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4.同棲
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しおりを挟む「おかえりなさい、総司さん」
総司の予想を裏切り、玄関で出迎えてくれたのは笑顔のイオだった。昨日と同じスキニージーンズに、灰色のロンTを着ていた。イオの細身のスタイルが引き立つ。
「なんで……?」
総司は驚き、その場で固まってしまう。しかも、わざわざ玄関まで出迎えてくれたのだ。なんというVIP待遇。総司は思わず天を仰いだ。
(違う、喜んでる場合じゃない。居ていいっていったけど、本当に居るとは思わなかった……)
嬉しいやら悲しいやら、焦燥やら困惑やら、複雑な感情が総司の心の中で渦巻く。それを悟られないように、ぐっと表情筋に力を入れてから、「ただいま、イオくん」と返した。
「晩ご飯、まだですよね?」
「え、うん、まだだけど……」
イオの質問の意味がわからず、総司は首を傾げた。「よかった」とイオはほっとした表情を見せ、部屋の中へと歩いていった。総司ははてなマークを浮かべながら、イオの後ろをついていく。美味しそうな匂いがすると思っていた総司だが、すぐにその正体が判明する。
「え……?!」
リビングのローテーブルの上に、料理が準備並んでいた。唐揚げ、サラダ、味噌汁が二人分用意されており、美味しそうな見た目と匂いに、総司の食慾は一気に刺激される。
「ちょっと待って、これ、もしかして、イオくんの手作り……?」
信じられないとばかりに驚いて、総司はイオを見つめた。イオは気恥ずかしそうに笑いながら、小さく頷く。
「せめてお礼がしたくて。お口に合えばいいですけど……」
「絶対お口に合うよ!!」
総司は力強く言い放つと、急いでテーブルに駆け寄った。はぁはぁと息を荒げて興奮しながら、スマホで料理の写真を撮る。
「すごい、え、イオくん、唐揚げ揚げれるの?料理できなそうなのに?すごいね!サラダも味噌汁も美味しそう!イオくんが作ってくれた晩ご飯を食べられるなんて、今すぐ死んでもいい!最後の晩餐がイオくんの手作りご飯なんて、人類で一番幸せなの確定!でも、待って、ちょっと待って、せっかく作ってくれたんだから、永久的に保管したほうがいいよね?!未来永劫、後世に語り継ぐべきだ!!」
興奮のあまり心の声が全て口からでている総司である。しかも、ローテーブルにかじりつくように、床に這いつくばり、スマホで連写しているものだから、傍からみれば滑稽な姿だ。イオが怪訝な顔をしていることに、総司は気づくはずもない。
ひとしきり騒いだ総司は、ようやく我に返った。イオの冷ややかな視線に晒されて、居たたまれなくなる。
(またやってしまった……。気持ち悪がられるってわかってるのに、勝手に言葉が飛びだしちゃうんだから……。昨日の二の舞だ……。でも、イオくんの手作り料理を目の前にして、落ち着いてられると思う?!無理だよね?!うん!!わかる~!)
総司は脳内で勝手に会話を繰り広げていた。
イオのほうは、昨日と今日で総司の素の姿にすっかり慣れたもので、総司の変態ぶりについては気にしていない。こういう人なんだと、理解していた。
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