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19 楽しいばかりじゃないぞ。
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「ハチ、レオナルドにコーラルさん取られてもいいのか?」
「ぬ…なっ!?」
持っていたナイトの駒をうっかり落としたハチは、そのままゲームを放棄した。
「いくらやっても上手くならないなぁ。でも恋愛はそうはいかない。ルールもないし、あったとしてもルール通りにはことは運ばない。ましてやルールのあるゲームさえ下手くそだ…ハチ、コーラルさんはハッキリ言って難しいぞ?」
「わ、わかってるよ…。」
不貞腐れながら本棚に歩み寄り、恋愛小説の背表紙を指でなぞる。コーラルに出会ってから読み出したジャンルではあるが、全く役には立たなかった。
「コーラルさんとは連絡は取っているのか?」
「…手紙を書いたけど、」
「うん。」
「出してない。」
「バカか。」
「だ、だって…。」
ピンポーン
呼び鈴が鳴りしばらくするとアイリスが部屋にやって来た。
「キアヌさん、と、蜂太郎くん。あ、あの、コーラル様が。」
え。
するとアイリスの背後からずいっとコーラルが顔を出した。グレーの学生服に身を包んだコーラルは、いつもと違い幼く見えた…いや、年相応に見えた。いつもが大人っぽ過ぎるのだ。新鮮な装いに男二人は惚けてしまった。
「…ちょっと。キアヌさん。…キアヌ!!」
「へっ?…あ、あぁ。い、いらっしゃい。」
アイリスに怒鳴られ情けないところを見せてしまったキアヌはアイリスに連れられ(引っ張られ)部屋を後にした。(リビングでボコボコにされるのだろう。)
「ご、ごめんなさい。お家を伺ったらこちらにいると聞いて。ご連絡もなしに訪ねて来てしまって…その、えっと…、」
いつもと違ってもじもじとしたコーラルさんも可愛い。が、なんの話だろう…多分、
「この前の、レオナルドのことなんだけど。」
ですよね。
「ぷ、プロポーズなんてびっくりしたよ…。コーラルさんにそんな人がいたなんて、」
コーラルさん。
「ち、違うのよ。レオナルドは幼馴染というか。あのプロポーズだっていつもの冗談だわ。」
レオナルド。
「冗談で、あんな大勢の前で言うかなぁ…?はははっ、」
「そ、そういう人なのよ。」
どういう人だよ。
「こ、コーラルさんは黙ってたけど…な、なんて返事をしたの。」
「返事って…。そんなのしてないわよ。」
「プロポーズを受けないってこと?」
「…どういうこと?受けて欲しいってこと?」
そんなわけないだろ。
「ぼ、僕なんかより気が知れていそうだし、五花の良いところの息子さんなんだろう?良いお仕事もされているみたいだし。僕はまだ学生だから、」
「気が知れてる仲ではあるけど、結婚とは別問題よ。ち、ちゃんと断るわ。」
「ちゃんと断るって、まだ断ってないの。」
「え?…えぇ…。」
だって、お母様がちゃんと考えろって言ってたから。
「少しは気持ちがあるってことじゃないの。わざわざ言い訳に来ることないのに。素直に僕に交際をやめようって言えばいいじゃないか。」
「ちょっ、ちょっと!交際をやめようって…。ま、まだちゃんと申し込まれてないわ!」
なんか、イライラしてる…?
「そうだったね。まだ一回しか食事(牛丼)していないし、交際を正式に申し込んでない僕にとやかく言う資格はないよね。」
なんだよ、なんなんだよ。
「えぇ、そうね。二回目の食事(バーガー)の予定もあなたのせいでキャンセルになってムカついてたの。誘っておいて失礼な人ね、って。申し込まれる前で良かったわ。」
なら、そうその時に言えばいいじゃないか。
「なら、なんでわざわざここに来てまでレオナルドの話をするんだ?僕には関係がないよね。」
ずきっ
「…そうね。あ、あなたがいなくなったから、し、心配だったの。ひ、ひとりにして申し訳なかったわ。」
「心配はいらないよ。あの後、僕はエイミーさんとおしゃべりをしていたからね。コーラルさんも楽しんでいたみたいだし、僕も楽しかったから問題ない。」
問題、ない。
「あぁ、あの子供っぽい子ね。蜂太郎さんはああいった子がタイプだったのかしら?…良いんじゃない?お似合いよ。」
「エイミーさんは良い人だよ。コーラルさんと違って言葉は丁寧だし、」
「悪かったわね、ずけずけ言う性格で。でもね、そのエイミーさんも心の中ではわからないわよ。」
「言わなきゃいけない事と言わなくていい事もわからないような女性に言われたくないと思うよ。エイミーさんはそれがわかる。エイミーさんは僕が腹が立つようなことは言わない人だ。」
…怒ってる。
「…そう。なら、これでおしまい。始まってもないけど終わりよ。」
「あぁ。」
「エイミーさんとお幸せに。」
そう言ってコーラルは部屋を出て行った。
本当にこれで良かったのだろうか。良かったんだ、コーラルさんの言っていたことも間違いではない。交際もしてないし、レオナルドに腹を立てる義理もない。…でも。
これで良かったんだわ。エイミーみたいな女の子には私はなれない。この性格が嫌だっていうのなら、もう…無理だわ。無理…でも。
