咲き誇る陰で、

藤岡 志眞子

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26 婚約会見(波乱)

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「ドッカリー様、ご用意が整いました。」

レストランの支配人が仰々しくお辞儀した後、僕達家族を別室の部屋へと案内する。そこにはコーラルさん一家、薔薇のスタンウィック御一行が待っている…。
観音開きの重厚な扉が開かれ、真っ白なクロスが敷かれた長テーブルには真っ赤な薔薇の花と、白いカサブランカがめでたいとばかりに紅白に飾られている。
右側にはスタンウィック家の主人(父親)、奥様(母親)、コーラルさん、そしてお姉様が並んで待っていた。

「ほ、本日はお招き頂き誠にありがとうございます。」

「ドッカリー様、お目にかかれて光栄です。」

と、言いながらも(見たことは、ある)といった表情で、お互い深くお辞儀をした。当のコーラルさんは冷めた表情で僕達家族を一瞥した。
前にも見たことがあるような、淡いピンクのドレスに控えめな真珠のネックレス、髪型は僕好みのポニーテールだ。(可愛い)
僕は慌てて新調した紺のスーツに薄紫のシャツ、若草色のネクタイとハンカチーフを胸元に飾った。

「急な話で驚いているが…いやぁ、めでたい。実は姉のパールにも婚約者ができましてね。」

「そうなのですか。それはおめでたいお話で…お、お相手はどちらの御子息様で?」

「ゴードウィン様というのですがご存知かしら?」

姉のパールがここぞとばかり前のめりになり話に割って入っていく。イラつく…(怒)

「お父様、その話は今関係ないでしょ。」

「お、おぉ…。そうだな、今日はコーラルの席だ。失礼致しました。」

「いえ…。」

両家が向かい合わせに座り意を正す。ウェイターが上座から順にグラスに飲み物を注いでいく。僕とコーラルさんはノンアルコールのスパークリングだ。
全員に飲み物が注がれたのを確認したスタンウィック様が、グラスを持ち意気揚々と立ち上がる。みんなもグラスに手を伸ばし腰を浮かせた時、

「ちょっと待って。」

コーラルさんが乾杯を遮る。

「?な、なんだ?」

「この席は、何の席なのかしら。」

「は。何ってコーラルの婚約会食だろう。」

「婚約は、してないわ。」

「は!?」

お祝いムードから一変、急な落差に一同がどよめく。

「ど、どういうことかしら?」

僕の隣りに座る母が、不安そうな表情でスタンウィック様とコーラルさんの顔を交互に見る。

「先日…学校で催された講義で蜂太郎さんは登壇されたのですが…少々トラブルがあり、それを回避するため私の婚約者だと発言いたしました。」

「え。」

一同、ぽかんとする。

…それは言っちゃいけない話…!!

「ど、どういうことなのかしら?」

「蜂太郎さんのこと従姉妹様からのご依頼と聞きましたが、内容が適切ではなかったため上の判断がいると話し合われたのです。しかし、私の婚約者…ということなら、と目を瞑っていただけるということで。」

「は、蜂太郎、何を話したの?」

「ち、ちょっと…その、サブカルチャーについて…」

「さ、サブ…?…あ、お、ヲタクの話ってこと?」

はい。

「そ、それで罪を逃れるために私の娘と婚約したのか!?ぎ、偽装婚約ってことか!?」

スタンウィック様の顔がみるみる赤くなり、額に浮き出た血管が今にも切れそうだ。

「あ、あなた落ち着いて、」

「落ち着いてられるか!コーラルが騙されたんだぞ!?」

「騙されたなんて、そ、そんなことないわよね?蜂太郎、こ、コーラルさんとは同意の上…じゃなくて、本心で婚約したのよね?!」

…いや、どっちかというと僕が脅されたというか。

「こ、コーラルさんがそうしろ、と。」

「ふっ、ふざけるな!」

真っ赤な顔でガジャンッとグラスを手で叩き床に落としたスタンウィック様、蒼い顔をする奥様と何故か微笑むお姉様。そして鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている権田原家一同。
しーんとした部屋には居た堪れなさマックスの空気が充満する。

「…で、では…このお話は、」

「無し、ということかしら…」

両家の母親が冷静に切り出す。

これでいいんだ、これで。

「私は婚約しても構いません。」



は。



全員の視線がコーラルさんに集中する。
婚約は偽装だと放っておきながら何を言っているんだ?

「祖父母の代までは家のために婚約、結婚はあったと聞いております。伺うにあたり権田原様は…」

そう言って僕の家族をじとーっと見る。
その視線に苛立ったのか、一言も喋らなかった父が重い口を開いた。

「何を伺っているのか存じませんが、我が家はスタンウィック様とのご婚約を無理に遂行せざる負えないほど困窮はしておりません。スタンウィック様もお姉様がゴードウィン家とのご婚約が成立されているというのなら、何も無理に蜂太郎と婚約することはありませんでしょ。」

淡々と正論を言い伝える父に、(生まれて初めて)尊敬の意を感じた…。

「我が家との婚約を望まないと…?」

まだ顔が赤いスタンウィック様が椅子に座って静かに言った。

「はい。若い二人が望まないのなら…コーラル様のいう家同士の婚約は必要ありません。時代は変わりました。」

「しかし、白百合の称号がなくなるかもしれないと…私も耳にお入れしております。」

我が家がコーラルさんとの婚約を望まない意思がはっきりした途端、スタンウィック様は何かプライドが傷つけられたのか我が家の弱点をついてきた。(嫌な奴)

「構いません。称号にしがみついて人生を棒に振る方が愚かだ。」

「は。…それは私が薔薇の称号にしがみついている、と?こ、コーラルと結婚することが棒に振ることだ、と?!」

スタンウィック様の顔が再びみるみる赤くなり、今度は手元のナプキンを床に叩きつけた。(物に当たる人は嫌いだ)

「そうは言っておりません。お嬢様が心から結婚したいお相手と結婚するべきということです。蜂太郎がプロポーズをしたにせよ、断る権利はありますからね。」

ごもっとも。

「コーラル、本当に蜂太郎さんと結婚、したいの?」

奥様に聞かれても顔を上げずに手元を見たまま黙っている。コーラルさんらしくないな…。

「蜂太郎さんは、どうなのかしら。本当にその場の流れで仰っただけなの?」

コーラルさんの背中に手を置きながら、奥様が僕に聞いてきた。

「え…。そ、それは…」

ずどん。横に座る母が見えないところで脇腹に強烈な一撃を喰らわせてきた。恐る恐る顔を見ると、ちらちらと強い眼光で何かを訴えている。

(婚約しろ)

………。

ため息を(バレないように)してから、

「ぼ、僕はコーラルさんと…婚約したい…です。」

デジャヴ。

「コーラル様、は?」

「……私も。」

婚約の話はまとまった。
出だしの話はいらないようだったように思えるが、コーラルさんの顔を見るとにこやかな表情になっていた。


…?


権田原家、スタンウィック家、本当にスタート…か!?
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