家に帰ると推しがいます。

えつこ

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8.別離

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「兄貴は医者の道に進んで、俺は地下アイドルやって。遊んでるのと変わんねぇからな」
「でも、アイドルだって楽じゃないだろうし、大変だろ?」
「そう言ってくれるのは、あんたくらいだよ。うちの親も、向こうの親も、嫌なことばっかり言ってくる」

(確かに親の気持ちになれば、元地下アイドルとでき婚なんて……。将来が不安過ぎる……)

 総司はまだ見ぬ子供の結婚に想いを馳せていると、赤ちゃんが再びぐずり始めた。ミナミはすぐにあやすが、なかなか機嫌がよくならない。

「あんた、これから仕事?」
「まぁ、仕事と言えば仕事だけど……」
「うちに寄っていく?」
「うち?」
「そう、俺の家、すぐそこだから。っていっても、親の家だけど……」
「そんなお邪魔するなんて悪いし、仕事あるから……」

 ミナミについては興味がない総司は、早々に帰りたかった。しかし、続くミナミの言葉に、耳を疑うことになる。

「イオ、うちにいるのに?」
「…………は?」

(今、なんて言った?イオくんの名前が聞こえた気がした)

 唐突な言葉の羅列に、総司は理解が追い付かなかった。

「じゃあ、俺は帰るから」
「ちょっと、ミナミ、今、なんて?」
「俺は帰るって言った」
「違う、その前!」
「おい、大声出すなよ」
「あ、ごめん」

 総司はミナミに謝り、次にミナミの腕の中の赤ちゃんに「ごめんね」と優しく謝った。赤ちゃんはぐずぐずと不機嫌そうに声を上げる。

「あんたが探してるイオは、うちにいるって言ったんだよ」
「ほんとに……?イオくんが……?」
「嘘言ってどうすんだよ。あんた探してたんだろ、イオのこと」
「そう、だけど……」

(なんでミナミがそのことを知って……?いや、そんなことは今はどうでも良くて、イオくんが無事でいてくれたことが、嬉しい……)

 総司の瞳から涙が流れる。それを見たミナミは、げっという顔をして、身を引いていた。

「こわ……、泣いてんのかよ……?」
「当たり前だろ、泣くよ……」
「ほら、どうすんの?俺早く帰りたいんだけど」
「待って、行くから」

 総司は慌てて涙を拭い、先に歩き出したミナミの後をついて行った。


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