家に帰ると推しがいます。

11.初夜

2

　イオの問いに、総司は理由を尋ねたかった。しかし、それが出来なかった。なぜなら、カウンターの下で、イオの手が総司の手に触れたからだ。総司は思わず手を引こうとしたが、イオは手を掴んで、離さない。

「イオくん……！」

　総司は周囲の目を気にして、小さく、けれど力強く、イオの名前を呼んだ。しかし、イオの手は離れようとしない。総司の心配に反して、周囲は二人を気にする様子はなく、盛り上がっていた。

「俺、総司さんと……」

　イオは真っすぐに総司を見つめる。総司はその視線で理解した。繋いだ手から総司の全身へと、期待の熱が広がっていく。本能は正直だ。

　総司だって、先に進みたい気持ちはあったが、イオのことを大事にしたい気持ちが勝っていた。しかし、今、イオの方からせがまれて、男として情けなくも感じていた。本来ならば、スマートにエスコートしなければならないのは総司の方なのだ。総司は覚悟を決める。

「これ食べたら、出ようか」

　総司がイオの耳元で囁くと、イオは小さく頷いた。







　居酒屋を出た二人は、近くのラブホテルへ入った。
　総司としては、ちゃんとしたホテルが良かった。しかし、何の準備もしていない手前、目的に応じたホテルのほうが都合がいいと考えた結果だ。

　選んだのはシンプルな部屋だ。備えつけられているゴムやローション、アダルトグッズの販売機等を無視すれば、さながらビジネスホテル。ムード作りの間接照明が、部屋をうっすらと照らす。
　総司はベッドに腰かけて、イオを待っていた。シャワーを浴びたのは総司が先で、今はイオの番だ。バスルームからシャワーの音が聞こえる。

　着慣れないバスローブに身を包み、総司は気持ちを落ち着けようと、何度も深呼吸をしていた。
　総司は女性経験はあるものの、男性とセックスするのは初めてだ。男同士での仕方は、イオと付き合い始めてからというもの、色々調べていた。シミュレーションはばっちりだ。

　しかし、それ以上に、総司は推しとセックスするということに、興奮していた。手の遠い存在だったイオと同棲し、付き合い、そしてキスまでは進んだ。身体や手に触れたことはあるが、所詮ボディタッチまで。それらですら、緊張と興奮で、どうにかなってしまいそうだったのに、今からセックスするとなると、己がどうなるかわからなかった。努めて冷静であれ、紳士であれと自らに言い聞かせる総司だ。

　テレビでも見て気分を変えようかと、総司が思った瞬間、バスルームのドアががちゃりと開いた。思わず視線をやると、バスローブを着たイオが立っていた。