが、一匹の雹を部屋の外に追いやっている。
無事、アストリアが部屋の外に追い出されると、クリアが再び戻ってくる。
「今回の私のお勧めはコレです」
そう少し緊張した眼差しで数冊の本を俺の方へと差し出す。
「えっと……俺はコレ……」
しかし、リプリスの能力ってどうなってるんだろうな……
こうして、本の中身《ぶんしょう》まで一字一句間違わず、
現世から運び出されている。
リプリス本人いわく、リプリスがこの異世界に持ち込めるものは、
この異世界で再現が可能かどうか……というのが強いらしい。
食べ物や雑誌、本は食材や素材《かみ》があれば再現できる。
機械に関しては、動かすには機材、技術、知識と必要になる……
それらを全てこの異世界に備わって初めて実現できるそうだ。
この異世界に最初に車が無かったとすれば、それを作る工程をしっている人間が、
こっちに召喚されていたんだな……
「わぁ……素敵な表紙、面白そうです」
そう俺からクリアが本を受け取る。
「愛を知りたい、機械人形《しょうじょ》の話、めっちゃ感動するぞ」
そう言っておきながら……
この異世界と現世では随分と小説やラノベの世界観って変わってくるよなと思う。
なんせ、こっちは現世《おれら》のファンタジーが現実世界で、
俺にとっての現世がある意味ファンタジーなんだよな。
そして、二人で黙々と本を読み始める事、数時間……
隣で時折鼻をすするように、涙を拭っているクリアを横目に、
自分が書いた訳でもないのに勝者のように心の中でガッツポーズを取る。
そして、クリアとはやはり分かり合えそうだと確信する。
不意に部屋の外が騒がしくなり、ドタドタと足音が聞こえる。
「クリア……要るの?お友達?お母さんに紹介しなさいっ」
クロハの母、イロハ同様に一児の母とは思えぬ綺麗な女性がドンとドアを開ける。
「ま、まって下さい、マシロ様……お嬢は今……」
そう、アストリアが必死に止めているようだがお構いなしに部屋の中に入ってくる。
「えっ……男?それに……あなた、クリアに何をしたのっ!」
涙を拭っているクリアを見ている……
えっと……これはどういう状況だ?
アクア邸のご両親様は……俺が勝手に屋敷に住み着こうが、家来やメイドが一人増えた感覚だったのだろう……
一度も見向きもされなかったが……
「クリア、あなたが友達を連れてきたって聞いて、嬉しかったのに……」
そう最悪の誤解を生むタイミングで入ってくる。
「お母さん……違うのっ……レスさんはその、友達で……えっとその中でも特別なのっ」
その言葉に、マシロと呼ばれたクリアの母は少し青ざめて……
「二人はお付き合いしているってことかしら?」
そうさらなる誤解を生んでいく。
「……違う、それはまだ……じゃなくて……」
肝心な部分で口ごもってしまい、誤解が解けない。
「……えっと……」
どう答えるべきか……ちらりと助けを求めるようにアストリアを見る。
仕方が無いと笑みを浮かべるアストリアだが……
嫌な予感がする……絶対に何か企んでいやがる顔だ。
「……マシロ様、以前に話したようにここ最近は学園で一騒ぎが有り、お嬢にも危険が及ぶ状況でした……お嬢のクラスメイトに一人腕の立つ生徒がいましてね……勝手ながら私がお嬢の護衛役として彼を任命しておりました」
そう俺を見て目配せをする。
「そ……そうです……僭越《せんえつ》ながらクリアさんの護衛を……」
そう口裏を合わせる。
「腕の立つ……容姿は兎も角、失礼だけど余り強そうには……」
そう鋭い疑いを向けられる。
「試してみますか……」
そうニヤリとアストリアが笑う。
「アストリア、あなたと彼が決闘を?」
そうマシロがアストリアに尋ねるが……
「私もそうしたいところですが……私とも彼は親しい間柄です、手を抜いたなんて言われても困りますからね……マシロ様の側近の護衛……二人を相手にさせてはいかがですか?」
「……彼、一人で……ライゼフとマーティスの相手を?」
少し驚いた顔をしている。
どこの誰かは知らないが……屋敷の主を側近で守護している二人組みが、弱いわけはない。
「……ちょっと……待てよ」
俺は途惑いながらその提案を止めようとする横で……
「レスさんは私の特別な友達ですっ、危ないことはさせないでっ!」
そうクリアが俺の代わりに二人を止めてくれるが……
