家に帰ると推しがいます。

5.変化

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　寿司屋を訪れた数日が経ち、二人の生活は変わらずに続いていた。
　カラオケの深夜帯のバイトを終えたイオは、総司を仕事に見送った後、仮眠を取った。
　次に、イオが目を覚ましたのは昼過ぎだ。昼食は冷凍うどんで軽く済ませると、家事に取り掛かる。
　まずは掃除からと、イオは窓を開けた。春らしい温かな風が入ってくる。その心地良さに、イオは大きく伸びをして深呼吸をした。

「よしっ」

　気合を入れるために、イオは声を出す。
　部屋と風呂の掃除を手際よく済ませると、スーパーへ買い出しに行き、おかずの作り置きをする。それを終えると、総司が朝に干してくれた洗濯物を取りこんだ。
　テレビの情報番組を見ながら、洗濯物を畳む。情報番組には有名アイドルが出ており、流行りのスイーツを食べている。イオはそれを見て、別世界の話だと思っていた。TwinMeteorはファンはいたが、地下アイドルからは脱することはできなかった。

『アイドル、もうやらないの……？』

　イオは先日の総司の質問を思い出していた。
　イオがアイドルをやらないと答えてからも、総司は変わらず優しかった。それがイオにとっては心苦しかった。と同時に、この生活の終わりを考えた。

（このまま一緒に住み続けるわけにはいかないし、出ていくなら、このタイミングかな……）

　ちょうどバイトの給料が出るし、以前に総司からもらったお金も残っている。あとは、部屋を見つけるだけだった。最近は暇さえあれば、部屋を探しているイオだ。

（どうしてアイドルをやりたいと思わないんだろう……）

　テレビの中でちやほやされるアイドルを見て、イオは昔の自分を思い返す。
　誰かに求められたかった、認められたかった、肯定されたかった、存在を否定されたくなかった。
だから、苦手ながらも、始めたアイドルだったのに、今では全くアイドルをやりたいと思わない。その理由を考えながらも、せっせと洗濯物を畳んでいく。

「あ、総司さん……」

　ふと、手に取ったTシャツが総司のもので、イオは思わず言葉をこぼす。その瞬間、思考が猛スピードで答えに行き着いた。

（今は、総司さんがいるから……）

　理由がわかった瞬間、イオはかぁっと頬が熱くなった。

（総司さんが、俺の存在を認めてくれるから、俺はアイドルをやりたいって思わなくなってるんだ）

　総司は、イオの料理や家事の手腕を賞賛し、朝から晩までバイトをしてすごいと褒めてくれる。イオの存在を、百パーセント肯定してくれるのだ。けれど、その相手は、誰でもいいわけではない。

（相手は総司さん以外でもいい……？いや、そんなことない。総司さんだからこそ、俺は嬉しくて、幸せな気分になるんだ）

　自らの思考に照れてしまったイオは、頬の熱さを和らげるため、手で顔を仰いだ。

（けれど、満たされているのに、どこか物足りないのはなんでだろう）

　総司との生活は順調なはずだ。物足りなさの理由を考えて、手に持っている総司のTシャツをじっと見つめる。
そして、無意識に、吸い込まれるように、そのTシャツに顔を埋めた。柔軟剤の優しい匂いが、イオの鼻をくすぐる。

（違う、こんなのじゃなくて……）

　何かを求めるのは、本能だ。Tシャツから顔を上げたイオは、リビングを見渡す。そして、部屋の隅に、総司が使っている布団が畳んで置かれているのを見つけた。