はっきりとお互いの気持ちを言ったはずなのに、すっきりとしないふたりはその夜、一睡もできなかった。
「ぬ…なっ!?」
持っていたナイトの駒をうっかり落としたハチは、そのままゲームを放棄した。
「いくらやっても上手くならないなぁ。でも恋愛はそうはいかない。ルールもないし、あったとしてもルール通りにはことは運ばない。ましてやルールのあるゲームさえ下手くそだ…ハチ、コーラルさんはハッキリ言って難しいぞ?」
「わ、わかってるよ…。」
不貞腐れながら本棚に歩み寄り、恋愛小説の背表紙を指でなぞる。コーラルに出会ってから読み出したジャンルではあるが、全く役には立たなかった。
「コーラルさんとは連絡は取っているのか?」
「…手紙を書いたけど、」
「うん。」
「出してない。」
「バカか。」
「だ、だって…。」
ピンポーン
呼び鈴が鳴りしばらくするとアイリスが部屋にやって来た。
「キアヌさん、と、蜂太郎くん。あ、あの、コーラル様が。」
え。
するとアイリスの背後からずいっとコーラルが顔を出した。グレーの学生服に身を包んだコーラルは、いつもと違い幼く見えた…いや、年相応に見えた。いつもが大人っぽ過ぎるのだ。新鮮な装いに男二人は惚けてしまった。
「…ちょっと。キアヌさん。…キアヌ!!」
「へっ?…あ、あぁ。い、いらっしゃい。」
アイリスに怒鳴られ情けないところを見せてしまったキアヌはアイリスに連れられ(引っ張られ)部屋を後にした。(リビングでボコボコにされるのだろう。)
「ご、ごめんなさい。お家を伺ったらこちらにいると聞いて。ご連絡もなしに訪ねて来てしまって…その、えっと…、」
いつもと違ってもじもじとしたコーラルさんも可愛い。が、なんの話だろう…多分、
「この前の、レオナルドのことなんだけど。」
ですよね。
「ぷ、プロポーズなんてびっくりしたよ…。コーラルさんにそんな人がいたなんて、」
コーラルさん。
「ち、違うのよ。レオナルドは幼馴染というか。あのプロポーズだっていつもの冗談だわ。」
レオナルド。
「冗談で、あんな大勢の前で言うかなぁ…?はははっ、」
「そ、そういう人なのよ。」
どういう人だよ。
「こ、コーラルさんは黙ってたけど…な、なんて返事をしたの。」
「返事って…。そんなのしてないわよ。」
「プロポーズを受けないってこと?」
「…どういうこと?受けて欲しいってこと?」
そんなわけないだろ。
「ぼ、僕なんかより気が知れていそうだし、五花の良いところの息子さんなんだろう?良いお仕事もされているみたいだし。僕はまだ学生だから、」
「気が知れてる仲ではあるけど、結婚とは別問題よ。ち、ちゃんと断るわ。」
「ちゃんと断るって、まだ断ってないの。」
「え?…えぇ…。」
だって、お母様がちゃんと考えろって言ってたから。
「少しは気持ちがあるってことじゃないの。わざわざ言い訳に来ることないのに。素直に僕に交際をやめようって言えばいいじゃないか。」
「ちょっ、ちょっと!交際をやめようって…。ま、まだちゃんと申し込まれてないわ!」
なんか、イライラしてる…?
「そうだったね。まだ一回しか食事(牛丼)していないし、交際を正式に申し込んでない僕にとやかく言う資格はないよね。」
なんだよ、なんなんだよ。
「えぇ、そうね。二回目の食事(バーガー)の予定もあなたのせいでキャンセルになってムカついてたの。誘っておいて失礼な人ね、って。申し込まれる前で良かったわ。」
なら、そうその時に言えばいいじゃないか。
「なら、なんでわざわざここに来てまでレオナルドの話をするんだ?僕には関係がないよね。」
ずきっ
「…そうね。あ、あなたがいなくなったから、し、心配だったの。ひ、ひとりにして申し訳なかったわ。」
「心配はいらないよ。あの後、僕はエイミーさんとおしゃべりをしていたからね。コーラルさんも楽しんでいたみたいだし、僕も楽しかったから問題ない。」
問題、ない。
「あぁ、あの子供っぽい子ね。蜂太郎さんはああいった子がタイプだったのかしら?…良いんじゃない?お似合いよ。」
「エイミーさんは良い人だよ。コーラルさんと違って言葉は丁寧だし、」
「悪かったわね、ずけずけ言う性格で。でもね、そのエイミーさんも心の中ではわからないわよ。」
「言わなきゃいけない事と言わなくていい事もわからないような女性に言われたくないと思うよ。エイミーさんはそれがわかる。エイミーさんは僕が腹が立つようなことは言わない人だ。」
…怒ってる。
「…そう。なら、これでおしまい。始まってもないけど終わりよ。」
「あぁ。」
「エイミーさんとお幸せに。」
そう言ってコーラルは部屋を出て行った。
本当にこれで良かったのだろうか。良かったんだ、コーラルさんの言っていたことも間違いではない。交際もしてないし、レオナルドに腹を立てる義理もない。…でも。
これで良かったんだわ。エイミーみたいな女の子には私はなれない。この性格が嫌だっていうのなら、もう…無理だわ。無理…でも。
はっきりとお互いの気持ちを言ったはずなのに、すっきりとしないふたりはその夜、一睡もできなかった。
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