マイダンジョン育成中

どらいあい

文字の大きさ
67 / 100

第67話

しおりを挟む
 月城さんは唖然としていた。
 それはそうだろう、ダンジョンゲートを潜ったその先にはテントがあったり車が停めてあったりしてるのだから。

 そしてアヤメのやつが晩御飯を用意して待ってたのだから。
 もっともアヤメは料理はしてない、事前にハルカが用意してたカレーを時間が来たら先に食べてていいから温めてくれと頼んでおいたのだ。
 私が以前用意した素人づくりの窯も大活躍である…焦げ付かせてりしてないよね?

「こっここが本当にダンジョンなんですか?」

「そうよ、ここは本当にダンジョン なのよ~」

「アンジェさん、信じられないかもだけど本当にそうなのよ」

 月城アンジェさんか…本当にハーフさんなんだね、なんか格好いい。
 相変わらず唖然とする月城さんを工藤さんが手を引いて連れていく。

 あとは親しいという彼女に任せておけば問題ないだろう。
 お腹も空いてきたので私たちも晩御飯にすることにした。

 今回の晩御飯はハルカのカレーである、家の方でハルカが作ったカレーを私の釜の方で温めていたやつだ。
 もちろん白米は家の方に置いてあるジャーからハルカと私が茶碗によそって持ってくる。
 流石にカレーだけだと寂しいのでハルカはサンドイッチとサラダを用意していた。

「それではいただきます」

「「「「いただきます」」」」

 ハルカのカレーは美味しい。
 まあカレーというのは基本的に不味くする方が大変な気もするが…。
 とにもかくにもカレーは美味しくサンドイッチもサラダもペロリと平らげてしまった。

 他のみんなを見ているとみんな同じように食べている。
 4人でカレーの鍋を空にして晩御飯は 終了。
 満腹の私にハルカが話し掛けてきた。

「ヒロキさん、少しいいかしら?」

「どうかしたの?」

「ヒロキさんが話をしていたあの黒山という男だけど…」

「彼がどうかしたのか…」

 確かにヤツはこのままでは終わらないかもと思わせる嫌な気配を持っていた、ハルカの気がかりも納得だ。

「あのダンジョンセンターというところで働いてる人間でもあの男は立場が上の人間ということで間違いないのかしら?」

「う~んどうだろう…組織の中から見ればたかが知れてる地位の可能性もあると思うけど、困った組織だとああいうのが案外上にいたりするからね…それがどうかしたのかい?」

「いえっ念の為に今後対策の措置もしておこうかと思って」

「対策なんてできるの? それが本当なら頼んでおきたいけど」

「分かったわ、私に任せて頂戴」

 ハルカはそう言うとノートパソコンを手にしてワゴン車の方に向かった。
 彼女が1人で動くという時は余計なことをしても邪魔になるだけという可能性が高い、ここは任せよう。

 ここはハルカを信用するしかないな。
 アヤメと工藤さんは月城さんを連れて 夜の砂浜へと行っていた。

 夜の海なんて1人で行くとちょっと怖いような気もするけど、他に人がいると案外神秘的で楽しいものだ。
 とりわけ我がダンジョンの夜空はとても美しいと自負している。
 なんだか気になったので少し私も砂浜の方に行ってみた。

「…本当に綺麗ですね」

「私も最初にこれを見た時はその美しさに圧倒されたものよ」

「2人とも大げさね~単なる星空じゃないの」

 アヤメはちゃちゃを入れながらもどこか胸を張っていて自慢げだ。
 工藤さんそして月城さんは我がダンジョンの満天の星月夜《ほしづくよ》を見ていた。

 このダンジョンの夜空に月はない。
 それなのに海には満ち引きがあり砂浜には波の音が響いている。
 その理由は定かではないがここら辺も私の意志とやらがダンジョンとに影響をしているからなのだろうか。

 いや今はそんなことどうでもいいだろう。
 大事なのは我がダンジョンに案内した月城さんはあの宝石をばらまいたような美しい星空を静かにそして笑みを浮かべて見上げているという事実だ。

 人間という生き物は何が嫌で何が楽しいか、それは個人個人で違う。

 何が我慢できて何ができないかも然り、だからこそストレス社会と一言で言ってもそこで背負っているストレスの量とは決して他の人間が理解できるようなものではないのだ。

 本当にきつかった時、本当につらかった時、そこで誰にも何も相談することができない、そんな人間がいる。
 私はそうだった。

 そんな時、人が誰もいない場所で静かに時を過ごす。
 或いはこんな美しい夜空を見上げれば それがどれだけ心を救ってくれるか。
 私はそれも知っている。

 工藤さんの事も月城さんの事も私は大して知らないだろう。
 だがそれでもただ静かで美しい景色をただ眺めているだけで案外明日も頑張ろうかなと思えてしまうのが人間というものだと思っている、多分。

「亜梨沙さん、一河さん。ありがとうございます」

「どうしたんですかいきなり…」

「最初に亜梨沙さんから話を聞いた時はとても信じられませんでした、ストレス発散にダンジョンに行こうだなんて」

 だろうね、ダンジョンって基本的に命がけで探索するような場所だから。
 どれだけ強い探索者でもそんな理由でダンジョンに行こうなんて基本的に言わないし思わないよ。

「…けどこのダンジョンは今まで私が見てきたダンジョンとは全く違う。こんなダンジョンがあるなんて思いませんでした」

「確かに、私も全く同じ感想を持ったわ」

「ならこのダンジョンをここまで大きくしたワタシとハルカとヒロキ君に感謝するといいわ!」

「はいこのダンジョンに来れて良かったです」

 月城さんは満面の笑みを浮かべてそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

処理中です...