「これは……失礼、いくらお嬢の特別な友達《レス》でも、あの二人には敵わない……ですね」
そうアストリアが嫌味まじりに言うと……
「……いい加減な事を言わないでっ、レスさんがあんな二人に負ける訳無いじゃないですか」
そうムキになって返す。
「……あんな……とは侵害だな……」
そういつの間にか立っていた二人。
側近の護衛というのだから当然か……
しかも言葉の発信先じゃない俺に完全にヘイトが向かっている。
「表へ出ろっ……決闘だ」
まて……俺の能力は防御だと言ってるだろ……
「相手は野郎《おとこ》二人だ……女性支持《フェミニスト》の小僧……お前の本気を見せてみろ」
アストリアはそう俺の心を読むように無茶を言う。
約束通りにスノー邸へと向かう。
2度目の訪問、場所もそれほど離れた場所というほどでも無く難しい道でも無いため一人で訪れることも出来たが、アクア邸に負けずの豪邸の門を潜り、クリアを一人で尋ねる勇気は無く、街の本屋で一度落ち合う事にした。
そして恐れ多くも、再びスコールから服を一着借り(本人にはくれてやると言われた)、アクア邸を出ると、一度街を経由し本屋へと向かう。
本を眺めている先客が一人、本を眺め特に買う訳でも無く、巻数が雑に並んだ本棚の本を巻数順に並び変えている。
そんな店主に頼まれた訳でも無く奉仕している少女の頭にポンと手にしていた物を置く。
「はっ……レスさん、お、おはようございます……」
いつも普通に会話しているのにこうして改めて休みの日とかに二人で会うと緊張するのってなんなんだろうな……
「頭の上に何かが居ます……」
自分の頭の上に乗っかっている、俺の元居た世界で、俺の住んでいた地域に生息していた雪の妖精ことシマエナガのぬいぐるみ、っても実際に生活していて実物を自然で見たことはほとんど無いんだけどな。
「……お駄賃」
そう無料奉仕中の少女に報酬を渡す。
「わっ」
頭の上に置いたコロンと調度、クリアの手のひらに落っこちる。
「わっ……すごく可愛いです」
「雪の妖精……クリアのイメージにピッタリだなって、リプリスから色々と取り寄せて貰った際に……なんとなくついでに……な」
そう、理由になっていない理由を言いながらプレゼントする。
「レスさん……、わたし大切にします」
俺に対する言葉を、目の前のシマエナガのぬいぐるみと真剣に向き合いながらクリアが答える。
「……あぁ、そうしてもらえると、きっとあいつも納得してくれるよ」
そう少し遠くを見ながら……
「……何かあったのですか?」
そう俺の様子を見てクリアが首を傾げるようにこちらを見る。
あっ……シマエナガっぽいと心の中で呟きながら……
「……まぁ、少し前から一人の隠れぬいぐるみ愛好家に護衛役を引き受けてもらっているんだけどな……昨日、リプリスからそのぬいぐるみを引き取って、昨日は1日、俺に与えられてる部屋の机の上に置いといた訳だが……」
昨日の風景を思い返しながら……
「……?」
きょとんとした瞳が俺を覗いている。
「興味なさそうなふりしながら、気がつくと……じっと見詰め合ってるんだよ……」
そんなものに興味は無いと、そんな振る舞いをしておきながら……会話が途切れたときとか、彼女《ツキヨ》の興味はずっとそっちにいっていた。
むしろ、最初から最後まで彼女《ツキヨ》の興味は彼《シマエナガ》だけだった。
お見合い相手などに興味がないと言っておきながら、裏で相手を意識するように……
『な……なまえはなんていうんだ?』とか
『ふだんは、どんなものを食べるんだ?』とか色々聞かれた。
寝言でも『シ……シマエナガ……さん、いかないで……』って言っていた。
多分……誰かの手元に行ってしまうのを予感していたのだろう。
……ものすごく忍びなかったが……これはクリアにと取り寄せたものだ。
「……私がもらってしまって大丈夫なのでしょうか?」
少し申し訳なさそうに……それでもシマエナガを大事そうに胸元にかかえる。
大きな丘の谷間に沈んでいくシマエナガさんが素直に羨ましい。
「……それはクリアのだ、ツキヨにはまた別なものを渡すよ」
そう言って、書店を出る。
「……こうやって、クリアと二人だけってのもすごく久々のような気がするな」
そう胸元でぬいぐるみを大事そうに抱えているクリアに言う。
「そうですね、私と違ってレスさんは人気者ですし」
そうどことなく寂しそうな表情で言う。
「そうか……?」
