咲き誇る陰で、

藤岡 志眞子

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23 詰んだ、直後からの勝利フラグ

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ない、ないわ。

カンナは女子トイレの個室に篭り頭を抱えていた。同校の生徒から講義終了直後に軽蔑の目を向けられてしまったのだ。

(何でこんな奴を登壇させたんだ) 

ヲタクであることは知っていた。しかし、こんな危うい内容を発表するなんて聞いてない…!
あぁ、私の学園人生、詰んだわ。

コンコン

トイレのドアをノックする音。

「…は、はい。」

「カンナ、ち、ちょっと。」

憂鬱な気持ちのままドアを開け外に出る。目の前に親友のソフィアがいた。

「あ、あのね、狂咲女子学院の生徒達が…何か、喧嘩してるらしくって、」

…やっぱり。きっと史上最悪の講義だ、とか、気持ち悪くて鳥肌が止まらない、とか、この先交流会は辞めましょうとか言ってるんだわ…

「…カンナの従兄弟、ドッカリー様って、薔薇のコーラル様のフィアンセなの?」

……は。

「え…?い、いや…婚約はまだ…って、え?」

「コーラル様がフィアンセを侮辱するなとかって怒ってるらしくって。」

…どういう喧嘩だ。

「え、え?こ、講義が最低だった…とか、そういうことは、言って…ないの?」

「え…う、うん。(たぶん、それが発端だろうけど。)とにかく控え室で大騒ぎになってるんだって!」

「私達側の生徒がなんか言ったの?ソフィアもなんか言われたの?…言ったの?」

「私達は何も言ってないし。あっちの話で言った、言ってないはわからないの!」

「は?…じゃあ身内同士で喧嘩してるの?」

「そう、そうなのっ!とにかくカンナ、代表生徒なんだから早くっ!」

ソフィアに手を引かれて(手はちゃんと洗った。)狂咲女子学院の控え室に走りながら考えを巡らせた。
ハチが行った講義に対しての言い争いから、コーラル様が婚約者という話の飛び方は何なんだろう。

…コーラル様が庇ったのか?

(無音の騒がしさ)が伝わるドアの前で、ふたりは顔を見合わせドアノブに手を掛けた。

ガチャ

女子生徒からなるゆるい歪な輪の中に、何故か背筋を伸ばして緊張するハチがいた。その横には、薔薇のコーラル様。
ガチガチになったハチが、ゆっくりとコーラル様の正面に体を向ける。

「ぼっ、僕はコーラルさんと結婚しますっ!」


………は。

多数の女子高生の前で公開プロポーズをする従兄弟に、カンナは開いた口が塞がらなかった。しかし、

よっっしゃ!!

カンナは自身の学園生活と、権田原家の継続確定に(見えないように)ガッツポーズした。

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