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10.後日
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しおりを挟む「七海さん、大丈夫ですか?」
総司が心配して尋ねると、七海はすぐに「大丈夫だからちょっと待って」と返す。しばらく動かなかった七海だが、ようやく顔を下げて、にこりと微笑んだ。
「料理は何にする?」
あくまで平静を装いつつも、七海の心中は穏やかではない。推しが急に現れ、あれこれやと話をされ、理解はしたが気持ちが追いついていない。
七海の心中を察しつつも、総司は「七海さん、もう一つあって……」と声を上げる。
「なに?」
「あの、ですね……」
総司とイオが付き合っていることを、七海に話すことは、事前に二人で話し合っていた。それでも、いざ話すとなると、緊張と怖さはあるもので、総司は言いあぐねていた。
(やっぱり七海さんには言わないほうがいいのかもしれない。男同士だし、元アイドルとファンだし、イオくんは七海さんの推しだし……。七海さんが嫌な気分にならないかな……)
総司は悩みながら、隣に座るイオを見る。イオは総司をまっすぐ見つめ返し、頷いた。
「もう十分驚いてるから、大抵のことは驚かないよ」
七海は空気を察し、明るい口調で促した。そして、「ビール頼んじゃうね」と言うと、タッチパネルを操作し、手早く注文した。タッチパネルをテーブルに置いた七海は、「で、なに?」と話を聞く体制を取る。
総司はそっと深呼吸をしてから、少し躊躇った後、言葉を発した。
「俺とイオくん、その……、付き合ってます……」
「は?」
七海は驚き、そして、本日二度目のキャパオーパーを味わっていた。目の前に並ぶ二人を見比べて、そして、もう一度見比べた。
「付き合うって、そういう……?」
「はい」
狼狽する七海の質問に答えたのは、イオだった。その瞳は曇りなくまっすぐで、七海は総司の言葉が本当であることを感じる。
三人の間に沈黙が落ちていると、個室の襖が開き、「失礼しまーす!」と明るい声を出しながら男性店員が入ってきた。
「お待たせしました!生ビール三つです!」
冷えたジョッキになみなみと注がれたビールが、テーブルに置かれる。七海はその一つを引っ掴むと、ぐいっとあおった。
七海の行動に、総司とイオ、男性店員が驚く。七海は勢いよくビールを飲み干すと、ジョッキをだんっとテーブルに置き、ふぅと息を吐いた。
「生ビール、もう一つ」
七海の言葉に、男性店員は「はいっ!」と弾かれたように、部屋から出ていった。
「七海さん、大丈夫ですか?」
総司は七海の飲みっぷりはよく知っているが、一気飲みなど今まで見たことはない。
「大丈夫。ほら、二人も飲んで」
七海は促しながら、空になったジョッキにいたずらに触れた。指先に水滴が付く。一気にアルコールを摂取したため、七海はじんわりと頭の中が熱くなるのを感じていた。
総司とイオの関係については、七海は「収まるところに収まった」という感覚だった。目の前の二人は、互いに心を許し合っているように見える。それに、二人の関係を否定できる立場の人は、誰一人としていないと、七海はわかっていた。
「正直、私がどうこういう話じゃないし、二人、というか、イオくんが幸せなら、私は何でもいい」
七海の言葉に、総司とイオは顔を見合わせ、ほっとしたように表情を柔らかくした。
「まぁでも、飲まなきゃやってられないわよ」
続いた言葉は、七海の本音だ。キャパオーバーの頭で、グダグダ考えても仕方がない。今日は酒に溺れることに決めた七海だった。
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