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3.理由
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しおりを挟む「じゃあ、おやすみ、イオくん」
「はい、総司さんも、おやすみなさい」
総司が部屋のドアを閉めると、部屋はイオだけになる。イオは総司のベッドに倒れこんだ。重い身体はベッドにぐぐっと沈んでいく。
(疲れた……)
言葉は出なかったが、大きく長いため息が口から飛びだした。
疲れたのはTwinMeteorの解散の件が主だが、総司の部屋に来てからも原因だった。
「床で大丈夫です!床で!」
「俺のベッド使って!こんな使い古したベッドにイオくんを寝かせられないけど、使って!シーツは変えてあるから!!」
カップ麺で腹を満たし、シャワーを浴び終えたイオを出迎えたのは、毛布を抱えた総司だった。家主である総司がリビングの床に、イオがベッドに寝るという提案に、イオは首を横に振った。
「イオくんの身体が一番大事なんだから。綺麗な肌や美しい身体に何かあったらどうするの?!もし傷がついたりすれば、俺は後悔して死ぬ!」
オタク特有な早口で総司に捲し立てられ、イオはギブアップした。イオにまつわることには、特段頑固さを発揮する総司に何を言っても無駄だと判断する。
「わかりました。お言葉に甘えます」
結局、渋々承諾したイオだった。
イオは見慣れない天井を見つめ、柔らかいベッドの上でゴロゴロとする。整頓された部屋は居心地がいいが、一角にあるイオの祭壇だけが異様だ。イオは自らの顔の集合体をじっと見つめ合った。エゴサで見慣れている祭壇とは言え、実物を目にすると迫力に圧倒される。
(すごい数のグッズとチェキ。いつもたくさん買ってくれてるから……)
総司はいつもライブに来てくれるだけでなく、特典会には必ず参加している。それほど金を払っているということだとイオは理解していた。
(俺との時間なんて、大したものじゃないのに)
イオは大きくため息をついた。
元々イオは引っ込み思案な性格で、自信がないタイプの人間だ。人前に立つような人間ではなかったイオが、アイドルになったのは、スカウトがきっかけだった。
イオは自らの性的嗜好、つまりゲイであるせいで、肩身の狭い想いをした経験がある。そのため、高校卒業と同時に東京に出てきた。東京で大多数の人間にまぎれて過ごすことは、イオにとって安心できた。バイトをしながら生活していたが、その時に事務所にスカウトされて、TwinMeteorとして活動することになったのだ。
最初はアイドルなんてと思っていたイオだが、実際ステージに立ち、他人に求められている実感を得ることは、自らを肯定された気になった。一時期生きている意味すらわからなくなっていたが、今では前向きに生きることができている。
(明日起きたら、バイトを探して、泊まれる所も探して……)
イオは布団に潜りこみ、目を瞑った。明日からのことは不安でならないが、とりあえず今は眠って、身体を休ませることが大事だ。目を瞑ると、すぐに睡魔がやってきて、規則正しい寝息が部屋に響いた。
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