俺なんかよりも絶対、美人、秀才の才色兼備を備えたお嬢様の方が、絶対に周りからもてるだろう。
断言してもいい……彼女に密かに惹かれている野郎共は沢山いる。
それを彼女が受け入れようとしていないだけだ。
そして、スノー邸に向かう道中、あえて景色を楽しもうと土手のあたりを二人で歩く。
途端強い風が吹いて、クリアが手元から滑り落ちたぬいぐるみを慌ててキャッチするが……
「きゃっ」
そのまま、土手から転げ落ちそうにバランスを崩した身体の左手を俺が慌ててキャッチする。
結果手を繋いでいる絵ずらになっている。
「っと大丈夫か……」
そう咄嗟に取った手を放そうとする。
「あっはい……ありがとうございます……」
その結果《てつなぎ》に二人でしどろもどろしながら……
「あっ!!レスさん」
急にクリアが少しだけ大きな声を上げ、思わず離そうとした手を止める。
「あ、あのこの辺は、少しだけ危険ですので、もう少しだけ……(このままで)」
そう、目は合わさずに逆に俺の手を握る力が少しだけ強くなる。
「そ……そうだな」
わざわざこんな危険《どて》を歩きながら二人で若干支離滅裂な会話を続け、
手を繋いだままスノー邸を目指すが、スノー邸に着くや即座にその手を離す。
少しだけ、俺が手を離したことに不服そうな目をクリアがするが……
この前はアストリアと3人でスノー邸の門をくぐったから気が付かなかったが、
スノー邸に仕えている者たちの目が痛いほど俺に突き刺さっている。
そりゃ、俺みたいな場違いが、友人という肩書だけで門をくぐろうとするものなら、そんな目もされるだろうな……
そんな目線を搔い潜りながらクリアの部屋に辿り着く。
下手な本屋よりも書物が並んでいる。
小さな図書館が開けそうな広い部屋にひろがっている本。
「……落ち着くな」
こう本に囲まれていると落ち着く感覚。
現世《むかし》では、嫌なことがあったときなど、意味もなく図書館などに言って静かな空間で本に囲まれた空間に身を置くこともあった。
まぁ、単なる現実逃避の一環だったが……
「本当ですか……?」
俺が気を利かせて言った台詞だと思っているのか、
クリアは俺が渡したシマエナガのぬいぐるみを飾る場所を模索しながら、
顔をこちらに向ける。
おしゃれなテーブルに置かれている、お気に入りだろう本が並んでいる本の隣にシマエナガを配置すると俺の方へと戻ってくる。
お互いに、新たに仕入れたお勧めの本を交換して読書会となる。
はずだったが……
「お嬢……帰ってたのですか?」
アストリアが部屋のドアを開ける。
「ん……なんだ小僧、お前も居たのか?」
そう俺を見つけアストリア言うと、再びクリアを見る。
「二人そろって何を不健康《どくしょ》なことなさっているのです……小僧と一緒に外で元気に稽古とでもいきましょう」
そう、アストリアが言う。
動物に例えると、クリアがシマエナガなら、アストリアはヒョウあたりか……
とどうでもいいことを考えながら二人を眺める。
「出てって……部屋から」
まゆを吊り上げて、凄むクリアの姿がある。
「いや、せっかくこうして3人揃ってる訳ですから、お嬢も最近はだいぶ魔力も能力も強力に……」
そんなアストリアの言葉もクリアには届かないように……
「出てって……家からっ」
台詞を言い終える前にクリアの言葉に遮られる。
「……部屋だけではなく家から……わ、わかりましたよお嬢、こんな事でクビにしないでくださいよ」
まゆをつりあげたシマエナガが、一匹の雹を部屋の外に追いやっている。
無事、アストリアが部屋の外に追い出されると、クリアが再び戻ってくる。
「今回の私のお勧めはコレです」
そう少し緊張した眼差しで数冊の本を俺の方へと差し出す。
「えっと……俺はコレ……」
しかし、リプリスの能力ってどうなってるんだろうな……
こうして、本の中身《ぶんしょう》まで一字一句間違わず、
現世から運び出されている。
リプリス本人いわく、リプリスがこの異世界に持ち込めるものは、
この異世界で再現が可能かどうか……というのが強いらしい。
食べ物や雑誌、本は食材や素材《かみ》があれば再現できる。
機械に関しては、動かすには機材、技術、知識と必要になる……
それらを全てこの異世界に備わって初めて実現できるそうだ。
この異世界に最初に車が無かったとすれば、それを作る工程をしっている人間が、
