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1.日常
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しおりを挟む都内の小さなライブハウス。半地下で天井は低く、お世辞にも綺麗とは言い難い。
平日の夜にも関わらず、そのライブハウスは満員だった。とは言っても、キャパシティは四十~五十人程度の小さな箱だ。しかし、熱気が溢れ、フロアはファンでいっぱいになっており、歓声に包まれている。
音楽に合わせて揺れるのは、赤と青のペンライト。眩いライトに照らされたステージには、男性が二人。アイドルユニットのTwin Meteor(ツイン メテオ)のミナミとイオだ。ミナミが赤担当、イオが青担当で、二人で活動して三年に差し掛かろうとしている。
ファンは女性がほとんどで、男性ファンはかなり少ない。しかし、一人の男性ファンが、フロアの一番後ろに立っていた。
「イオくん!」
仕事帰りの総司はスーツ姿で、両手に青のペンライトを持ち、推しの名前を呼んだ。開演直後に滑りこんだため一番後に立っているが、ほぼ女性ファンなので、身長百七十五センチの総司は頭一つ分抜けている。視界は良好だ。
イオはステージ上で歌い踊っていた。手足の長さを生かしたしなやかなダンス、透明感のある歌声、天使と見間違う程の顔の造形。総司はイオの一挙手一投足に見惚れ、ペンライトを振るのも忘れ、じっと見つめた。
「はぁ……今日のパフォーマンスもいまいちだけど、存在が最高……」
総司の口からはおよそ褒め言葉とは思えない言葉が飛び出す。
確かにイオは身長が高く、細身でスタイルはいい。しかし、ダンスはお世辞にも上手いとは言えず、ミナミのダンスとは揃っていない。さらに、イオは体力がなく、ライブ後半にはすっかり疲れ切って、ダンスがおざなりになってしまう。汗をかいて、頬を上気させ、息が上がるイオに、総司は愛おしいという感情を抱く。歌声についても、体力のなさが滲みでる。声自体は綺麗だが、やはり覇気がなく、か細い。
しかし、イオの顔の造形は文句なく、いつでもパーフェクトだった。
白い肌に、陶磁器のようにつるりとした皮膚。形のいい唇に、切れ長のアーモンドアイ。その瞳は少し茶色がかって、キラキラと光を反射させる。十八歳という、少しあとげなさの残る年齢は、天使の中に小悪魔さを覗かせた。
ニュアンスパーマがかかった髪は、明るい茶色で、イオが動くたびに、ふわりと揺れる。衣装は白を基調としたもので、軍服のようなジャケットに、タイトなパンツを合わせ、イオのスタイルの良さを引き出している。
一方、総司が全く目もくれていないミナミは、イオとは対照的に黒を基調とした衣装だ。明るめの茶髪は無造作にかき上げられ、耳にはピアスが光る。吊り目がちな目は獰猛さを表して、身体つきは筋肉質。ダイナミックなダンスと力強い歌声に、ファンは酔いしれる。いわゆる俺様というタイプで、イオの王子様タイプとは正反対だった。
そんな正反対な二人は、ファンを惹きつけてやまない。地下アイドルながらも固定ファンがついているTwin Meteorは、精力的に活動を続けていた。
総司はただじっとイオだけを見つめていた。その表情はにやけていて、だらしない。普段は製薬メーカーの営業として働き、周囲からは爽やかだと評される総司だが、今はその面影は全くなかった。
「イオくん!かっこいい!」
一生懸命パフォーマンスをするイオに、総司は堪らず声を出した。すると、イオは総司に気づき、軽くウィンクを飛ばす。
「ひっ、あ、イオくん、ああぁあ!イオくんんん!」
たちまち総司は頭を抱えて、奇声を発した。その気持ち悪い声は、幸い女性ファンの黄色い歓声にかき消され、誰の耳にも残らなかった。総司の社会的体裁は保たれたのだ。
(イオくん、生きているだけでファンサービスなのに、歌って踊ってくれて、さらに、こんな俺にウィンクまでしてくれて……!ありがとう!この世界の全てにありがとう!)
総司はひれ伏して感謝を表したかったが、イオのパフォーマンスを見逃すわけにはいかない。どうにか顔をあげ、ペンライトを強く握りしめながら、イオを見つめ続けた。
「イオくん!最高!ありがとう!」
ライブが終わると、総司は大きな拍手を送り、目を潤わせながらイオに感謝を伝えた。ステージではイオとミナミが笑顔で手を振っている。ライトによって、イオの首筋や額に汗が光り輝く。イオが頑張った証拠だと、総司は感動して、結局泣いたのだった。
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