灯の芳香

藤岡 志眞子

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1 いちご組

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幼稚園三歳のクラス(いちご組)で、安森 柑奈(やすもり かんな)と、橋川 真珠(はしかわ しんじゅ)は出会った。
柑奈の家は会社員の父親と専業主婦の母親。上に二つ上の兄がいて四人家族。
真珠の家は大手酒造メーカーの役員である父親と、デザイナーの母親の三人家族である。
お互いの家は同じマンションで柑奈の家と真珠の家は隣り同士であった。
同い年で家が隣り同士。同じ幼稚園に通い、幼馴染になるのも必然のような条件。
ただ、本当に必然だったのかそれとも偶然だったのか。

「かんなちゃん、おはよう」

「しんじゅちゃん、おはよう!」

お揃いの水色のスモックに黄色い通園帽子と通園鞄。

「…しんじゅちゃんのおくつ、かわいいね。」

真珠の足元を凝視する。ピンク色にビジューの付いたスニーカー。視線を自分の足元に動かす。白くて味気のない一般的なスニーカー。

「ママがきのう買ってくれたの。」

「あら、本当に可愛いわね。真珠ちゃんによく似合うわ。」

「靴屋さんで散々ねだられちゃって…。根負けして買ったんだけど今日履いて行くって。入園の時の靴、まだ履けるのに…まったく。」

そう言いながらも娘を褒められまんざらでもない表情の真珠の母親、橋川 恵里菜はデザイナーとして今も現役でバリバリ働くキャリアママだ。夫も大手酒造メーカーの役員で、要はお金はある。
対して一般企業の会社員の夫と専業主婦の安森家は、柑奈の上にもうひとり子供もいるため、欲しいと言われたからと言ってそう易々とは買ってあげられない。羨ましいやら惨めやらで、安森 有紗は苦笑いを浮かべた。

(恵里菜さんのお家、お金持ちなのになんで同じマンションなのかしら…。)

橋川家と安森家は同じマンション、同じ階、隣り同士に住んでいる。橋川家の収入を考えるともっと良い所に住めそうなものなのに。
それに幼稚園だって私立のお嬢様園にだって通えるはず。有紗は不思議に思いながらも恵里菜を見てみる。
服装は一般的。アクセサリーやバッグ、靴も私と大して変わらない。娘に少し甘いだけで浪費を好まないタイプなのかもしれない。
お互い引っ越して来て数週間。幼稚園で出会ってまだ数日。いろいろ探りを入れながら仲良くなれたらいいな、と有紗は笑顔で恵里菜と真珠、娘の柑奈に手を振った。



「今日隣りの安森さんに会ったんだけどね。とても感じが良くって仲良くなれそうなのよ。真珠も柑奈ちゃんと仲良しだし。」

「へぇ…それは良かった。隣り同士の家だし仲良くしておいて損はないしな。小学校、中学校も一緒になる訳だし、」

「…え?中学校は私立に入れるって言ってたじゃない。」

「そうだっけ?……今回のお受験でお金も遣ったし、俺達も真珠も疲れたじゃないか。受験は高校までいいんじゃないか?」

「嫌よ!真珠には良い教育を受けさせたいのよ。何度も同じ事言わせないで。」

「公立の学校だって悪くないぞ?実際俺は小、中学公立だ。恵里菜は小学校から私立だったからわからないんだよ。」

「えぇ、わからないわ。イジメや家庭環境を顧みない学校なんて信用できないわよ。…あなたの希望で小学校は公立で構わないってなったけど…中学受験は譲れないわ。」

「……わかったよ。十年後、十年後な。」

「…受験は小学校入ってから始まるのよ。」

そう言って恵里菜はリビングを出てドアを強く閉めた。
凌哉はダイニングテーブルに置いてあったノートパソコンの電源を入れる。銀行のウェブアカウントにアクセスし、残高を参照した。
お受験のために通った塾、習い事、まだ売れていない以前住んでいた一軒家のローン。そして、恵里菜に内緒で作った借金の返済。

働いても働いても。

パソコンを閉じ、頭を抱えた。
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