家に帰ると推しがいます。

4.同棲

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　ようやく落ち着きを取り戻した総司は、部屋着のスウェットに着替え、うがい・手洗いを済ませた後、食卓についた。総司は対面に座るイオを直視できず、かといってテーブルから離れることもできず、推しとの食事という一大イベントにソワソワしていた。

（イオくんが近すぎる。なに？この距離でご飯食べるの無理じゃない？罰ゲーム？いや、イオくんと食事なんて、罰ゲームどころかご褒美に決まってる。でも、この距離は、無理……。光で浄化されて、召される……）

　総司は無意識にイオに手を合わせて、拝んでいた。イオはそれをいただきますのポーズだと勘違いして、総司の礼儀正しさに感心する。それを総司は知らない。

「いただきます」

　イオの声で我に返った総司は、イオが手を合わせていることに感動した。慌てて総司も「いただきます」と言う。

（イオくんって礼儀正しい子なんだな。ますます推せる！）

　お互いに勘違いしつつも、食事が始まった。
　総司は緊張の面持ちで、唐揚げを箸で掴み、一口で頬張った。鶏肉は柔らかく、じゅわりと肉汁がしみだして、スパイスの効いた味が口いっぱいに広がった。

「うん、美味しい！すごく美味しいよ、イオくん！」

　総司は素直な感想を口にした。普段コンビニや冷凍食品ばかり食べている総司にとって、手作りの唐揚げは殊更美味しく感じた。すぐにもう一つ口に運ぶ。

「よかった」

　喜ぶ総司の姿に、イオはほっと胸を撫でおろし、思わず笑みをこぼす。

（やっと笑ってくれた）

　イオの笑みに、総司は安心した。昨日から、どこかぎこちなく、緊張したような表情ばかり見せていたからだ。

（いつもの笑顔も可愛いけど、自然な笑顔も可愛い）

　唐揚げを堪能しながら、イオの笑顔も堪能する。今までステージや特典会で見ていた笑顔とは、やはり違う。推しの笑顔がおかずになる日が来るとは夢にも思わなかった。空腹も相まって、総司は箸が進む。

「うん、ほんとに美味しい！毎日でも食べたいくらい」

　総司の口から、自然と願望が漏れた。しまった、と思った時には遅くて、イオの表情が曇る。

「ごめん、気にしないで。イオくんは大変な状況なのに、能天気なこといってごめんね。オタクの戯言だと思って。いつまでも居ていいけど、こんな汚い所が嫌になったらすぐ出て行ってくれても構わないから。ほんとに、気にしないで」

　総司は慌てて「ほら、イオくんも食べなよ」と話題を変えようとするも、イオの表情は曇ったままだ。唇をきゅっと結んでいたイオは、少しの間逡巡したが、ゆっくりと口を開いた。

「甘えだとはわかってますし、厚かましいお願いなんですけど……」

　イオは総司の目をまっすぐ見つめる。

「もう少しの間、ここにいてもいいですか？」

　イオの言葉に、総司は息を呑んだ。再び複雑な感情に襲われる。それを顔に出さないように、静かに息を吸って吐いた。