灯の芳香

藤岡 志眞子

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迷惑な夢

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「蒼兄は平社員でしょ。いなくったって会社は痛くもかゆくもないわよ。」

数年ぶりに集まった家族会議は予想通りで、性格と言動のキツい朱音を引き金に男どもの怒りに火が付いた。

「朱音、お前も会社に勤めていたのならそんな無責任なことは言うなよ、それに朱音と違って蒼汰は家族がいるんだぞ?」

今にも血管が切れそうな父親が何とか感情を抑えて意見した。

「務めた経験の上で言ってるのよ。代わりなんていくらでもいるわ。蒼兄の稼ぎくらいいくらでも稼げるわ。私のプランでは倍・・・いや三倍は稼げる。何人もいる頭の固い奴らの言う事聞いて働くよりこっちの方が断然良いに決まってる。」

お前にこき使われる方が断然嫌なんだが。

実家の稼業はカミツレ(カモミール)というハーブを栽培する農家である。主に製薬や製菓、調味料として使用され様々な製造会社に卸している。元は有紗達が住んでいる地域で薬種問屋をやっていたらしいが、蒼汰の祖父の代で薬種問屋を辞め、扱っていた薬草の栽培に移行したらしい。だんだんと種類を狭めていき、今ではカミツレと他何種類かの栽培しかしていない。大手の会社との契約で何とかやってはいけてるものの、外国産などの脅威により販売量や価格は年々減少している。

「で、朱音のプランとやらはどういったものなんだ。」

ふふん、と鼻を鳴らし得意そうにタブレットをテーブルに置く。皆が視線を注ぐ中、難しい業界用語を織り交ぜながらもっともらしい話を披露した。わかるようなわからないような話を聞き、蒼汰は口元に手をやる。これは・・・。

「まぁ、今のままでいいわけないとは思っていた。けど、朱音の話はうますぎるし、もっと調べる必要はある。」

「なんだ、蒼汰は乗り気なのか。」

「・・・やってみて損はない、と思う。」



まじか。



有紗達は引っ越しすることになった。
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