咲き誇る陰で、

藤岡 志眞子

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33 甘い薬

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「ジャック、前妻からの資金提供はありそうなのか?」

社長室でレオナルドは手元の負債書類を見ながらジャックと話をしていた。
入社した輸入葡萄酒販売会社(ジャック・ローズ)は思っていたよりピンチにあった。ディゴリー家の当主の(懇意)でジャック・ローズの社員として働き始めたが、仕事というより負債の整理であった。
コーラルとの婚約は叶わないし、海外に飛び回ってバリバリ仕事をするつもりだったのに・・・。

「残念ながら返事もないし入金もない。」

「じゃあどうするんだ?」

「ニコールの家に頼んだ。全額はさすがに無理だが当面は大丈夫だろう。・・・何とかなる。」


ニコール。ジャックの姉で金持ちの家と結婚して、そろそろ五人目の子供が生まれると聞いている。


「それでもまだ相当残ってるんだろ?在庫をなんとか売って返済の足しにならないのか?」


するとジャックはふっと馬鹿にしたような笑いを浮かべた。

「在庫?そんなものないよ。」

「ワインが売れなくて借金が膨らんだんだろ?・・・違うのか?」

「輸入葡萄酒販売なんて表向き。ワインなんて一本も輸入したことなんてないよ。」



え。



「・・・じゃあ、なんでこんな莫大な借金があるんだ?」

「国に払う金だ。」

「国?・・・何の金だよ?」

「謝罪金・・・といったところかな?」



謝罪・・・?


「ジャック・・・本当は何の商売をしてるんだ?」

「お前、悪いことした事ないんだな。・・・まぁ、俺は悪いことだとは思ってないけどね。救われる奴の方がたくさんいるしな。」

「・・・何を売ってるんだ。」

「ポアルラ、って聞いたことないか?」



ポアルラ。


依存性、中毒性が強い違法薬物。Sランク薬物で所持、輸入した場合即有罪、使用した場合は更生施設強制入所の実刑判決確定の劇薬だ。


「ポアルラを輸入して、販売してなんで捕まらないんだ?」

「俺はな、こう見えても向日葵とは仲が良いんだ。」

「は。」

「金払ったら目を瞑る。優しいよなぁ。」

「向日葵王も、ポアルラをやってるのか。」

「王様はストレスがさぞお有りなんでしょうねぇ。」

不適な笑みを浮かべたまま、ジャックは部屋を出て行った。

俺はとんでもないことに巻き込まれている・・・・・。
レオナルドの身体からは冷や汗が止まらなかった。

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