こっちに召喚されていたんだな……
「わぁ……素敵な表紙、面白そうです」
そう俺からクリアが本を受け取る。
「愛を知りたい、機械人形《しょうじょ》の話、めっちゃ感動するぞ」
そう言っておきながら……
この異世界と現世では随分と小説やラノベの世界観って変わってくるよなと思う。
なんせ、こっちは現世《おれら》のファンタジーが現実世界で、
俺にとっての現世がある意味ファンタジーなんだよな。
そして、二人で黙々と本を読み始める事、数時間……
隣で時折鼻をすするように、涙を拭っているクリアを横目に、
自分が書いた訳でもないのに勝者のように心の中でガッツポーズを取る。
そして、クリアとはやはり分かり合えそうだと確信する。
不意に部屋の外が騒がしくなり、ドタドタと足音が聞こえる。
「クリア……要るの?お友達?お母さんに紹介しなさいっ」
クロハの母、イロハ同様に一児の母とは思えぬ綺麗な女性がドンとドアを開ける。
「ま、まって下さい、マシロ様……お嬢は今……」
そう、アストリアが必死に止めているようだがお構いなしに部屋の中に入ってくる。
「えっ……男?それに……あなた、クリアに何をしたのっ!」
涙を拭っているクリアを見ている……
えっと……これはどういう状況だ?
アクア邸のご両親様は……俺が勝手に屋敷に住み着こうが、家来やメイドが一人増えた感覚だったのだろう……
一度も見向きもされなかったが……
「クリア、あなたが友達を連れてきたって聞いて、嬉しかったのに……」
そう最悪の誤解を生むタイミングで入ってくる。
「お母さん……違うのっ……レスさんはその、友達で……えっとその中でも特別なのっ」
その言葉に、マシロと呼ばれたクリアの母は少し青ざめて……
「二人はお付き合いしているってことかしら?」
そうさらなる誤解を生んでいく。
「……違う、それはまだ……じゃなくて……」
肝心な部分で口ごもってしまい、誤解が解けない。
「……えっと……」
どう答えるべきか……ちらりと助けを求めるようにアストリアを見る。
仕方が無いと笑みを浮かべるアストリアだが……
嫌な予感がする……絶対に何か企んでいやがる顔だ。
「……マシロ様、以前に話したようにここ最近は学園で一騒ぎが有り、お嬢にも危険が及ぶ状況でした……お嬢のクラスメイトに一人腕の立つ生徒がいましてね……勝手ながら私がお嬢の護衛役として彼を任命しておりました」
そう俺を見て目配せをする。
「そ……そうです……僭越《せんえつ》ながらクリアさんの護衛を……」
そう口裏を合わせる。
「腕の立つ……容姿は兎も角、失礼だけど余り強そうには……」
そう鋭い疑いを向けられる。
「試してみますか……」
そうニヤリとアストリアが笑う。
「アストリア、あなたと彼が決闘を?」
そうマシロがアストリアに尋ねるが……
「私もそうしたいところですが……私とも彼は親しい間柄です、手を抜いたなんて言われても困りますからね……マシロ様の側近の護衛……二人を相手にさせてはいかがですか?」
「……彼、一人で……ライゼフとマーティスの相手を?」
少し驚いた顔をしている。
どこの誰かは知らないが……屋敷の主を側近で守護している二人組みが、弱いわけはない。
「……ちょっと……待てよ」
俺は途惑いながらその提案を止めようとする横で……
「レスさんは私の特別な友達ですっ、危ないことはさせないでっ!」
そうクリアが俺の代わりに二人を止めてくれるが……
「これは……失礼、いくらお嬢の特別な友達《レス》でも、あの二人には敵わない……ですね」
そうアストリアが嫌味まじりに言うと……
「……いい加減な事を言わないでっ、レスさんがあんな二人に負ける訳無いじゃないですか」
そうムキになって返す。
「……あんな……とは侵害だな……」
そういつの間にか立っていた二人。
側近の護衛というのだから当然か……
しかも言葉の発信先じゃない俺に完全にヘイトが向かっている。
「表へ出ろっ……決闘だ」
まて……俺の能力は防御だと言ってるだろ……
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スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
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