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number.33 Brain Number
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出産予定日十日前。絵菜に変化が現れ始めた。
おしゃべりだったのが無口になり、ベビー用品には興味を示さず、リウの冗談にも笑わなくなった。
冬なのに身体中虫に刺されたような湿疹が出てきて掻きむしる。引っ掻き傷は治らず酷くなる一方。発熱も頻繁になり、母体に負担がかかり始めていた。
Brain number の影響か…?
然に報告して、絵菜を玲子に会わせないようにしようと画策した。しかし、予定日三日前、病院に入院することになり病院を変えようとしていた時、玲子が病室にやって来た。
「絵菜、とうとう赤ちゃんに会えるわね。頑張ってね。」
「……ありがとう。頑張ります。」
「あら、かたいわね。もっとリラックスして。赤ちゃんに伝わるわよ。」
「玲子、絵菜を安静にさせないと、」
「同じ女がいた方がいいわよね?大丈夫よ、生まれるまでついていてあげるわ。」
まずい。
「お母さん、心配だからそばにいて。」
「そうよね、絵菜。何か食べたい物とかある?」
そう言いながら絵菜に触れた。瞬間、玲子の動きが止まる。
(?)
「玲子…?」
目を開けたまま固まっている。みるみるうちに顔色が悪くなり小刻みに震え出した。そして、倒れた。
「玲子!」
倒れた玲子を抱える。…息をしていない。既に硬直が始まっていて玲子の体はかちかちになった。
どういうことだ?
然に連絡をすると絵菜に触るな、とだけ言われて切れた。
数分後、病室に然が来た。
「どういうことだ?」
「小皆教授の、遺言だよ。」
「遺言…?(きっかけ)、か?」
「それだ、オレの考察だが…、」
小皆教授は個性を潰すことを特に嫌った。絵菜の修復力が個性だとしたら、Brain numberの効果で修復力が低下、消滅し個性を潰したことになる。
それが、(きっかけ)。
そしてそのきっかけで発動したのが、この結果だ。
「Brain numberを飲ませた者が、触ったら死ぬ、のか?」
「…わからない。玲子が死ぬ前にオレ達が触っても何もなかったが、今は…オレ達も触ったら死ぬかもしれない。」
ベッドに座りぼーっと窓の外を眺める絵菜が、(兵器)に…?
「じゃあ、どうするんだ…出産はどうするんだ?!触れないのなら誰も介助ができない…。」
「生まれた子供も、触れない。」
「効果は、Brain numberは体内から消えるのはどれくらいかかるんだ?」
「そんなことより、触られたらみんな死んでしまう。みんな、全員だよ!」
「ゔっ……」
絵菜が苦しみ出した。思わず駆け寄り肩に手を置こうとしたリウを止める。
「触るな!」
「…っ! …どうすればいいんだ?!」
看護師も呼べない。外に出すこともできない。そうこう考えているうち絵菜に背中を向けていたリウが、かたまった。
「……リウ?」
玲子と同じようにリウが倒れ、動かなくなった。絵菜はベッドから立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。
「絵菜、絵菜!お願いだから動かないでくれ!絵菜、え…」
病室を出て廊下を歩く看護師に触れる、患者に触れる、見舞客に触れる。処置室に行き医者に触れる、新生児室に行って……。
半日後、病院内はしん、と静まり返っていた。
突然来た陣痛に苦しみながら、人が転がる病室で、ベッドの上でひとり出産した。生まれた子供は男の子。
「………。」
何の感情もなく生まれた子供を抱き上げる。赤かった身体は紫色になり、泣き声が止んだ。臍の緒で繋がれたままの子供を抱えてスタッフルームに向かう。デスクにあったハサミで臍の緒を切る。途端、陣痛に似た痛みが再び起こりしゃがみ込んだ。床が血だらけになる…胎盤の横に子供を置く。そのまま病室に戻り眠った。
目を覚まして、倒れている人から着られそうな衣服を剥ぎ取り、着替えて外に出る。朝方のひんやりした空気…寒い。
玄関ホールに転がる人からコートを剥ぎ、着る。大通りに出て歩く。すれ違いざまぶつかった人が倒れる。それを見た人が叫び声を上げて近寄る。そしてその人も私に触れて倒れる。救急車やパトカーがたくさん走っている。警察官が話し掛けてきたが、私に触れて同じように倒れた。
