咲き誇る陰で、

藤岡 志眞子

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38 羽ばたきの降格

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「フローラの販売承認、同時に当院での処方についての承認会議を開始する。処方に関しては医師の厳重なる判断が必要である。」

「副作用や依存症状が今まで使用されていた鎮痛薬に比べて強い・・・しかし効き目も大きい。末期患者や緊急性のある患者には適用したいね。」

「そうですね。」

院内会議でフローラの使用について意見交換がされていた、といってもほぼ決定案件である。と共に、キアヌの白百合(銀)の称号も約束されたようなもの。これで権田原家、病院の経営は安泰である。五人(今年もうひとり増える予定)の子供と恐い妻もいる。(蒲公英)になるなど口が裂けても言えない・・・良かった、本当に良かった。
安堵のため息を漏らしたキアヌに理事長であり継父であるライオネルが話しかけてきた。

「キアヌ、今回の話・・・キアヌが持って来たと聞いたが。」

「は、はい。わたしのところに来ているMRに勧められまして。先程あったように安全、とは言い切れない薬ではありますが使いようによっては患者の為になる薬です。」

「・・・そうだな。痛みに苦しむ患者は見ていられないしな。」

そう言って誰もいなくなった会議室の長テーブルにふたり向かい合って座った。午後の強い日差しが眩しく射している。

「向日葵王様になんて言われたんだ。」

え。

「ポアルラ、だろ。」

「・・・・・・。」

「王様の(お好きな)薬だ。医療と銘打って販売を寛容化し、そのうち合法だといって民間にも広まるだろう。キアヌ、そのきっかけをつくったのはお前になるんだぞ。」

「そ、そんな。私は治療薬として許可を得た訳で・・・それに、これはお父さんのためでもあるんです。」

「白百合の(銀)のためか。」

「蒲公英になるわけにはいきません。」

「この先どうなるかわからんが、さっき言ったことの通りになるんだとしたら、一族ひとつが(蒲公英)になった方が良いと思わないか?(蒲公英)の経営する立派な病院、医師はたくさんいる。称号にこだわることなんか、」

「お父さん、お父さんはもうご年齢で子供たちも立派に育ちました。ですが私はまだまだです、これから生まれてくる子供もいるのです。この病院も今より立派に、大きくしていきたいんです!」

「薬に溺れた道楽な考えしか持てなくなった、王様のような患者ばかり診ることになってもか?」

「・・・・・。」

「まだ、私からは正式には許可は出していない。他の役員は判を押したが私が押さねば処方、販売承認は許可されない。キアヌ、どうするか、どうしたら良いかよく考えなさい。」

ライオネルは静かに席を立ち会議室から出て行った。
王様のような、薬に溺れた患者ばかり。恐ろしい光景だろう、医師本来の技量は生かせない職場になるだろう。そして、この国は崩壊するだろう。手元にあるフローラの説明書。パラパラと捲ってからぐしゃっと丸めて、捨てた。






(城)

「あの若造、ポアルラの承認印を押さなかった、と!?」

結果を聞いた向日葵王が激昴した。厳選して悪評が出ないような弱みのある医師を選び、交換条件を出して納得させたと思ったのに・・・!これでは溺愛するポアルラが、ポアルラがぁ・・・!

王様の逆鱗に触れたキアヌは即(蒲公英)になり、父親のライオネルは白百合の(銅)に格下げされた。蜂太郎ももちろん同じである。さぁ、どうする?どうなる?





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