行く当てのないまま歩き続け、行き交う人に触れ続け、見慣れた建物に入る。
エレベーターに乗り、廊下を歩く。行く先々で人が倒れていく。
(小皆研究室)
ドアを開け中に入る。懐かしい匂い。
更に奥に入り、デスクの前に座る。パソコンを起動しモニターを見る。
ピコン
(8720-41)
(:87)
(::Code name Brain Number.87)
(:::Brain Number.87)
(::::mission start)
(:::::Brain Number.87 ok)
(::::::Brain Number. start)
(:::::::Brain Number.87 start)
(二年後)
「ママ、抱っこ、」
小さい男の子が母親に抱っこをせがむ。
あの時生まれた赤ちゃんは元気に育っている。
二年前。膜がかかった記憶が鮮明になり、周囲を見渡すと動いている人は誰もいなくなっていた。病院に戻り産んだ子供を拾い上げると息を吹き返した。
私と赤ちゃんだけ。数十日…ふたりで過ごした。暫くして何処からともなく人が集まり始めた。
「名前は。」
「…Brain Number.05」
「Brain Number.310」
「Brain Number.810」
「Brain Number.340」
「…私は、Brain Number.87」
気が付いたら二十人くらい集まっていた。
みなそれぞれ得意分野があり分担して仕事をした。更に人は集まり続け街は賑った。
電気、水、燃料もみんなが使える分は確保できた。
住居などを整えてくれる者がいたので雨風を凌げる環境も整った。
食料も作る、育てるに長けた者が担った。
体調不良の者は私が治した。
そんな私達を統括してくれる頼もしい者も現れた。
子供も生まれ人口が増えていく。
争いのない平和な暮らし。しかし、笑顔はない。
(終わりかな。)
ソーラーバッテリーの電源を入れてパソコンを起動する。
(8720-41 Brain Number.87 end)
「………。」
思い留まり最後の単語を消し、入力し直す。
(start)
ピコン
(Re start)
……前にもあったことなのだろうか。
ヴゥーン……
(Reset? Yes or No )
(Yes)
ピーーーーー
Brain Number. Start
モニターに最後に映った文字だった。
(完)
おしゃべりだったのが無口になり、ベビー用品には興味を示さず、リウの冗談にも笑わなくなった。
冬なのに身体中虫に刺されたような湿疹が出てきて掻きむしる。引っ掻き傷は治らず酷くなる一方。発熱も頻繁になり、母体に負担がかかり始めていた。
Brain number の影響か…?
然に報告して、絵菜を玲子に会わせないようにしようと画策した。しかし、予定日三日前、病院に入院することになり病院を変えようとしていた時、玲子が病室にやって来た。
「絵菜、とうとう赤ちゃんに会えるわね。頑張ってね。」
「……ありがとう。頑張ります。」
「あら、かたいわね。もっとリラックスして。赤ちゃんに伝わるわよ。」
「玲子、絵菜を安静にさせないと、」
「同じ女がいた方がいいわよね?大丈夫よ、生まれるまでついていてあげるわ。」
まずい。
「お母さん、心配だからそばにいて。」
「そうよね、絵菜。何か食べたい物とかある?」
そう言いながら絵菜に触れた。瞬間、玲子の動きが止まる。
(?)
「玲子…?」
目を開けたまま固まっている。みるみるうちに顔色が悪くなり小刻みに震え出した。そして、倒れた。
「玲子!」
倒れた玲子を抱える。…息をしていない。既に硬直が始まっていて玲子の体はかちかちになった。
どういうことだ?
然に連絡をすると絵菜に触るな、とだけ言われて切れた。
数分後、病室に然が来た。
「どういうことだ?」
「小皆教授の、遺言だよ。」
「遺言…?(きっかけ)、か?」
「それだ、オレの考察だが…、」
小皆教授は個性を潰すことを特に嫌った。絵菜の修復力が個性だとしたら、Brain numberの効果で修復力が低下、消滅し個性を潰したことになる。
それが、(きっかけ)。
そしてそのきっかけで発動したのが、この結果だ。
「Brain numberを飲ませた者が、触ったら死ぬ、のか?」
「…わからない。玲子が死ぬ前にオレ達が触っても何もなかったが、今は…オレ達も触ったら死ぬかもしれない。」
ベッドに座りぼーっと窓の外を眺める絵菜が、(兵器)に…?
「じゃあ、どうするんだ…出産はどうするんだ?!触れないのなら誰も介助ができない…。」
「生まれた子供も、触れない。」
「効果は、Brain numberは体内から消えるのはどれくらいかかるんだ?」
「そんなことより、触られたらみんな死んでしまう。みんな、全員だよ!」
「ゔっ……」
絵菜が苦しみ出した。思わず駆け寄り肩に手を置こうとしたリウを止める。
「触るな!」
「…っ! …どうすればいいんだ?!」
看護師も呼べない。外に出すこともできない。そうこう考えているうち絵菜に背中を向けていたリウが、かたまった。
「……リウ?」
玲子と同じようにリウが倒れ、動かなくなった。絵菜はベッドから立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。
「絵菜、絵菜!お願いだから動かないでくれ!絵菜、え…」
病室を出て廊下を歩く看護師に触れる、患者に触れる、見舞客に触れる。処置室に行き医者に触れる、新生児室に行って……。
半日後、病院内はしん、と静まり返っていた。
突然来た陣痛に苦しみながら、人が転がる病室で、ベッドの上でひとり出産した。生まれた子供は男の子。
「………。」
何の感情もなく生まれた子供を抱き上げる。赤かった身体は紫色になり、泣き声が止んだ。臍の緒で繋がれたままの子供を抱えてスタッフルームに向かう。デスクにあったハサミで臍の緒を切る。途端、陣痛に似た痛みが再び起こりしゃがみ込んだ。床が血だらけになる…胎盤の横に子供を置く。そのまま病室に戻り眠った。
目を覚まして、倒れている人から着られそうな衣服を剥ぎ取り、着替えて外に出る。朝方のひんやりした空気…寒い。
玄関ホールに転がる人からコートを剥ぎ、着る。大通りに出て歩く。すれ違いざまぶつかった人が倒れる。それを見た人が叫び声を上げて近寄る。そしてその人も私に触れて倒れる。救急車やパトカーがたくさん走っている。警察官が話し掛けてきたが、私に触れて同じように倒れた。
行く当てのないまま歩き続け、行き交う人に触れ続け、見慣れた建物に入る。
エレベーターに乗り、廊下を歩く。行く先々で人が倒れていく。
(小皆研究室)
ドアを開け中に入る。懐かしい匂い。
更に奥に入り、デスクの前に座る。パソコンを起動しモニターを見る。
ピコン
(8720-41)
(:87)
(::Code name Brain Number.87)
(:::Brain Number.87)
(::::mission start)
(:::::Brain Number.87 ok)
(::::::Brain Number. start)
(:::::::Brain Number.87 start)
(二年後)
「ママ、抱っこ、」
小さい男の子が母親に抱っこをせがむ。
あの時生まれた赤ちゃんは元気に育っている。
二年前。膜がかかった記憶が鮮明になり、周囲を見渡すと動いている人は誰もいなくなっていた。病院に戻り産んだ子供を拾い上げると息を吹き返した。
私と赤ちゃんだけ。数十日…ふたりで過ごした。暫くして何処からともなく人が集まり始めた。
「名前は。」
「…Brain Number.05」
「Brain Number.310」
「Brain Number.810」
「Brain Number.340」
「…私は、Brain Number.87」
気が付いたら二十人くらい集まっていた。
みなそれぞれ得意分野があり分担して仕事をした。更に人は集まり続け街は賑った。
電気、水、燃料もみんなが使える分は確保できた。
住居などを整えてくれる者がいたので雨風を凌げる環境も整った。
食料も作る、育てるに長けた者が担った。
体調不良の者は私が治した。
そんな私達を統括してくれる頼もしい者も現れた。
子供も生まれ人口が増えていく。
争いのない平和な暮らし。しかし、笑顔はない。
(終わりかな。)
ソーラーバッテリーの電源を入れてパソコンを起動する。
(8720-41 Brain Number.87 end)
「………。」
思い留まり最後の単語を消し、入力し直す。
(start)
ピコン
(Re start)
……前にもあったことなのだろうか。
ヴゥーン……
(Reset? Yes or No )
(Yes)
ピーーーーー
Brain Number. Start
モニターに最後に映った文字だった。
(完)
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